世の中には、フルモデルチェンジされずにその役目を終え、一代限りで消えていくクルマがある。そんななんとも悲しいクルマたちを毎回1台取り上げ、「なぜそんな憂き目にあってしまったのか?」と振り返ってみようと思う。
■21世紀のクルマを新たな方向へと導く
なぜ平板なデザインに? VWロゴ、変更の理由…日産も間もなく!?
名前はいいと思ったんだけどなぁ。
語源は、もちろんルネッサンス。でも、ルネッサは何を復興・再生したかったんだっけ? 大きく傾いていた日産の経営状態とまでは、さすがに言わなかったはずだし。
なかなか思い出せないので、発表・発売時のニュースリリースを引っ張りだしてみる。
すると、車名の由来がしっかり載っていたが、この説明文が長い。それでも無駄な文言はなく要約が難しいので、以下にそのまま引用する。
『14世紀から16世紀にかけてイタリアを中心にヨーロッパ全土で行われた“人間中心”の近代化への転換を図る文化革命運動「ルネッサンス〈RENAISSANCE〉:文芸復興、再生」をイメージして名付けた造語。“人間を中心に置いたクルマづくり”の「復興、再生」を表現するとともに、21世紀のクルマを新たな方向へと導く「革新」の存在になってほしい、という思いを込めた。』〈1997(平成9)年10月22日の「日産ニュースフラッシュ」より〉
そうだ、人間を中心に置いたクルマづくりだった。このフレーズ、今ではほかのメーカーでも耳にするような…。
■リムジンばりのニールームスペース
開発コンセプトは“パッケージ・ルネッサンス”。ルネッサの“人間中心”は、従来のクルマと一線を画する室内空間の贅沢な使い方にあった。
背の高い3ナンバーワイドのミドルサイズボディは、一躍大ヒットした初代ホンダ・オデッセイと同等。しかし、室内をあえて2列シートとし、後席に570mmのロングスライド機構を与えることで、後席にはまさにリムジンばりの圧倒的ニールームを実現していた。さらに、運転席・助手席は回転機構を備え、停車状態では前後席の対面シートも楽しめた。前席はコラムATと足踏み式パーキングブレーキで、左右・前後のウオークスルーが可能だった。
このシートアレンジを可能にしたのは、床下にシートのスライド機構を収められる二重フロアのボディ構造。ルネッサのパッケージは元々、床下に大容量バッテリーを内蔵するEV(電気自動車)のために開発された。主力市場は、ZEV(無公害車)の販売義務づけを見据えた米カリフォルニア州。そのプラットフォームを一般的なガソリン車と共用にするため、パッケージの特徴を新しい2列シート車の提案に活用したのがルネッサだった。
じつは、車名の由来の引用にはまだ続きがある。
『さらに「ルネッサ」(R’nessa)」の頭文字である「R」には、「Run(走り)」、「Relax(リラックス)」、「Recreation(レクリエーション)」という意味を持たせた。』
実際、走りはよかった記憶がある。ボディは高剛性。足まわりは、FFがマルチリンクビーム、4WDはマルチリンクとともに日産自慢のリヤサスで、二重フロアによる腰高感がほとんど気にならないロール剛性と、優れた接地性を両立していた。エンジンはFFが2L・NA、4WDは2Lターボ&2.4L・NAと充実のラインアップ。
また、レクリエーションについても、前述の回転対座シート、余裕の積載容量やユーティリティレールなどを備えた荷室など、レジャーなどに活躍するだけの資質はあった。
■とはいえ、後席は快適ではなかった…
しかし、もう一つのR、リラックスについては、残念ながら車名どおりではなかったのだ。
後席はニールームが有り余る広さでも、フロアに対してシート位置が低く、ヒザを抱える体育座りのような着座姿勢。頭上高の余裕も少なかった。ボディの全高は、今でいうとスバルのレガシィアウトバックくらい。一方、フロア地上高は本格オフローダーなみに高かったから、それも道理だった。乗降性についても、とくに後席はお世辞にもホメられなかった。
月販目標はオデッセイの向こうを張る6500台。果たして、これが売れなかった。
最大の敗因は、やはりパッケージ。室内長とアレンジは確かに目を引いたが、乗降性にも影響した全高/室内高の低さは如何ともし難かった。また、2列シートだけどミニバンなのか、背が高いけどステーションワゴンなのか、商品ジャンルが曖昧でユーザーに伝わらなかった点もある。同じプラットフォームで開発された3列シートミニバンのプレサージュは、ある程度の販売実績を残している。
人間中心というより、バッテリー中心。ルネッサによるルネッサンスは成し遂げられることなく、2001年に幕を閉じた。
肝心のEVはといえば、カリフォルニアだけでなく(現地名はアルトラEV)、翌98年国内にもルネッサEVの名で導入された。販売台数は両車合わせて約200台。これもほかの旧世代EVと同じく露と消えたが、リチウムイオンバッテリーやモーターをはじめとする様々な技術開発は、2010年12月に発売された新世代EVの初代リーフにつながっている。
〈文=戸田治宏〉
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みんなのコメント
広いけど床が高くて体育座りみたいな感じに。
プレサージュもそうだったけどそこが惜しかったね。