EUでは2035年以降はゼロエミッション車、つまりはバッテリー電気自動車や燃料電池車のみとする規制を発表した。日本メーカーの得意なハイブリッドも2035年以降は発売できないことになる。
しかし、自動車の保有年数の長期化が目立っているだけに、すぐに街の車がEVのみとなるわけではない。
ハイブリッドも2035年販売禁止 欧州がEVシフトにまっしぐらな理由は何か?
そして日本でも「2050年カーボンニュートラル」という宣言がなされたが、果たしてこれは実現可能なのだろうか?
この先の日本の電気自動車時代を考察する。
文/小林敦志、写真/TOYOTA、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】日本の自動車界もいずれゼロエミッション車のみとなるのか!? 電気自動車時代への心構えを!!
■日本のお家芸ハイブリッドがEUで規制対象に
2021年7月に発表されたEU規制では、単純な内燃機関車はもちろん、HEV、PHEVも規制対象となる。つまり写真の日産 リーフなど、純電気自動車や燃料電池車のみが販売を許可される
報道によると、2021年7月14日、EU(欧州連合)の欧州委員会において、2035年にはゼロエミッション車のみの発売とする規制を発表した。
つまり、単純な内燃機関車だけでなく、日本車が得意とするHEV(ハイブリッド車)、さらにはPHEV(プラグインハイブリッド車)すら2035年以降は発売することができなくなる。
欧州委員会ホームページの関連リリースを見ると、2030年までに2021年比でCO2排出量を55%削減するとし、その後も段階的に排出量を削減し、「2035年の時点で登録されたすべての新車はゼロエミッション車になる」としている。
同時に欧州委員会はEU域内の主要高速道路においては60kmごとにBEV(純電気自動車)のための充電施設を、そして150kmごとにFCEV(燃料電池車)のための水素ステーションを設置していくとしている。また2050年までにEU域内において1630万箇所の充電ステーション整備を見込んでいるとの報道もある。
これだけ読むと、欧州では2035年になると走っている自動車がすべてゼロエミッション車になるのではないかと思ってしまうが、欧州では自動車の保有期間が長い傾向が目立っている。
現状では“内燃機関車全面的使用禁止”というような強権発動とまではいっていないので、街なかでは内燃機関車も結構目立っているのではないかと考える。
2015年に起きた、VW(フォルクスワーゲン)のディーゼルスキャンダルまでは、欧州ではクリーンディーゼル車がメインとなっていた。
しかし、当時フランクフルトの街を歩いていると、年式の古いディーゼル車、つまりクリーンディーゼル車とは呼べないモデルも多く走っており、ディーゼル車の排気ガス臭が目立っていて驚いた。
それもあるのか、ディーゼルスキャンダル発覚後は、手のひらをかえすように“ディーゼルは悪だ”みたいな動きが活発化し、欧州では車両電動化へ一気に舵が切り変わった。いまや、“欧州車=クリーンディーゼル”として、クリーンディーゼル仕様の欧州車がよく売れるのは日本市場ぐらいとなっている。
欧州以外のディーゼルに目を向けると、中国では粗悪軽油が多く、クリーンディーゼル車は故障リスクが高く売りたくても売れないそうだ。インドはイギリスの植民地だったこともあり、そのあたりは中国よりマシとのこと。アメリカはガソリンより軽油が高く乗用車では“金持ちの燃料車”状態となっている。
■日本のHEV勢には追い風から逆風に
ディーゼルスキャンダル以降、トヨタ プリウスをはじめとする日本のHEVには追い風が吹いていたが、どうやら短い春となりそうだ
HEVについて、EUから離脱しているイギリスではすでに、2035年で新車販売できないことが発表されている。ディーゼルスキャンダル後は、HEVを得意とする日系ブランドのHEV、とくに日系ブランドのなかでもそれを得意とするトヨタ車のHEVが注目されよく売れていた。
それまでは、欧州市場では韓国ブランドにも押され気味とされるほど苦手だった日系ブランド車に“追い風”が吹いてきたともされたが、その追い風は短期間で消えることになりそうだ。
日系HEVを狙い撃ちしたものとも考えがちだが、「ゼロエミッションのみにする」とのことなので、直接的な狙い撃ちとは思えない。
しかし前述したように欧州は保有年数が長いので、現時点で「電動車にしようかな」と考えているひとから見れば、HEVやPHEVに対しては、ネガティブイメージが出てきて選択されにくくなることも目立ってきそうだ。
