電気自動車(EV)で先頭を走るテスラを必死に追い上げようとしているようにも見えるフォルクスワーゲン(VW)が2022年から26年までの5年間にEV関連技術に520億ユーロ(約6兆8千億円)を投じる計画を発表した。20年に策定したばかりの計画から5割増となる。世界中の自動車メーカーがEV関連に投資を集中し、EVラインアップの拡充を表明している。
長期ビジョンは期待はずれ? 業績不振が足を引っ張って世界的なEVシフトの波に乗り遅れていた感のある日産自動車も電動化戦略をまとめた長期ビジョン「ニッサンアンビション2030」を策定した。約10年前に量産型EVを市販した日産は、自動車の脱炭素化に向けたEVシフトのリード役になると期待されていた。しかし、カルロス・ゴーン元会長の特別背任などの事件や経営交代のゴタゴタもあって業績が低迷、20年3月期に6712億円、21年3月期に4486億円と2期連続で巨額赤字を計上した。経営再建が最優先となり、EV関連事業へ投資するどころではなくなり、電動化戦略の策定も遅れた。
〈ニュースの底流〉日産、電動車戦線に復帰 全固体電池の実用化へ 経営を「攻め」に転じて巻き返し
今期は半導体不足や新型コロナウイルス感染拡大の影響で東南アジアからの部品調達に支障が及ぶなどの影響を受けて新車販売台数は低迷している。しかし、ほぼすべての自動車メーカーが減産していることから新車が不足し、日産のインセンティブ(販売奨励金)も抑えられていることなどから台当たり収益が大幅に改善した。21年4~9月期業績発表に合わせて、22年3月期業績の当期利益を当初予想から1200億円増やして1800億円に上方修正した。経営再建計画が「着実に進化しており、未来への創造へギアをシフトする」(内田誠社長兼CEO)として発表したのが今回の電動化計画だ。満を持して発表した計画だったが「期待外れ」との見方も少なくない。
日産が打ち出した電動化計画は、今後5年間、電動化に約2兆円を投資し、30年度までにEV15車種を含む23の新型電動モデルを市場投入することや、30年にグローバルでの電動車の販売比率を50%にすることが柱だ。11月29日午前10時に発表したが、この日の日産の株価の終値は前日比31円安い594円に急落、さらに翌日には563円にまで下げた。少なくとも投資家からは計画は評価されなかったようだ。
その理由は何か。業界関係者の多くが、日産が販売する車両のすべてをEV(ゼロエミッション車)にする計画を表明すると予想していたからだ。ゼネラル・モーターズ(GM)やメルセデス・ベンツ、ボルボなど、欧米自動車メーカーがそれぞれ30年から40年代にかけて販売する自動車をゼロエミッション車のみとすることを宣言している。EVに否定的な見方が強い日本の自動車メーカーではホンダだけが40年までに販売するモデルをゼロエミッション車だけにする方針を表明したが「本来なら日産の役目だった」と見る向きは強い。
日産はオンリー・ゼロエミッション車メーカーになることを表明しなかったのに加え、電動車販売比率は示したものの、EV販売比率の見通しも示さなかったことに投資家は失望したようだ。世界のEV市場で先行してきたはずの日産が慎重な姿勢に転じたのは過去の2つの失敗が背景にある。
その一つが業界に先駆けて10年12月に市場投入した量産型EV「リーフ」の失敗だ。当時の日産は環境対応車としてトヨタ自動車やホンダと比べてハイブリッドシステムの開発に遅れていたこともあって、差別化するためにEVを選んだ。小型商用車のEVも追加、アライアンスを組むルノーとともに16年度までにEVを累計150万台販売する計画だった。しかし、EVの販売は低迷、目標にまったく手が届かなかった。主力EVのリーフだけ見ても発売から10年間でグローバルでの累計販売台数がやっと50万台に達した程度だ。
17年10月にフルモデルチェンジした2代目リーフではEVの弱点だった航続距離を伸ばし、デザインも一新するなど販売てこ入れを図ったものの、ヒットしたとは言い難い。日産は今後、SUVタイプの新型EV「アリア」や22年には軽自動車のEVを市場投入する予定で、EVのラインアップを拡充する。しかし、EV販売をライバル各社より早く経験し、苦労してきただけに本格的なEV市場拡大を懐疑的に見ている面もある。
