スライドドアはたしかに便利だし、売れ続けているのも事実。ただそれを必要としない層も確実に存在するため、ムーヴがスライドドアだけに絞った判断はどうなのか!? 値段も上昇したし……ダイハツの答えはこれでいいのか!?
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカーWeb編集部
マジでスライドドア一本でいいのか!? 新型ムーヴの割り切りは大丈夫?
■マジかよ……新型ムーヴの発売時期が未定のまさか
現行モデルは登場から今年で9年目……早く新型のデビューを!!
今は軽自動車が新車として売られるクルマの40%近くを占めて、競争も激しい。そのために軽自動車は、一部の車種を除くと、フルモデルチェンジの周期が比較的短い。発売後、6年前後で新型に切り替わる車種が多いが、ダイハツ 現行ムーヴは2014年の末に登場しており、今年で9年目に入る。
このムーヴがいよいよフルモデルチェンジを受ける。販売店では、2023年5月中旬から、価格を明らかにして予約受注を開始した。この時点では「6月19日に発表して、7月に入ると生産と納車を開始する」と説明していた。
ところが今は「先般の側面衝突試験を巡る不祥事の影響で、スケジュールが延期された。いつ正式に発表されるか分からない」という。
■初のスライドドア採用!! 車内スペースはキャンバス同等に
新型ムーヴは全車スライドドアに!! ボディサイズは原則現行モデルと同等となる見込み
新型ムーヴで注目されるのは、販売店の資料によると、全高を1655mmに抑えながらスライドドアを装着することだ。ダイハツには既にムーヴキャンバスがあり、全高は新型ムーヴと同じ1655mm(4WDは1675mm)で、スライドドアを装着する。
新型ムーヴのスライドドアの開口幅は595mmで、ムーヴキャンバスと同じ数値だ。つまり新型ムーヴは、ムーヴキャンバスをベースに開発され、車内の広さも同程度になる。
インパネのデザインも、新型ムーヴは上下方向に厚みを持たせてボリューム感を強調するが、ATレバー、エアコンなどのスイッチ、空調吹き出し口などの基本レイアウトは共通だ。
■スライドドアだらけのダイハツ!! それでもムーヴに採用したワケって!?
新型ムーヴで気になるのは「スライドドア装着車をそこまで増やして、ダイハツ車同士で需要を食い合わないのか?」ということだ。
現時点でダイハツは、スライドドアを装着する車種として、タントとムーヴキャンバスを設定する。新型ムーヴまでスライドドアを装着すると、主力車種はすべてスライドドアになる。
逆に全高が1600mm以上で横開きドアを装着する車種は、SUV風のタフトと、売れ行きの下がったキャストスタイルのみだ。
ダイハツが新型ムーヴにもスライドドアを採用する一番の理由は、人気の高い装備になるからだ。
ムーヴの届け出台数は、横開きドアのムーヴとスライドドアのムーヴキャンバスを合計した数字だが、設計の新しさもあって後者がムーヴ全体の60~70%を占める。
また軽乗用車の販売総数の内、50%以上が、全高を1700mm以上に設定したスライドドアを装着するスーパーハイトワゴンだ。軽自動車の開発者は「好調に売るには、今はスライドドアの装着が必須条件」と述べる。
なぜそこまでスライドドア装着車の販売が好調なのか。開発者は以下のように説明した。
「今の30歳以下の比較的若いお客様には、幼い頃からスライドドアを装着するミニバンに親しんできた方が多い。スライドドアの利便性を良く知っていて、クルマ選びの基本形にもなっている。そのために軽自動車でも、スライドドアの装着が購入条件になる。また子育てを終えてミニバンから小さなクルマに乗り替えるお客様も、スライドドアを装着する背の高い車種を好まれる」。
■キャンバスのネガ払拭!! 使い勝手大幅アップの予感
ご覧の通りムーヴキャンバスはかわいらしいデザイン。そのため女性ユーザーが圧倒という状況
新型ムーヴがスライドドアを装着する背景には、別の理由もある。ムーヴキャンバスは個性が強く、ユーザーによって好みが分かれることだ。外観ではフロントマスクは可愛らしく、リヤゲートも少し傾斜している。
機能面では、ムーヴキャンバスの場合、後席の下に引き出し式の収納設備を装着する。
これを引き出して、ついたてを持ち上げると、バスケット状になって買い物袋が収まる。シートの上に置いた時と異なり、走行中に倒れにくい。ただしこれは、誰にでも必要な機能ではない。
この機能を装着したことで、後席の背もたれを倒した時、広げた荷室に段差ができる欠点も生じた。
新型ムーヴは、このようなムーヴキャンバスの個性を抑えて、幅広いユーザーに馴染みやすく仕上げる。シートアレンジも同様で、後席を格納すると、一般的な平らな荷室に変更できる。
ちなみにタントは、同じボディを使って、標準タイプ/スポーティ指向のカスタム/SUV風のファンクロスを用意した。新型ムーヴとムーヴキャンバスにも、同様のバリエーション展開が当てはまる。
■現行モデル比で大幅車重増!! スライドドアに全掛けは成功なるか!?