ただし、欧州委員会のリリースによると、PHEVについては2030年までは“低排出ガス車”としてカウントするとしているので、PHEV以上に“ババをひく”のはHEVとなりそうだ。
■ヨーロッパの環境保護活動に漂う強い違和感
ハイブリッドには逆風ではあるが、トヨタ MIRAIなど最新の燃料電池車には追い風となるだろうか
“気候変動対策”という旗印のもと、車両電動化の動きは世界的にますます加速を見せているようにも見える。ただ、この動きは日本で感じるものと、欧州で感じるものとは空気の微妙な違いがある。
2019年にフランクフルトが会場となる最後のIAA(通称フランクフルトモーターショー/2021年開催からミュンヘンが会場となる)の取材のためフランクフルトを訪れると、ショー会場入口では環境保護団体と思われるひとたちが、抗議活動を行っていた。
この抗議活動は2017年(IAAは奇数年での隔年開催)時も行われていた。2019年に訪れた時、地元のテレビニュースを見ていたら、IAA開催直前に環境保護団体が自動車メーカーへ乗り込み、より地球環境破壊を導くとしてSUVの製造禁止を求めたというニュースが流れていた。
フランクフルト中央駅近くでは、若者がテントをはり、“自動車は地球の敵”みたいな活動を行っていた。日本でも環境保護活動は行なわれているが、それと比べるとなんともいえない強い違和感を覚えた。
現場で活動する若者などは心から地球環境の保護を考えているのかもしれないが、メーカーへ乗りこんだり、自動車は敵だとまで青少年に言わせてしまう、少々エキセントリックに見える活動は、何か別の力が働いているようにも見えた。
日本と異なるのは、環境保護活動を主たる活動とする政党があり、実際に議会へ議員を送り込み政治参画していることがある。つまり、見方を変えると欧州では環境保護問題は、政治思想対立の“テーマ”にもなっているのである。つまり、政治と直結しているといえるのである。
現にドイツでディーゼルスキャンダルが起きた時には、自動車産業に近いとされる、メルケル政権の弱体化も狙って非難が増大したともいわれている。
2019年開催のIAAは出展を取りやめるメーカーも目立ち、なんとも寂しいショーとなっていた。とくに地元ドイツ開催として、展示面積もハンパなく広く盛大にブースを構える、メルセデスベンツ、BMW、VWグループなども、例年に比べブース面積も狭く、どこかひっそりとしていた。
これには諸説あるが、そのひとつは環境保護団体などの動き(すなわち世論)に配慮したものではないかとの話もあった。
■準備を整えずに移行だけを叫ぶとオリパラのゴタゴタの二の舞に
東京有明のイワタニ水素ステーション。このような次世代燃料や電力のステーションの整備が課題となる
そもそもが、欧州の一連の車両電動化の動きの背景には、エコロジー関連業界のロビー活動が見え隠れするとの話も聞く。いわゆる“ゲームチェンジャー”の存在である。日本やアメリカに対してエコロジー分野で欧州の存在感を強調させ、“ヨーロッパが世界のリーダー”といったものを画策しているのではないかとされている。
地球を守ろうという高尚な考えで活動しているひとの存在を否定するつもりはないが、世界的に環境保護活動で有名な10代の北欧の少女については、「アメリカは非難するが、中国はスルーしている」との指摘も多く見える。
気候変動は待ったなしで続いている。いまや南欧では平均気温の上昇もあるのか、家庭用エアコンが当たり前のように設置されている。現状、西ヨーロッパでは“ムラッ気”はあるものの、サマーシーズンには“猛暑日”のような日も目立っており、一般家庭でのエアコン装着もそう珍しくなくなる日が近いように感じる。
そのなかで、自然エネルギーによる発電設備への切り替え、電動車増による電力需要増加のための送電インフラの再構築なども行わなければならないだろう。そんなにいっぺんに現状変更することが可能なのか、少々疑問にも感じてしまう。
日本でも菅首相が“2050年カーボンニュートラル”宣言をしているが、現状はかなり微妙なものと考える。東京オリンピック&パラリンピック(東京2020)での、政府の“グダグダ”ぶりを見れば、“とりあえず言っただけ”というようなパフォーマンスだけじゃないかという不信感も募る。
「補助金出すから、東京都内でどんどん急速充電施設を作ってください」という施策があるようだが、現状の送電インフラで都内において急速充電施設をドンドン作ればどうなるのか? あるBEV関係者に話をすると、苦笑するばかりであった。
■口だけ出して手も金も出さない政府
