2023年の生産終了まで押し寄せた注文
フォルクスワーゲンUp!にGTIが追加されたのは、2018年。活発な走りを楽しめる小さなハッチバックとして英国では2大勢力になっていた、ルノー・トゥインゴ GTとスズキ・スイフト・スポーツの間へ、割り込みをかけた感じだった。
【画像】生産終了まで押し寄せた注文! フォルクスワーゲンUp! GTI 同時期のライバルと比較 全127枚
そのトゥインゴ GTやスイフト・スポーツより、英国価格はUp! GTIの方がお手頃。燃費が良く、運転は一層面白く、実用性も低くなかった。結果として、2023年に生産終了を迎えるまで、フォルクスワーゲンには注文が押し寄せた。
最高出力は119psで、0-100km/h加速は8.8秒。最高速度は196km/hと、どれも驚くほどの数字ではないものの、好調に英国では売れ続けた。今回は、この魅力を振り返ってみよう。
渋いクルマ好きは、大パワーを誇示するモデルより、ジャイアントキラー的な個性を好むことが多い。量より質を重視する。トヨタGR86やマツダMX-5(ロードスター)は、その典型といっていい。
この2台のエンジンは、4気筒の自然吸気。アクセルペダルを傾けた瞬間、回転数へ反映され、望んだパワーを引き出せるのが魅力の1つだ。
一方、Up! GTIは1.0L 3気筒ターボ。低域トルクと、6000rpmまで躊躇なく回る質感で、不満ない動力性能を享受しやすい。郊外の一般道を走らせれば、排気量がひと回り大きいエンジンのように感じるほど。
小ぶりなボディで、車重は995kg。最大トルクは20.4kg-mあり、初代ゴルフ GTIを凌駕する。高速道路の速度域に達すると、若干のパワー不足を感じてしまうのが、唯一の弱点だろう。
走りが楽しく燃費は良好 小粒なカッコ良さ
燃費は、カタログ値で20.9km/L。実際の環境でも、気ままに運転して14.0km/L以上は難しくない。実は筆者も1年弱所有していたが、積極的に扱っても13.8km/Lが下限だったと記憶している。
操縦性も素晴らしい。グリップ力が高いだけでなく、姿勢制御は安定し、動きは漸進的。落ち着きではポロ GTIに及ばないとしても、15mm低いスポーツサスペンションと8mm広いリアトレッドで、すばしっこい走りを堪能できる。
乗り心地も、ポロ GTIの方が滑らかだが、同時期のスイフト・スポーツやトゥインゴ GTより良好。ちなみに、トランスミッションは6速マニュアルのみ。トラクション・コントロールは、完全にはオフにできない。
装備は、小柄な割に整っていた。レッドの間接照明とエアコン、スマートフォン・ホルダー、ブルートゥース対応ステレオなどが標準。タータンチェックのシートと、5.0インチのインフォテインメント用モニターも備わる。
英国仕様のオプションリストには、シートヒーターやツートーン塗装、バックカメラ、オートエアコンなどが並んだ。2019年にフェイスリフト。新基準の排気ガス規制へ対応し、エンブレムが変わったが、基本的な見た目や装備に変更はない。
スキッと端正なスタイリングを描いたのは、巨匠、ウォルター・デ・シルバ氏。今でも古びた感じはしない。
走りの楽しさも、お財布に優しい燃費も、小粒なカッコ良さも、満遍なく満たしたUp! GTI。英国では1万ポンド(約192万円)前後で探せてしまう事実を、大いに喜びたい。
新車時代のAUTOCARの評価は?
