環境意識が高まり大排気量車への風当たりが強い昨今。V8エンジンはときには潮流に逆らい、あるときは受け入れられるカタチに進化して人々に愛され続けている……というわけで、ここではかつてMotorMagazeine誌上で採り上げた「きっと特別!」なV8エンジンたちの物語にスポットを当ててみたい。
4代目にしてついにV8エンジンを搭載。M3がもたらす新たな恍惚
1985年に2.3L 直4エンジンを搭載して登場したM3は、2007年の4代目では4L V型8気筒エンジンを搭載することになる。初代M3を知るファンからは「これがM3か」という声も上がったが、そのエンジンは先進的かつ高性能で「これこそ新しい時代のM3」と評価はぐんぐん上がっていった。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
M3セダンのスタイリングは、乱暴に言ってしまえば3シリーズセダンのボディにM3クーペの前半分をドッキングさせたようなもの。クーペとセダンではデザインのテイストが全然違うだけに、正直最初はとくに違和感を強く覚えてしまった。
もちろん、本当はフェンダーなどの外板パネルはM3セダン専用品である。フロントオーバーハングはクーペに較べて35mmも長いが、3シリーズセダンとの比較では5mmプラスに過ぎない。リアオーバーハングは3シリーズセダンに対して44mm増し、一方M3クーペに対してはプラスマイナスゼロというディメンジョンである。
この新しいフロントまわりは、V型8気筒のパワーユニットを収めるために用意されたものだ。バンク角90度のシリンダーブロックは軽量アルミニウムシリコン合金製とされ、エンジン全体では先代M3の直列6気筒より実に15kgの軽量化を達成。
バルブトロニックでも直噴でもないが、代わりに各気筒独立のスロットルを持つレース直系の設計とされている。それでいてブレーキエネルギー回生システムも搭載しているのも、目をひくところだ。
その最高出力は420ps/8300rpm、最大トルクは40.8kgm/3900rpm。トランスミッションは現時点では6速MTのみとなる。このあたりは、すべてM3クーペと共通だ。
エンジンは相変わらず極上の滑らかさだ。そうは言っても走行距離はまだ1000km台中盤だけに、少しでも馴染みを良くしておこうと高回転域を保って走らせても、バイブレーションや音が不快に感じさせることはない。そうしろと言われたら、7000rpmキープだって構わないほどである。
動力性能を純粋に比較すれば、0→100km/h加速はM3クーペの4.8秒に対して4.9秒となっているが、それとて体感できる差ではない。
あとはM3ならではの恍惚の世界が待っている。それこそ指1本分の操舵にもリニアにラインを選べる操舵感や、凄まじく速いだけでなく右足の動きに正確なエンジンのピックアップ、優れたタッチと制動力を有するブレーキが織りなす走りの世界には、クルマと一体になれるライブ感が溢れているのだ。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年5月号よりダイジェスト。一部捕捉しています)
BMW M3クーペ(2007年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4620×1805×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:420ps/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3900rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:FR
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:4.8秒
●車両価格:996万円(2007年当時)
ボルボXC90がV8エンジンで夢見た「プレミアムSUVの理想形」
スペック競争の様相を呈するプレミアムSUVの中にあって、ボルボXC90の成り立ちはちょっとユニークだ。
シャシの構成はS80やV70と基本的に同じ。使われる4WDシステムもデフロックを備えるようなハードなものではなく、電子制御のハルデックスカップリングを使い必要に応じてリアに駆動力を割り振るオンデマンド式。それに空転したタイヤを止めてトルク抜けを防ぐブレーキ制御機能を添えている。
つまりXC90はSUVらしからぬオンロードでの軽快な走りや卓越したオフロード走破性を誇るのではなく、乗用車に近い肩の力の抜けたドライビングテイストこそが最大の魅力であり個性なのである。
そんなXC90もまた、北米市場をメインとする以上V8は必須アイテム。だが、本来直6の横置きを前提としたエンジンベイにフォードグループの持つV8は収まらず、ボルボ設計/ヤマハ生産のまったく新しいコンパクトなV8が開発された。
315psのパワーを得たこのV8は、これまでのボルボにはない軽快な回転フィールが特徴。6100rpmのレブリミットに即座に到達するフケの良さと鋭いアクセルレスポンスを備え、高回転域では「コーッ」という吸気音まで聞かせスポーティだ。小型軽量に努めているのでV8化によるノーズヘビー感が少ないのも魅力である。
このV8の搭載でXC90のキャラクターはわずかに変わった。よりスムーズで軽快感が強まったため、さらに乗用車的に進化したのだ。となると、スペース的な制約でV8が左ハンドル専用なのが残念に思える。(文:石川芳雄/Motor Magazine2005年11月号よりダイジェスト)
ボルボ XC90 V8 TE 7人乗り(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4800×1900×1780mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2210kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4413cc
