2004年に海を渡った24系たち
「ブルートレイン」と呼ばれる14系・24系寝台客車は、2015(平成27)年の寝台特急「北斗星」廃止、翌年の夜行急行「はまなす」廃止により全廃となりました。日本では客車ホテルの体験以外はもう叶いませんが、タイでは現役の寝台車両として乗車可能です。
日本時代の表記そのまま タイ~ラオス国際快速夜行を見る(写真)
タイへは2004(平成16)年から日本の中古車両が多数譲渡され、JR西日本で使用された12系と14系座席車、14系・24系開放式B寝台とA寝台車40両あまりが海を渡りました。台車をタイ国鉄(SRT)の1000mmゲージへ改軌するなどの整備を経て、バンコク発着の夜行列車の寝台車両へと充当され、第一線で活躍しました。
トイレは東南アジア特有の水シャワー式となり、寝台モケットやカーテンは変わりましたが、車内の設備は往時のまま。夜行列車に乗車した日本人観光客が「ブルートレインだ!」と驚くこともしばしばで、異国の地で第二の人生を歩む姿は、日本人にとって懐かしさと新鮮さが織り交ざる光景でした。
転機が訪れたのは2016(平成28)年です。タイ国鉄は中国中車(北車)製の寝台車両へと置き換え、14系・24系は予備車的な存在となりました。数両は放置されたり事故車廃車となったりしましたが、第一線を退いた車両でも20両あまりが運用中で、主に臨時列車へ充当されています。季節臨列車、観光臨列車として運行するタイミングを見計らって寝台券を入手すれば、開放式B寝台を味わうことができます。
さらに観光列車用として12系、14系座席車、14系寝台車が大改造され、その中には元「あさかぜ」用のロビーカー電源車、スハ25形も含まれていました。車両は「SRT PRESTAGE」と愛称がつき、寝台車、座席車、食堂車、会議車、展望デッキ車と、魔改造ぶりの改装を受け、ベース車から劇的な変貌を遂げたのです。
タイ国鉄はこういった大改造が得意な様子。2024年に運行開始となった「ROYAL BLOSSOM」も、元「はまなす」用14系500番台座席車が大改造されました。
国際列車に抜擢された14系・24系
さて、2024年7月20日からは、タイと隣国ラオスを結ぶ国際夜行列車が運行開始されました。両国の観光と商業の活性化が見込まれる国際夜行列車には、なんと14系座席車、14系・24系寝台車が定期運用となって返り咲いたのです。また観光列車以外の14系座席車はこの列車が唯一の存在となり、元オハ14 76と81、オハフ15 21の3両が充当されています。
国際夜行列車は、バンコクと国境の町ノンカイを結ぶ快速夜行第133列車(133レ)と第134列車(134レ)を延長運転するかたちで誕生しました。列車はタイ・ラオス友好橋の併用軌道を渡って、ラオス首都ビエンチャンに新規開業したビエンチャン(カムサワート)駅まで延長運転しており、列車番号は変わりません。下り133レはノンカイ駅で出国手続きを行い、ビエンチャン駅にて入国手続きをします。上り134レはその逆です。
編成は質素なもので、クーラー付き車両が14系・24系寝台車1両、14系座席車1両に、非冷房の3等車が数両連結され、日本の国鉄時代に走った夜行急行や快速列車を彷彿とさせます。
ラオスはかつて軽便鉄道がありましたが、1941(昭和16)年に廃止となって以来、鉄道のない国でした。2009(平成21)年にメコン川を渡って両国を往来する線路が結ばれ、タイ側のノンカイ駅は場所を現在地へと移転し、区間列車が運行開始しました。ラオス側はターナーレン駅を開業させましたが、やがてビエンチャン(カムサワート)駅まで線路を延伸し、国際快速夜行列車を運行したことで両国の交流が活発となっています。
