日産が投入した新型軽電気自動車「サクラ」の完成度はいかに? テストコースでプロトタイプを試乗した世良耕太がリポートする。
アリアを彷彿とさせる内容
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日産自動車は5月20日に“軽”の電気自動車(EV)、「サクラ」を発表した。発売は夏を予定している。
日産には2010年に発売した世界初の量産EVである「リーフ」があり、最近デリバリーが始まったクロスオーバーEVの「アリア」がある。ピラミッドで役割を表すと、頂点に位置するのがアリア、リーフは真ん中に位置し、新型サクラが底辺に陣取ってEV普及の役割を担う。軽自動車のラインアップのなかでは、ハイトワゴンの「デイズ」やスーパーハイトワゴンの「ルークス」よりも上に位置し、フラッグシップの位置づけだ。
軽自動車なので当然であるが、サクラの全長×全幅は規格いっぱいの3395×1475mmで、ガソリンエンジンを積むデイズと同一だ。全高は1655mmでデイズの2WDより15mm高い。2495mmのホイールベースも同一である。サクラはデイズの車体骨格をベースにしているのだから当然といえば当然だ。
しかし、外から眺めたイメージも、車内に入り込んだときに感じる印象も、デイズとはまるで異なる。明らかに、上級のアリアに近い。フロントセクションなどまるで相似形で、タブレット端末のiPad ProとiPad miniの関係を見るようだ。究極のEVを体験するならアリア。サブマシンとして使うのでサイズも性能もそこまで重要視していない。けれど、先進的な世界観は手に入れたい……そう考える向きにぴったりの選択肢がサクラだ。
小さいからといって、ちっとも安っぽくないところもアップル製品の大・小の関係に似ている。サクラのヘッドライトやウインカー、リアコンビネーションランプはグレードを問わず、すべての光源にLEDを使用している。コストの絡みからフロントのウインカーはLEDとしながら、リアは電球とするような手抜き(メーカーにすれば苦渋の決断)はない。しかも、リアのテールランプは全幅いっぱいに広がっている。アリアとおなじデザインだ。
これは、992型のポルシェ「911」も採用するデザイン手法だ。他社にも例はあるが、先進性やプレミアム感の演出に効果があり、とくに筆者はこの一文字リアランプに弱い。サクラの横一文字リアランプを見た瞬間に、「あ、やられた」と思ってしまった。ピラミッドの底辺を受け持つ普及価格帯のEVだから、「リアは電球でいいや」とは、日産は考えていないということだ。こういうところ、大事だと思う。
居心地の良いインテリア
EVはご存じのように、車載するバッテリーに蓄えた電気エネルギーのみを使ってモーターを駆動し、走る。航続距離を少しでも延ばすため、無駄な電気は使いたくない。だから、電球よりも消費電力の小さいLEDで統一するのは、理に適っている。
いっぽうで、少しでも多くのユーザーに手に取ってもらうためには、車両価格を抑えたい。サクラの場合、コスト低減は別のところでおこなっている。
たとえば、駆動モーターはサクラ専用に開発したのではなく、ガソリン・エンジンで発電し、その電気でモーターを駆動して走る「ノート/オーラ」の4WDが搭載するリアモーターを転用している。インバーターも同様だ。
リチウムイオンバッテリーのセルは、4月21日に一部仕様向上を果たしたリーフで採用した最新のものを使う。既存のアセット(しかも、使い古しではなく最新)を使いつつ上手にコスト低減を図っている。だから、高価になりがちなEVでありながら、リーズナブルな価格設定(233万3100円~)が実現しているのだ。
エネルギー密度の高い最新のセルを使っているおかげで、20kWh分のバッテリーを搭載しながら、居住スペースを一切犠牲にしていないのもサクラの大きな特徴だ。犠牲になりがちな後席の足元もゆったりしている。WLTCモードの一充電走行距離は180kmなので、1日あたりの走行距離が30km以下なら、計算上は月曜から金曜まで充電なしで使い、週末にまとめて充電する使い方で過ごせる。
インテリアもやはり、ガソリン・エンジン車のデイズより、アリアに近い。3つあるうちの上2つのグレードは、アリアと同じ水平スポーク(2本スポーク)のステアリング・ホイールを採用。水平方向の広がりを強調したインストルメントパネルと相まって、アリアとのつながりを連想させる。
サクラの室内はただサイズがミニマムなだけで、まったく安っぽさを感じない。上質で、先進的で、居心地がいい。
居心地の良さは、インパネやドアトリムにファブリックを多用したのが効いているようにも思う。
走りはストレス・フリー!
新型サクラは、走りを楽しみたい人にもぴったりだ。軽自動車ゆえに最高出力は47kWに(自主的に)規制されているが、最大トルクは195Nmで、デイズのターボ仕様(100Nm)のほぼ倍に達する。
しかも、モーターは回転を始めた瞬間から大きなトルクを発生するので、発進からの加速が得意だ。
通信規格にたとえれば、5Gほどびっくりするような速さは味わえないが、4Gと言って差し支えないほどの、充分に速くてストレスのない走りが味わえる。
間違っても3Gではない。エンジンを積んだ軽自動車に乗ると、シーンによっては、「おいおい、もうちょっとなんとかならない?」と、3Gのスピードを呪うのと同種の感情が噴き出しそうになることがあるが、サクラはシーンを問わずストレス・フリーで走ることができる。
しかも、圧倒的に静か。それに、乗り心地がいいし、ハンドリングがいい。ピョンピョン跳ねないし、ガツンと強いショックが伝わってきたりしないし、ステアリングは切れば切っただけ、思いどおりにクルマは向きを変える。
サクラはデイズより150kg程度重いが(コストの観点から)タイヤのスペックはデイズと共通なこともあり、評価ドライバーは「攻め込んだときはちょっと……」と、顔を曇らせた。だが、筆者のようなスキルではなんら問題はない。ただただ、頼もしいだけである。
しかも、アクセルペダルの戻し側で減速をコントロールできる「e-Pedal step」との相性が良く、ワインディングでは俄然生き生きとする(クルマも、ドライバーも)。車両サイズが小さいので、電動ゴーカート感覚で存分に振り回せるのがいい。
軽EVのサクラは気を使わないコンパクトなサイズが、大きな魅力だ。楽しいぞ、このクルマ。
文・世良耕太 写真・田村翔
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