●最高出力:315ps/5850rpm
●最大トルク:440Nm/3900rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:927万円(2005年当時)
さながら「最後の晩餐」・・・忘れ難き英国製V8ユニットの行方(1)ジャガー
世界的な脱内燃機関のトレンドにけん引される形で、英国車の大排気量・大出力V8ユニットたちもまた時代に見合った「変化」と「覚悟」が求められている。剛と柔が絶妙にバランスした奥深き味わいを楽しめる時間は、それほど長くはない。
後に同じグループとなったジャガー&ランドローバーの最新にして最後のV8が、AJ133と呼ばれる新設計ブロックを持つ直噴ユニットだ。自然吸気とスーパーチャージャー付きが用意される。中でも最高出力575に達する最強仕様のAJ133を積んだFタイプ Rクーペは、内燃機関ジャガー「最後の晩餐」というべき究極の仕様だ。
Fタイプは2012年にデビューした。モデルライフ9年(当時)となる本格派FRスポーツだ。中でもこのRクーペは、完熟の域に達している。SVO(スペシャル ヴィークル オペレーションズ)が産んだジャガー史上最強のロードパフォーマンスを誇るXE SVプロジェクト8の心臓部に由来する575psユニットを積んだ、レギュラーシリーズとしてはおそらく最終決定版である。
エンジンフィールは古典とモダンが入り混じった、とても味わい深いものだった。ジャガーはもうすぐフルエレクトリックブランドに転身するわけだが、「もうちょっと先延ばししてみない?」と言いたくなるほど、趣味性の高いエンジンにまで熟している。否、次がないからこそ、そうなったのか。今のうちに味わっておきたい名機のひとつであろう。
ジャガー Fタイプ Rクーペ(2021年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4470×1925×1315mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1840kg
●エンジン:V8 DOHCスーパーチャージャー
●総排気量:4999cc
●最高出力:423kW(575ps)/6500rpm
●最大トルク:700Nm/3500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・70L
●WLTCモード燃費:8.4km/L
●タイヤサイズ:前255/35R20、後295/30R20
●車両価格(税込):1590万円(2021年当時)
さながら「最後の晩餐」・・・忘れ難き英国製V8ユニットの行方(2)ベントレー
英国製のV8といえば、もうひとつの名機がつい最近、その役目を終えたばかりである。前述したロールスロイス&ベントレーの時代に開発され、1970年代に入ってかの6.75Lへと排気量アップを果たしたL410ユニットだ。
最後に搭載されたモデルは、2010年から10年間にわたりベントレーのフラッグシップとして君臨したミュルザンヌである。
筆者はこの6.75L V8 OHVをキャブ仕様のNAユニットから、インジェクション、ターボ、ツインターボ、そして最後の可変バルブタイミング仕様まで数多く試乗した経験があるが、いずれのエンジンも当代一級の速さと力強さ、そして心地良い静粛性を誇っていた。
ことにベントレー用のL410は常にノーズの先でたおやかに、けれどもはっきりとその存在感を示しながら回っており、踏めば踏むほど湯水の如く溢れるトルクに魅了されることもしばしばで、ドライバーズカーたるベントレーの面目躍如というものだった。
同じ年代のロールス・ロイスと乗り比べてみても、運転したいと思わせるという点でベントレーが不思議と優っていた。おそらく、エンジンスペックの違いがそう思わせたのだろう。(文:西川 淳/写真:井上雅行/Motor Magazine2021年11月号よりダイジェスト)
まとめ・・・なぜ人は「ぶいはち」に特別な感情を抱いてしまうのか?
ピュアなエンジンか、電気モーター+バッテリーか。いつまで経ってもそんな二者択一のデジタル思考がはびこる理由は、クルマ好きにとって〝エンジン種別の記号性〟がどこまでも核心であるからにほかならない。
クルマの特徴を表す数ある呼び名、たとえばクーペとかリアスポイラーとかカーボンバケットシートとか、のなかでも、エンジンの形式と気筒数を表す言葉は、ことのほかクルマ好きの心を刺激するものなのだ。
クルマ好きの範囲をグローバルにまで広げたとき、もっとも多くの人々を喜ばせるエンジン記号はというと間違いなくV8だろう。V12は凄いがちょっと浮世離れしすぎている。
フラット6は少々マニアックで、ストレート6はブランド限定品のようだ。V6に至ってはマルチシリンダーのなかにあってもなぜか格下感が漂っている。直4以下は言うに及ばず。
その点、フランスで生まれアメリカで育まれたV8は手の届く憧れのエンジンの代表格だろう。今では生まれ故郷において見る影もないことは皮肉なものだけれど、育て親がその代わりを果たして余りある状況にある。
筆者も過去にアメリカンV8搭載モデルを都合4度所有したが、巨大なトランスミッションを連結したパワートレーンにシートをくっ付けてまたがっているかの如きバイブレーションに魅了されたものだ。
アメリカ以外の国でもV8は高性能エンジンの証として今なお重宝されている。イギリスやイタリアといった個性あふれるモーターリゼーションを果たしてきた国々では、今も昔もV8は常に、クルマ好きのリアルな憧れを獲得してきた存在なのだ。(文:西川 淳/MotorMagazine 2024年4月号より抜粋)
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