販売店によれば「新型ムーヴには、標準ボディのLとX、エアロ仕様のGとRSがある」という。
カスタムの名称は消滅するが、新型にも2つのボディが用意され、個性的なムーヴキャンバスのストライプスとセオリーを含めれば、合計4シリーズがそろう。
そのすべてにスライドドアが装着されるわけだ。「ダイハツはスライドドアに賭けた」といえるだろう。
「賭け」とされる理由は、スライドドアには欠点もあるからだ。まず横開き式ドアに比べると、操作に体力を要する。子どもや高齢者の乗り降りを考えると、電動開閉機能が必要だ。
またスライドドアにはスライドレールが備わり、開口部も補強され、なおかつ電動機能まで加わると車両重量が増える。
ムーヴキャンバスの車両重量は2WDの売れ筋グレードが880kgだから、現行ムーヴの標準ボディよりも60kg重い。
この重量増加は、動力性能、走行安定性、燃費性能に良くない影響を与える。乗り降りに要する時間も、動作の素早い大人であれば、横開きドアの方が短い。
そして電動機能を含めたスライドドアは、横開き式に比べてコストも高い。販売店によると「新型ムーヴの場合、標準ボディの中級グレードになるXが、左側スライドドアの電動機能、キーフリーシステム、プッシュボタンスタートなどを標準装着して、価格は141万9000円」だという。
現行ムーヴの標準ボディに用意されるX・SAIIIは、キーフリーシステムなどの実用装備を充実させて129万8000円だ。新型ムーヴXは、スライドドアなどの装着により、現行型に比べて価格を12万1000円高める。
■イメージ一新はタント不振が最大の要因!? ムーヴ人気にダイハツの今後がかかっている
マイチェンでカスタムをよりド派手に。そしてファンクロスなるSUV仕立てのモデルを追加し巻き返しを図っているが……
以上の不利を承知で、新型ムーヴにスライドドアを装着した背景には、ダイハツの軽自動車の売れ行きも関係する。
2022年のダイハツの軽自動車販売総数は、53万8974台でスズキの50万1339台を上まわったが、軽乗用車では逆になっていたことだ。
2022年におけるダイハツの軽乗用車販売台数は、35万3753台に留まり、スズキの37万7605台に負けていた。つまり2022年におけるダイハツの軽自動車販売1位は、軽商用車によって支えられている。
ダイハツの軽乗用車における敗因は、タントの販売不振だ。ダイハツでは軽乗用車のテコ入れが急務だから、新型ムーヴをスライドドアに変更する賭けに出た。
幸いなことにタントがマイナーチェンジで売れ行きを盛り返して、今は軽乗用車もダイハツがリードするが、新型ムーヴはスライドドアで登場する。
ムーヴキャンバスが、個性的な車種なのに好調に売れる理由は、スライドドアを装着するからだ。
これが明らかになった以上、オーソドックスな車種として、新型ムーヴにスライドドアを装着する商品企画は納得できる。
それでも横開きのドアで十分と考えるユーザーもいるため、今後はタフトの選択肢を増やす。今はSUV感覚の強いグレードだけをそろえるが、今後は落ち着いた雰囲気の特別仕様車なども加えていく。
特に現行ムーヴは、価格を113万5200円に抑えたベーシックなLを設定するが、このような低価格グレードは、スライドドアを装着する新型ムーヴには用意できない。
それがタフトの装備をシンプルに抑えれば、低価格の設定も可能だ。ムーヴはダイハツの主力車種だから、路線を大きく変えると、同社のすべての商品開発に影響を与えるのだ。
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