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「自動運転車両」は手動運転車や歩行者と相性最悪なのか?【自律自動運転の未来 第8回】

掲載 更新 9
「自動運転車両」は手動運転車や歩行者と相性最悪なのか?【自律自動運転の未来 第8回】

 自動運転にまつわる連載企画、第8回となる本編は、「自動運転車両と【非】自動運転車との協調」についてです。自動運転の機能が付いているクルマは、カメラとレーダーで周囲を観察し、注意し、クルマを動かしますが、周りのクルマはそれを全部人間がやっています。それって仲良く協調できるのか?? もしかして「自動運転車」の最大の障壁は、【非】自動運転車???

文/西村直人 写真/AdobeStock(メイン写真は@Imaging L)、HONDA、TOYOTA、奥隅圭之

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■自動運転車と「非」自動運転車は協調できるのか

 自動運転技術を車両へ実装するにあたって、今後さらに問題視されるのが、手動運転車両(自動運転装置の付いていない、いわゆる通常の自動車)とのコミュニケーションです。

 混合交通下で成り立っている交通社会は、道路を走る乗り物同士が協調して安全な運転環境が保たれています。交通事故は、そうした協調の輪が乱れた際に発生するため、“互いを思いやる運転”が大切だとされてきました。

 それが、はじめて自動運転という名称が正式に用いられた「自動化レベル3」の実装によって大きく変わります。

自動運転車両は(ドライバーと…だけでなく)「周囲のクルマと協調すること」が重要。そしてそれは「周囲のクルマ【が】自動運転車両と協調すること」も必要だということになる

 現状は、使用できる速度や道路が限定されますが、「条件付自動運転車(限定領域)」の名の下に実用化された自動化レベル3では、安全確認をシステム(機械)が主体となって行います。

 これまで安全確保はドライバー(人)が行うことと定められ、責任の所在もドライバーにありました。しかし、この先はシステム側が責任を負う場面も法律上は考えられます。

 自動化レベル3技術を含む「Honda SENSING Elite」を搭載したレジェンドで公道を走らせた時、筆者が真っ先に感じたことは、「システムはどれだけ他車(者)の動きを見て自車の動きを決めているのか」ということでした。既存の手動運転車両と新たな自動運転車両が、いかにして馴染んでいくのか、その仕組みに興味を抱いたわけです。

■いま公道には「レベル0」と「レベル3」が混在中

 日本にはナンバープレートが交付された走行可能な車両が約8,100万台あります。その大部分、というより現(2021年4月19日)時点ではHonda SENSING Elite搭載車以外はすべて手動運転車両、もしくは運転支援車両ですから、この先、数十年かけて手動運転車両たちの渦に自動運転車両が溶け込んでいくわけです。

「すでに部分的な自動化が進んでいるではないか」とのご指摘もあるかと思います。しかし、普及が進む自動化レベル2の段階は世界的に「運転支援車」との位置づけです。部分的であっても自動運転とは呼べません。

“自動化レベル”とややこしい言い方をするので誤解されやすいのですが、自動運転はレベル3以降と覚えてください。

2021年3月に発売された、ホンダレジェンド(マイチェン版)。世界で初めて「レベル3」技術を搭載して発売された市販車。ライト下のブルーのLEDが目印

 では、その自動化レベル2の技術とは何か。

 改めておさらいすると、アクセルとブレーキの各ペダル操作をシステムがサポートするアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)機能と、ステアリングに同じくシステムによるサポート力が加わる車線中央維持(LK)機能の組み合わせであり、自動化レベル2とはその総称です。

本連載では何度か紹介した、国土交通省作成資料。「レベル1~2」までは運転支援車であり、「レベル3」以降が「自動運転車」であると明記されている(クリックで拡大します)

 ステアリングにサポート力が加わる技術にはLK機能のほかに、車線からのはみ出し(逸脱)を抑制する車線逸脱抑制(LDP)機能があります。LK機能が車線の中央を保持するよう常にステアリングへのサポート力を加えるのに対して、LDP機能は車線を逸脱しそうになった際にはじめてステアリングにサポート力が加わり、可能な限り車線内に留めます。

 このACC機能とLK機能が合体された自動化レベル2技術を実装した車両が市場に導入されてから8年ほどが経過しました。しかし、手動運転車両との大きなトラブルはなく、コミュニケーションは問題なく行われていると言います。