この列車はタイとラオスを直通する唯一の列車であり、快適なクーラー車、特に寝台車から満席となります。きっぷは入手困難な日も多く、思い立ったらと軽い気持ちでは乗れません。タイ国鉄では最近、180日前から列車予約が可能となったため、直前では満席が常なのです。
日本ではとうに見納めとなった光景
指定券は日本からでもオンライン購入可能です。筆者(吉永陽一:写真作家)は直前で入手できましたが、寝台車を増結したためだったようで、運が良かったといえます。ただし数十分後には満席となり、乗車予定は早めに計画する方が吉でしょう。
133レと134レはバンコクのクルンテープ・アピワット中央駅発着です。長距離列車の発着はほとんどが、この高架ターミナル駅となりました。筆者の乗車日は寝台車が2両で、先頭から機関車+荷物車+2号車寝台+3号車クーラー座席+3/1号車寝台、4号車非冷房車自由席……と続いていました。3/1号車とは増結車のことで、北海道の「増2号車」を連想します。
2号車の車番はタイ国鉄A.N.S.238(オハネフ25 139)、3号車はA.S.C.103(オハ14 76)、3/1号車はA.N.S.240(オハネフ25 301)です。元「あさかぜ」用荷物合造寝台車も残っていました。車内はすでに寝台リネンがセットされ、折りたたみ式の階段や栓抜きも現役。上段へ寝転びながら車掌の検札を受け、通路の折り畳み椅子を倒して過ぎ去る車内を眺める――ブルートレインに乗車した時の高揚感を思い出しました。注意点は禁煙なだけでなく、禁酒であること。違反者には多額の罰金が課せられるので、寝台車での一杯はお預けです。
一夜が明けて朝日が入り込む車内は、各寝台から寝起きと身支度の音が忙しなく聞こえます。そこをかきわけ、職員が手早く寝台リネンを片付けます。この光景はタイ国鉄の夜行列車全般で見られますが、日本では寝台列車の昼行運用の減少と共に消えました。それをタイで体感できるとは、なんとも新鮮な気分です。
中国資本による高速列車計画
ところで、133レと134レに14系と24系が抜擢された理由はあるのでしょうか。タイ国鉄マッカサン工場のエンジニアに尋ねたところ、「車両の状態がまだ良いから」とのことで、至ってシンプルな理由でした。運用期限は決まっておらず、使えるまで走らせるスタンスです。今しばらくは運用に就いていると思われますが、あるとき急に車両が変更となることもあり得ます。
もうひとつ気になるのは、ラオスで中国方式の高速鉄道「ラオス中国鉄道(中老鉄路)」が開業しました。これと関連して、タイとラオスを結ぶ鉄道も「タイ中高速鉄道」が計画されています。中国の昆明からラオスを縦断し、ビエンチャンとノンカイを経由してバンコクへ至る高速鉄道計画は、中国の高速鉄道方式を取り入れています。タイ側はバンコク~ナコンラチャシマ間が2030年、ノンカイまでも同時期に開業予定ですが、工期は遅れているとのことです。
高速鉄道が開業すれば、国際快速夜行列車で約10時間以上かかるバンコク~ノンカイ~ビエンチャン間も約3時間強で結ばれ、その車窓は激変していくことでしょう。世界で唯一の存在である14系・24系寝台車の定期列車は、もうしばらくは闇夜を駆け、タイとラオスの国境を行き来するはずです。
※一部修正しました(3月21日18時)
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みんなのコメント
初めて乗ったのは「さくら」。
東京で買った飲み物飲みながらまだ日の高い時間帯の東京横浜抜けて夕暮れの相模湾の景色楽しみ、静岡あたりで食堂車楽しみ、豊橋から乗ってきた方達と仲良くなり、多分京都過ぎたあたりで寝て、山口県通過中に起き、眼の前の瀬戸内海と小さい島々ともう高く上ってきた朝日に感動して歯磨きしてたら見知らぬお客さんたちと互いに自然に笑顔で
「おはようございます!」
いい文化だった