フォルクスワーゲンUp! GTIは、これまで登場した小さなホットハッチへ劣らない魅力を備えている。親しみやすく、最も訴求力があるといっても良いだろう。このクラスでの、純粋なドライバーズカーというわけではないけれど。
製造品質に優れ、スタイリングは魅力的。好ましい運転体験と、クラス上のモデルとも比較したくなる能力は、高く評価すべきもの。Up! GTIは、大成功といえる仕上がりだ。 (2018年3月21日)
オーナーの意見を聞いてみる
ローズマリー・リース氏
「今から2年前に、フォルクスワーゲンUp! GTIを購入しました。若かった頃の懐かしい思い出が蘇るような、楽しい運転を味わっています」
「今は、リアシートを外して軽量化。ルーフパネルは、シートのタータンチェックとコーディネートした、グラフィック・フィルムで覆いました。でも、それ以外はノーマルのままです」
「リアのドラムブレーキは固着しがちで、自分のクルマも修理しました。しかし、それ以外のトラブルは殆どありません。不満といえるのは、トラクション・コントロールをオフにできないことくらい。見た目もカワイイし、とても面白いクルマですよ!」
購入時に気をつけたいポイント
ボディ
ボンネット裏のラッチ付近が、飛び石傷で錆びやすい。まだ古くないクルマだから、早期に発見すれば深刻な問題にはならないはず。
トランスミッション
アイドリング中や加速時に、トランスミッションから異音が発生することが報告されている。具体的な故障ではないとしても、不具合へ繋がる可能性はあるので、試乗で予め確認したい。
サスペンション
外気温が低い日に、急に強い負荷を掛けると、サスペンション・スプリングが折れてしまうことがある。ダンパーが柔軟に動き始めるまで、丁寧に運転したいところ。ダンパーとスプリングの状態は、購入前に確かめたい。
ブレーキ
氷点下時に、サイドブレーキが固着することがある。ドラムブレーキ内の水分が凍結すると、この症状が出てしまう。排気熱で充分に温めたり、潤滑油を吹くことで程なく溶ける。不安なら、点検を受けても良いだろう。
ホイール
扁平率の低いタイヤを履くため、アルミホイールにはガリキズが付きがち。表面がダイヤモンドカット加工されており、傷は目立ちやすい。修理には、英国では1本100ポンド(約1万9000円)前後必要になる。
電気系統
ダッシュボード上にタッチモニターは備わらないが、フォルクスワーゲンの「マップ&モア」アプリをスマートフォンで利用できる。クルマ側と連動させ、タコメーターも表示可能だ。ただし処理量が多く、利用時はスマートフォンが熱くなりがち。
知っておくべきこと
フロントバルクヘッド付近に備わるサウンドアクチュエーターは、3000rpm以上で合成エンジン音を放つ。他の例のように安っぽい音ではなく、ゴルフR32のような、聴き応えのある音響体験を生んでくれる。
衝突安全試験のユーロNCAPの結果は、2019年で3つ星。それ以前の基準では5つ星だった。星が減った理由は、歩行者の保護性能と運転支援システムのスコアが低かったことにある。
英国ではいくら払うべき?
7500ポンド(約144万円)~9999ポンド(約191万円)
走行距離が11万kmを超えるような、フェイスリフト前のUp! GTIが英国では売られている価格帯。整備記録がしっかり残った例もあるようだ。
1万ポンド(約192万円)~1万1999ポンド(約229万円)
主にフェイスリフト前だが、走行距離は4万km前後へ短くなる。必要以上に改造された例には注意したい。
1万2000ポンド(約230万円)~1万5999ポンド(約306万円)
英国でUp! GTIを探すのに、望ましい価格帯。走行距離は3万km以下のものも多い。フェイスリフト後も含まれる。
1万6000ポンド(約307万円)以上
新車に近いようなUp! GTIをお探しなら、この価格帯から。オプションもふんだんに付いている。
英国で掘り出し物を発見
フォルクスワーゲンUp! GTI 登録:2019年 走行距離:6万1200km 価格:1万1475ポンド(約220万円)
オプションだった300Wサウンドシステムと、シートヒーターが備わる。ボディには傷がほぼなく、インテリアの状態も良い。フォルクスワーゲン・ディーラーによる整備記録も揃っており、1年の保証も付帯するそうだ。
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