近年、日本でセダンは定番のクラウンまで売れゆきを落とすほど低迷している状況。そんな今でもドイツ車、そのなかでもBMWは根強い人気でセダンが売れているという。
SUV全盛期でXシリーズを充実化させているなかでも、セダンは堅調な販売を見せているBMW。その理由はどこにあるのか? モータージャーナリストの岡本幸一郎氏が分析する。
不遇ジャンルに救世主? でも…儲かるの…?? セダン専門買取店その名も『セダンラボ』
文/岡本幸一郎 写真/BMW、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】売れ筋のBMW3シリーズ/5シリーズはセダン不況にも強い!!
■セダン低迷中の日本でも都市部で欧州製セダンは多く目にする
国産セダンの売れゆきは低迷しているが、BMWはセダンの人気が根強い
セダンの市場規模が世界的に縮小するなか、日本はとりわけその傾向が顕著で、いまのところまだ多くのメーカーがセダンをラインアップしているものの、あれほどあった車種のバリエーションはみるみるうちに減ってきた。
少し前まではよく高価ながら売れていて、さすが! というニュアンスで報じられていたクラウンですら、まだ正式にアナウンスされたわけではないが、ついに次期モデルはこれまでどおりではなくなる見込みだ。
そんななかでも、ドイツのプレミアムブランドのセダンは比較的好調なように見受けられる。
特に都市部では、ひとたび目にすると印象に残る車種が多いせいか、国産のセダンよりも頻繁に見かける気がするほどで、モデルチェンジしたら即座に見かけるようになるあたりからも注目度とニーズの高さがうかがえる。
■BMW3シリーズセダンはSUVのX3よりずっと売れている
BMW3シリーズは2020年1月~12月の輸入車販売台数で5位にランクイン。ベンツCクラスと並ぶ輸入車の人気モデルとなっている
なかでもセダンを見かける機会が特に高いように感じるのがBMWだ。
実際どうなのか知りたいところだが、車種やグレード等の具体的な台数はインポーターからは明らかにされておらず、JAIAからブランド別の新車販売台数とモデル別の上位20台の販売台数が公表されるにとどまるわけだが、概要だけでも把握したく思い、関係者に協力を仰いで調べてみたところ、興味深いデータが得られた。
3シリーズのセダンとツーリング、5シリーズのセダンとツーリング、X3とX5について、2020年の販売台数をもとに、全体を100とした場合の内訳は以下のとおり。
・3シリーズセダン(4ドアセダン):35
・3シリーズツーリング(ステーションワゴン):20
・5シリーズセダン(4ドアセダン):10
・5シリーズツーリング(ステーションワゴン):5
・X3(SUV):20
・X5(SUV):10
7世代目の現行型5シリーズはまさに7シリーズの弟分という雰囲気で、エレガントさが増した
5シリーズよりも3シリーズのほうが圧倒的に売れていることと、ツーリングよりもセダンの販売比率が高いところまでは、なんとなく感じていたことが、かなり当たっていたようだが、一方でもっと高い割合で売れていると思っていたSUVのXモデルがそれほどでもなかったことが印象的。
X3より3シリーズセダンがはるかに売れており、X5と5シリーズセダンは同じぐらいというのは意外だった。昨今のSUVブームの高まるなかでも、BMW の場合はセダンの人気が根強いといってよさそうだ。
ご参考まで、JAIAの発表による販売台数ランキングでは、3シリーズが2020年の暦年(1月~12月)が8505台で5位、2020年度(20年4月~21年3月)が8194台で4位となっている。その数字からほかの車種もイメージしていただけよう。
むろん輸入セダン(ツーリングも含むが)ではダントツの首位であり、価格帯の近いモデルライフ終盤にあるCクラスに対しては3割ほど多い。
■1980年代に登場したE30型3シリーズがBMWのセダン人気に火をつけた
1982年登場のE30型3シリーズ。ボディサイズは全長4345×全幅1680×全高1365mm。日本の交通事情にマッチしたスポーツセダンとして人気を博した
