■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
2023年1月に「Internaional CES」で公開されたソニー・ホンダモビリティのEV「AFEELA」のプロトタイプが10月17日に東京・虎ノ門で公開された。CESで発表された時はニュース映像を通じて見ていた「AFEELA」だが、実物は、シルバーと黒の2トーンのボディ表面に突起や折り目、エッジなどが一切ない滑らかな表情が印象的だった。EVなら、特に優れた空力特性を求められるはずだが、単に突起類を無くして滑らかにしただけのようにも見えるボディの空力特性は気になった。
今週、話題になったクルマのニュース4選(2022.11.19)
コンセプトに掴みどころも新鮮味もなく、内容も具体性に乏しい
左右のヘッドライトの間の細長いスクリーンには動画を映せるようになっていることを開発スタッフから伝えられた。画像では、「AFEELA」という文字が写っているだけだが、切り替わって、短い動画のようなものを写していた。これは何に使うものなのか、スタッフに訊ねてみたが、具体的な用途は決まっていないようだった。「AFEELA」のドライバーや乗員なら、そんなものを見ている時間の余裕もなく早く出発したいはずだから、他のクルマや歩行者に何かを伝えるものなのだろうか?もしかすると広告なら使い途があるかもしれない。だが、広告だったら面積の大きなボディサイドの方が適しているといえる。
車内での説明も限られたものだった。ダッシュボード端から端へ、左右のリアビューモニターではさまれた複数のモニター画面のアイデアはすでに「ホンダe」で実現されている。さらに大きく、より高度なものはメルセデス・ベンツの「EQS」や「EQE」などが製品化していて目新しさはない。
また、運転の自動化については「レベル3を実現する」そうだが、運転操作に関するスイッチ類はダミーだそうで、そのインターフェイスがどのようなものなのかも明らかにはされなかったのが残念だった。
数年前に、世界初のレベル3の実現を謳うホンダ「レジェンド」を公道で試乗したが、限られた条件下でレベル3の走行となるため、クルマが何をどう認識していて、どの機能が働いているのかをドライバーが常に把握していなければならなかった。それがわかりやすく使いやすいかどうかはインターフェースに掛かっているのだ。
また、運転の自動化については、レベル3のメリットとデメリットをどう認識しているのかも知りたいところだ。ホンダとソニーが開発しているのだから、当然、あの「レジェンド」を発展させたものなのだろう。だが、レベル2のクルマの中にも、トヨタ「MIRAI」やレクサス「LS」、あるいはBMW「X1」などのようにレベル2であっても渋滞時のハンズオフを実現していて、インターフェースも最新のものに進化し、とても使いやすくなっているものもある。
また、ボルボのようにレベル3にはドライバーのメリットは少ないので、レベル2を熟成させ、あえてレベル3はスキップして将来のレベル4を目指して開発を続けると表明しているメーカーもあるくらいなのだ。そのあたりのスタンスを、ぜひ聞いてみたかった。
「AFEELA共創プログラム(仮)」とは?
同社の代表取締役社長兼COOの川西 泉氏のスピーチの中で、新しさが現われていたのは「AFEELA共創プログラム(仮)」の話だった。
「モビリティ開発環境のオープン化として、自社の知見だけに閉じることなく、社外のクリエイターやデベロッパーが、自由にAFEELAの上で動作するアプリケーションやサービスを開発できる環境を提供し、クリエイティビティを表現・共創できる場をデジタル上で提供する」
ただ、それらがどんなアプリケーションやサービスになり、現在、実現されていないのかなどはよくわからなかった。また、社外のクリエイターやデベロッパーと、サプライヤーとどう違うのか?川西氏は、ナビゲーションについて「次元を変えていきたい」とも語っていた。「付加的要素を増やしていき、既存の地図会社のマップを使うのではなく、AFEELAのコミュニティの中で広げられればいい」と。
その意欲は素晴らしいのだが、自動化のレベルを上げていくのに高精度デジタルマップは必須のものとなり、各社、鎬を削っているところだ。生産の規模に関する質問が参加者から出た。それに対して、川西氏の回答の要諦は次のようなものだった。
「たくさんの数を造って、コストダウンを図ることは考えていない。ハイスペックを志向するガジェット的なものなのになる」
つまり、製造数は少なく、高い価格が付けられるというわけだ。ソニーとホンダというビッグネーム同志が組んだベンチャー企業の最初の製品が少量生産の高価格車になるという点は十分に新しい。
だが、「AFEELA」コンセプトには掴みどころも新鮮味もなく、内容も具体性に乏しかった。プロトタイプだから、現段階で明らかにできることも限られているのだろう。しかし、2025年前半に先行受注を開始し、北米のホンダの工場で生産し、同年中に発売を予定している。デリバリーは2026年春に北米から開始され、日本へは2026年中と予定されているから、そんなに先の話ではない。どんなクルマになるのか注目し続けていきたい。
■関連情報
https://www.shm-afeela.com/ja/
取材・文/金子浩久(モータージャーナリスト)
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