EVよりも日産の電動車の主力となっているシリーズ・ハイブリッドシステム「eパワー」搭載モデルならEV普及の壁である高い車両価格、短い航続距離、長い充電時間といった問題をある程度クリアできる。環境対応車としてeパワーの方が現実的で、市場が立ち上がる前に参入しながら失敗した経験がチラついてEVに経営資源を集中できないでいる。
電池内製から撤退・売却 日産は初代リーフ投入時、サプライヤーに対して「これからはゼロエミッション車であるEVの時代」と説いて、EV関連部品や素材の投資を求めてきた。結果的にリーフの販売は低迷し、素材メーカーの一部は電池材料工場を閉鎖して事業から撤退した。日産はEVの普及を煽ってきただけに、EVシフトによって大きな影響を受けるサプライヤーの視線を意識し、簡単にEVオンリーを打ち出せないでいる。
日産がEVシフトに慎重なもう一つの理由がEVの心臓部であるバッテリー調達に懸念があることだ。EVシフトを裏付けるためには、具体的なバッテリーの調達方法を示さなければ信憑性を持たれない。オンリーEVを打ち出している欧米の自動車メーカーは電池工場の新設を含めて、電池の調達体制も併せて公表している。
日産は1990年代にリチウムイオン電池の研究に着手するなど、ライバルと比べても電池関連で多くの知見を持つ。初代リーフの開発ではバッテリーメーカーに電池の調達を打診したものの、使用環境が厳しい車載用電池に関する日産が示した基準が高く、電池メーカーは尻込みした。このため、日産はNEC、NECエナジーデバイスの協力を得て車載用電池を製造する共同出資会社オートモーティブエナジーサプライ(AESC)を設立し、事実上、電池の内製化に踏み切った。
その後、ボッシュが車載用電池セル生産から撤退を決め、GSユアサとの電池合弁事業を解消するなど、リチウムイオン電池の採算確保が難しくなったことを受けて、日産は電池関連の戦略を変更した。電池調達の自由度を上げるため、電池の内製化から撤退する方針を決定し、再生可能エネルギー事業を手がけるエンビジョンにAESCを売却した。
ところがEVシフトの本格化で、電池の調達先確保が自動車メーカーにとって重要度を増している。GMは韓国のLG化学、フォード・モーターが韓国のSKイノベーション、フォルクスワーゲン(VW)やボルボがスウェーデンのノースボルト、トヨタがパナソニックなど、電動化を推進する自動車メーカーは電池メーカーとの連携を強め、電池を確実に調達する体制を整えている。
日産は英国工場をEV生産拠点にシフトする計画「EV360ゼロ」を策定したが、この計画にはエンビジョンAESCが10億ポンド(約1500億円)を投じて工場隣接地にEV向けバッテリーを製造するギガファクトリーを新設することが組み入れられている。日産は現在もエンビジョンAESCの株式20%を保有している。ただ、今後も日産が求める量の電池をエンビジョンAESCから供給してもらえるかは不透明だ。日産の計画では、パートナーと協力して26年度までにグローバルでの電池生産能力52ギガワット時、30年度までに130ギガワット時を確保することを掲げるものの、具体的な電池調達方法は明かしていない。仮にAESCを売却していなければ、日産は裏付けのあるEVシフトを打ち出すことができた。日産にとって電池メーカーを抱えることは大きな価値になったはずだ。
早過ぎたEV投入や電池内製からの撤退という過去の経営判断によって、本来なら市場をリードできたはずのEVシフトから一歩引いた形となった日産。EVや電池に関する先行者利益を得るためにも、脱炭素化が声高に叫ばれる今こそ、大胆な戦略を打ち出すべきではないだろうか。
(編集委員 野元政宏)
(2021/12/20修正)
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みんなのコメント
結局はトヨタやVWのような大きい所が有利なのかな?
日産単体ではなくルノーグループの電池の調達能力が試される
大きい所にスケールメリットで負けない為のアライアンス