もともとはマニアックな存在だったBMWが日本で一気にメジャーになったのは1980年代後半のことだ。
1981年に日本法人が設立される少し前から販売台数が急増し、ほどなく1985年に初めて1万台を突破するや、1987年には2万台を超え、1989年には3万台を大きく超えるほどの急激な伸長を見せた。
バブル景気に沸く日本の繁華街を闊歩する様子が印象的に目に映ったことから、当時はBMWのエントリーモデルだったE30型3シリーズが「六本木のカローラ」と称されたのも有名な話だ。
BMWが現在のポジションを確立できたのは、このE30の功績が大きい。アイコニックなキドニーグリルと丸目のヘッドライトをたずさえた端正なデザインは、それほどスタイリッシュというわけでもないのにやけに存在感があって羨望の的となったものだ。
その背景には、自動車メディアがはたした役割も大きい。BMWがこだわるストレートシックスのエンジンフィールやFRならではのハンドリングのよさを盛んに伝えたのが効いていて、それを味わわんがために買い求めた人も少なくない。
そして実際にドライブした多くの人が魅了され、口コミでさらに伝播して、「BMWは素晴らしい」というイメージが浸透した。まさしく評判が評判を呼んだわけだ。
1980年代は学生だった筆者も当時、知人のE30をドライブした際に、騒々しさは少々気になったものの、やはり日本車との小さくない違いを感じた。のちにE30を自身でも愛車とした時にも、しっかりとした走りや内外装の仕立てのよさなど、1980年代ですでにあれほどのクルマを作っていたことに感心したものだ。
1980年代や1990年代といえば、まだクルマといえばセダンが普通で、オヤジグルマっぽいイメージがついてまわったもの。
その頃すでにBMWは、セダンの形をしたスポーツカーを作っている旨を標榜していたように記憶しているが、当時のBMWがセダン主体のシンプルなラインアップだったことも、BMW=スポーティなセダンというイメージの形成に寄与していそうだ。
■BMW=スポーツセダンというイメージが定着した
ディーゼルの販売比率が高いBMWのなかでは珍しく、3シリーズはガソリン車のほうが多く売れている。純粋な走りを求めるユーザーが根強いからだろう
それがすっかり定着して、これほどBMWのバリエーションが多様化した現在でも根強く残っていて、BMWのセダンにこだわるユーザーが少なくないように思える。
例えばXモデルは、BMWの熱心なファンはもちろんだが、よりよいSUVを探すなかでXモデルに行きつき選んだというケースも多いように感じられるのに対して、セダンはBMWのセダンが欲しいという意思を持った人が、あまりほかと比べることなく選んでいるような気がしてならない。
また、パワートレーンに視点を置くと、これまた興味深い傾向が見受けられた。
・3シリーズセダン(ガソリン:50、ディーゼル:40、PHEV:10)
・3シリーズツーリング(ガソリン:30、ディーゼル:70)
・5シリーズセダン(ガソリン:30、ディーゼル:50、PHEV:20)
・5シリーズツーリング(ガソリン:50、ディーゼル:50)
・X3(ガソリン:10、ディーゼル:80、PHEV:10)
・X5(ガソリン:10、ディーゼル:80、PHEV:10)
むろん車種によって選択肢は異なるが、全体像としては、ディーゼルの比率が想像以上に高く(とくにXモデル)、さらにはPHEVの人気が高まっていることも見て取れる。
そんななかでも、3シリーズセダンは唯一ガソリンのほうが高い。それはやはり、3シリーズセダンは価格帯が低めのグレードを選びやすいという事情もあるだろうが、BMWらしい走りを求めて購入しているケースが多いからにほかならないように思える。
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みんなのコメント
せっかくBMWを買うなら走行性能が落ちるSUVよりセダンかツーリングを選びたいよね。