「レベル3」技術を搭載するレジェンドも、常時レベル3…というわけではなく、レベル0~3を行き来しながら運転することになる

 これは自動化レベル2が機能している場合であっても、運転操作の主体はドライバーであり、周辺の交通状況に合わせてシステムを解除することが容易に行えることがプラス要因として働いています。

 言い換えれば、隣車線の車両が急接近してくるなど、万が一の際にはドライバーが回避行動をとることが前提で成り立っていることから、システムに対する過信が小さいとも言えるでしょう。

■「完全自動運転対応機能」…って…

 しかしながらアメリカでは、とある「テスラ」のドライバーが自動化レベル2技術であるにも関わらず、走行中に運転席から離れて事故を引き起こしたとの報道が後を絶ちません。ただし報道によれば、これはドライバーの過信と誤解が招いた不幸な事故であり、車両や自動化レベル2技術そのものに疑問符が付いたわけではありません。

 とはいえ、頻発する事故を見る限り、テスラ社にも問題があるように思います。各モデルが実装する現時点での運転支援技術を、あたかも自動運転技術であるかのように紹介する手法(例/「テスラの新車は、現在のオートパイロット機能や将来利用可能となる完全自動運転対応機能を提供できる先進のハードウェアを標準装備」/テスラのHP文言ママ)には、やはり賛成できません。搭載技術で「実現可能なこと、できないこと」を明確にすることが普及期の今こそ大切です。

 こうした状況を踏まえ、この先、自動化レベル3以上の車両が増え出すと、手動運転車両との混合交通において考慮すべき点が発生します。これまでになかった新たな議論です。その課題はドライバーとシステム、その両方に発生します。
以下、現時点での自動化レベル3技術と、数年先に実用化される、より高度な自動化技術を例に考えます。

■システムに「配慮」って出来るのか…?

 ドライバー側の課題は、手動運転車両に対する間合いのはかり方です。システムが行う車線変更は非常に滑らかで快適です。

 一方、そのタイミングは万全とはいかず、後続車両が思わずブレーキを踏んでしまう、そんな状況にも出くわします。

 ドライバー主体の運転であれば、”ゴメンナサイ“の意味を込めて後続車に手を挙げるなり、ハザードランプを点滅させて意思疎通を行えば事なきを得ることが多いと思います。

 しかし、システム主体の運転時には、こうした安全確保もシステム側の責任という前提があるため、ドライバーが他車(この場合は後続車)への思いやりの心、いわゆる配慮が欠けてしまうことが考えられます。

 システムが車両制御を行っている最中でも、ドライバーはいつでも運転操作に介入できますが、そもそも自動化レベル3が実行中の時、どれだけ同乗者であるドライバーが後続車への配慮を行えるのか、ここは判断が難しいところです。

トヨタもレクサスLSとMIRAIに、進化型の自動運転(運転支援)技術を搭載して発売。ただしこれは「レベル3」ではなく(あえての)「レベル2」技術

 システム側の課題は、手動運転車両に対するコミュニケーションのあり方です。システムが行う「走る、曲がる、止まる」という運転操作はどれも優秀です。しかし、他車から見ると自動運転車両であるかどうか瞬間的に判別できません。ドライバーが運転しているのか、システムが運転しているのか。この周知この先、大きな課題になると筆者は考えています。

 とはいえ、他車からはどちらが運転操作の主体であるかどうかは大きな問題ではないように思えます。ただ、一般的にドライバーは、可能な限り周辺の車両などとコミュニケーションを取りながら走ります。その際、コミュニケーションをはかる相手(他車)が人なのか、システムなのか、ここは自身の運転操作にも少なからず影響を与えます。

■隣のクルマのドライバーがDVDを見ていたら…

 具体例のひとつが、ドライバーに許される「サブタスク」です。

 自動化レベル3が実行中の時、ドライバーには車載モニターでのDVD視聴が許されます。運転操作以外を行うことを「サブタスク」と呼ぶわけですが、わかりやすく他車のドライバーからは「前向いて運転していないな、脇見運転じゃないか!」と誤解されかねません。

ホンダレジェンドで「レベル3」運転を体験中。この状況であればDVDを見ることも可能だが、システムの機能を知らない人(たとえば隣を走るクルマのドライバー)から見れば「よそ見で手放し運転している!」と思うだろう

 たとえば渋滞末尾、自車が減速している最中に、ルームミラーに映る後続車のドライバーが前を向いていなかったとしたら……、皆さんならどう思うでしょうか? 

