自動車雑誌ドライバーが過去に取り上げた記事が今に蘇る「DRアーカイブズ」。前回に続き、1989年4-20号の「マツダ ファミリア 3ドアHB・GT vs ライバル5車 」を振り返る。
◇◇◇以下、当時原文ママ◇◇◇
ネットがないのに通販はあった!? 平成に突如現れたクルマの通販ショップ【80年代の限定車・特別仕様車研究 旧車雑誌オールドタイマーより】
■リニアリティは? 回頭性は?
ハンドリング・チェック
ファミリアのフットワークは、まさに「軽快」という言葉がピタリとあてはまるようなキビキビ感の高さが売り物である。
新しい“ファミリア系列”では、この3ドア・ハッチのみが、2450mmというホイールベースを採用している。セダン、そして4ドアクーペのアスティナは2500mmだ。
メーカー側にしてみれば、2種類のホイールベースを作らなければならないということは、非常な負担の増加を意味する。合理性から言えば、単一のホイールベースでいきたいところだ。ところが、マツダの新しいファミリアに注いだ熱意は、その合理性を超えた。そして、それも功を奏したのだろう、3ドア・ファミリアは、明らかにセダン系を超えるキビキビ感と、軽量スポーティカーならではの、軽快なフットワークを実現したのである。
ファミリアのハンドリングは、体感上は“ニュートラル・ステア”と言っても差し支えないレベルにある。少なくとも、多くの人が「FF車」と聞いて思い浮かべるような、強いアンダーステアに悩まされるようなことはない。場合によっては、意識的なスロットルOFFによるタックインを利用し、積極的なコーナリングフォームをつくりだしていくような走りも可能だ。こんな若々しいイメージの軽快なフットワークこそ、エンジニアがファミリアに求めたテーマである「軽快感の演出」を、見事に具現化したものと言えよう。
もうひとつ、新しいファミリアの走りで特筆しておきたいのは、つねに、きわめて高いボディ剛性感を味わわせてくれることだ。
とにかく、どんな路面をどのような速度で走ろうとも、ファミリアのボディにはまったくびくともしないような骨太感がある。これは、このクラスのFF2ボックスカーの中では抜きん出ていると言っていい。
「基本部分をシッカリと押さえて登場した」ことが、新しいファミリアの走りに対する好印象を生み出している。
■ジェミニとトレノも軽快指向
このファミリアGTのライバルに値するクルマたちの印象にも、ごく簡単に触れておこう。
まずはミラージュ・スイフトR。ミラージュというクルマには、その最ホット版としてDOHCターボ仕様が存在するためか、意外なまでに“ファミリー・ライク”。とくにハンドリングに関しては、このクルマを“ホットハッチ”と認定するのにはやや抵抗があるくらいに、ソフトな仕上げが目立つ部分だ。軽快感も薄く、ドライビングそのものの楽しさは、特別に高いとは言えない。 どちらかというと、つねに安定指向が感じられるセッティングが施されているのだ。
ジェミニZZは、設計概念の方向性としてはファミリアと共通する部分がある。すなわち、「軽快感の演出」ということが感じられるフットワークの持ち主なのだ。ただ、それによる乗り心地の犠牲量は少し大きめだ。ファミリアにもその傾向はあるが、抜群のホールドを見せるものの、振動吸収性においては辛い点があるレカロシートを採用したこともあり、毎日の足として使うには、ちょっとばかり覚悟を必要とする。
このクルマで許容できないのはブレーキだ。多少ハードな使い方をすると、たちまち踏力が急増し、ひどいフェード現象に見舞われる。実用域で考えても、そのレベルは低いと言わざるをえない。リヤのドラム式と関係があるのか、リヤのロック点も早い。BBSホイールからブレーキドラムがのぞくという図も、あまりカッコウの良いものではない。
トレノというよりも、このクラスのトヨタのFFスポーティカーも、全般的にやはり「軽快感の演出」ということを意識させられるハンドリングの持ち主だ。リヤのグリップレベルを、やや低めに抑えるという、言わば消極的な“演出法”だが、しっかりとしたステアリング系のおかげで、ステアリング・リニアリティ、車両コントロール性はともに非常に高く、印象は悪くない。
シビックの、サス・ストロークの短さは、もはや有名なハナシ。完全な舗装路では良いが、ストロークの大きな領域まで使うようになると、途端に音を上げ、ステアリング・リニアリティの低下や挙動の不自然さを招く。ボディ剛性感も、最新の同級他車と比べると明らかに低い。次期シビックに大いに期待したいところである。
サニーRZ-1は、モデルチェンジから年がたちすぎているから、深く言及しにくい。とくにどこが悪いというわけではないが、全般に、やはり古臭さを感じる。ドライビングの楽しさを感じることはできない。今年予定という、モデルチェンジに期待したい。
〈文=河村康彦〉
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