電気自動車には充電設備が不可欠だ。インフラ整備や購入補助金など具体策が何も出てこない中、威勢の良い掛け声ばかりが先走っている印象だ
2020年末から2021年の年明けにかけ、北陸地方で記録的な降雪とともに寒波が襲来した。その時暖房などのための電力需要が急増し、電力逼迫となったのは記憶に新しいところ。
本稿執筆時点では日本全国では例年どおりともいえるが、記録的な暑さとなっている。とくに北海道では21年ぶりの猛暑となっている。極端な電力逼迫は起きていないが、電力供給を心配する報道も目立っている。
筆者が販売現場をまわると、いまだに「北陸のほうでは、現状でも電力逼迫となったのに、BEVを増やし続けて大丈夫なのか」と聞かれることが多い。政府や官僚は「ガソリンから電気に代わるだけ」と考えているのかもしれないし、「面倒は民間人に丸投げすればいい」としているようにも見える。
紹介したような不安は、東京2020でも問題になったが、政府の具体的説明不足が挙げられる。掛け声ばかりで、電動車をふやすため政府としてインフラ整備や購入補助金など具体策が何も出てこないなか、“2030年にガソリン車販売禁止”とか、“2050年カーボンニュートラル”という掛け声だけがひとり歩きしている。
東京2020や新型コロナウイルス対策などへの政府の取り組みを通して、日本では“政治不信”が増大してしまったのは間違いないだろう。そのなかで、漠然とした電動車普及への不安を払しょくさせていくのは、より丁寧で具体的な説明を重ねていくしかないだろう。
2030年まで10年を切っている。東京2020のように、“試験勉強の一夜漬け”みたいな形で日本の本格的な車両電動化も見切り発車してしまうのだろうか?
■より広い視野でBEV普及をチャンスに
エンジンルームにはいわゆる内燃機関のしてのエンジンは存在しない。見慣れず未来感のあるBEVはまだまだ特別なクルマという印象が強い
BEVは“未来のクルマ”的な印象とまではいかなくても、日本国内ではまだまだ“特別なクルマ”という印象が世の中では強い。よくわからないだけでなく、車両価格もまだまだ高い。そのような“未知”なものを現場のセールスマンに半ば普及を丸投げするようなことだけはやめて欲しい。
EUは2035年にHEVやPHEVすら新車での販売禁止を表明した。そのなか、日本政府が車両電動化に際し「HEVで帳尻合わせすればいい」と考えているのならば、世界の笑いものになるだけでなく、日本の自動車産業のプレゼンスを大きく下げることにもなるだろう。
車両電動化で圧倒的に出遅れている日本は、このままならどんどん追い詰められるばかりとなるだろう。まさにゲームチェンジャーの思うつぼである。車両電動化というのは、各国の政治力も試されているものと考えている。もし、ここでBEV普及へ大きく舵を切ることができれば、日本は世界で再評価されていくのは間違いないだろう。
そもそも論になるが、日本の発電施設の多くは化石燃料を使用しているので、このまま車両電動化を進めても出口が異なるだけで、CO2排出が続くことになる。
ビニール袋でのゴミ出しをやめないのに、レジ袋の無料配布が原則禁止となった。そのためゴミ捨て用にビニール袋を買う人が増えたといった話と似ている。ことは単純に充電施設増やして、電動車増やせばいいという話ではないのである。
風力や地熱、太陽光など自然エネルギーへのシフトが叫ばれているが、それだけではとても賄えないし、発電コストも上昇し、電気代の高騰を招きかねない。とはいっても原子力発電は再稼働も含め、遅々として問題解決が進まない、高度な政治問題化となってしまっている。
政府がどれだけグランドデザインを描けるかにかかっているのだが、残念ながら現状では、いまの政府に創造力がそこまで豊かなようには見えない。ことは自動車メーカーに丸投げして終わりではないのである。
カーボンニュートラル宣言をしたり、2030年にガソリン車の販売禁止を進めるのなら、それなりの環境整備を政府主導で進めるのは当たり前。一般国民にいらぬ混乱を与えることだけはこれ以上ご勘弁願いたい。
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みんなのコメント
日本車は余裕でEV化できるでしょ。
ただ国内でのインフラが整っていなければ、国内専用
にPHEVは残さないとならないだろうけど。
日本車対策でEV化を進めすぎると欧州車は、インフラ
が整っていない新興国での販売が落ち込むなどのリス
クも考えないとならないし、現実はもう少し先延ばし
になる気がする。
あと充電時間の大幅短縮。