 筆者なら「追突される!」と理解して、周囲の安全確認を瞬時に行った上で、可能な限り隣車線へ移動するか、いよいよ間に合わないとなればブレーキを力強く踏みつけて追突時の衝撃に備えます。

 でも実際は、ドライバーがテレビやDVD視聴のために画面に視線を落としていても、レベル3が正しく機能している最中であれば、システムがブレーキ操作を行い安全な車間距離を保ち停止します。

 Honda SENSING Eliteを搭載したレジェンドでは、車両の前後に青色LEDランプを追加し、イグニッションをオンにした状態では常に青く発光させています(デイタイムランニングランプではないので白色ではない)。

「レベル3の要件にこうした自動運転実行中を示す外的マーカーが必須になると踏んで追加したわけですが、実際のところ、法規には織り込まれませんでした。よって、走行可能状態では常に青色LEDを点灯させています」とはHonda SENSING Eliteの開発を担当した技術者の説明です。

■「これは人間が運転していません」と周囲に示す機能が必要

 ホンダではかねてより自動運転のプロトタイプ車両に対して、自車の行動(運転操作)を白、青、緑のLEDランプを外向けに発光させて周囲に知らせていました。

 こうしたコミュニケーション手法は相手が他車ドライバーだけでなく、歩行者や二輪車、自転車であっても機能するため非常に有効です。

 現状、国土交通省では車体後部に自動運転車両であることを示すステッカーを貼ることが定められましたが、車体に一カ所、それもサイズが小さいため運転中の他車ドライバーからは認知されづらい状況です。

レジェンドのレベル3対応車には「AUTOMATED DRIVE」のステッカーがナンバーの横に貼られている……が……、普通の人はこのステッカーの意味がなんなのか知らない

 システムは優秀ですが、万能ではありません。同時に、システムが代行する範囲はやはり限定的で、ドライバーはシステムからの運転再開の要求である「TOR(Take Over Request)」に従わなければなりません。

 車載センサーの認識範囲でのみ、正しい車両制御が行われる。これはわかりやすい部分でありますが、システム側からドライバー側へ運転操作の再開を要求する状況を理解した上で自動化レベルの各技術を使う。ここも非常に重要です。

 これから10年、20年と過ぎてゆくとレベル3やレベル4の技術が一般道路でも使用できる日がくると言われています。そうなると他車だけでなく、歩行者や自転車とのコミュニケーションも重要視されていくでしょう。

 信号機のない横断歩道では歩行者が優先されることはご存知の通りです。ただ、実際には停止しない車両も見受けられます。一方で、歩行者横断のため一時停止した車両に後続車が追突するという、いたたまれず痛ましい事故も後を絶ちません。

 自動化レベル4以上では、横断する歩行者、停止する車両、後続車のすべてに対して「横断歩行者がいること」が車々間通信や路車間通信によって意思の疎通が図られます。たとえば歩行者にはスマートフォンなどを通じて、各車両にはナビ画面や音声やディスプレイ表示によってそれらが伝えられ円滑な交通が期待できると言います。

 自動運転車両と手動運転車両の相性は、ここまま何も手段を講じなければ抜本的な改善は期待できないでしょう。

 しかし、車両の普及に合わせて間合いのはかり方やコミュニケーションのあり方が議論され、対処技術の実装が進めば相性は抜群に高まります。そのためにはまず、人と車両、車両と車両の意思表示が大切です。

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みんなのコメント

9件
  • 自動運転車にとって障害になるのは非自動運転車であり、二輪車や歩行者も障害になります。
    自動運転車に対し、バイクがすり抜けを行うと自動運転車は危険を検知してブレーキを踏んでしまうのではないですか。これでは事故を誘発します。
    全ての車両が自動化しないと安全性は確保できませんね。
  • 現状の段階だと自動運転は、高速道路のみ限定したら
    不要な飛び出しとか予想外の動きをする歩行者の事は
    あまり気にしなくて済みそうな?

    その内データが蓄積されて安全性の改良出来れば
    自動運転の発展はしやすいと思うんだけど。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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