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2019年2月19日、ホンダの八郷社長が緊急記者会見を開き、グローバルで4輪車生産体制を進化させることを発表した。その中身は、電動化への対応を強化するため、グローバルでの生産箇所と生産能力の適正化を進め、加速する電動化に対応する生産体制を新たに構築するというものだ。
イギリス工場、トルコ工場での生産を2021年に終了
その一環として、イギリスのスウィンドン工場(HUM:Honda of the U.K. Manufacturing Ltd)で生産しているシビック・ハッチバックを2021年で終了すること、トルコの工場(HTR:トルコホンダターキー・エー・エス)でのシビック・セダンの生産も2021年で終了することが発表された。つまり、両工場での生産の終了とは、工場の閉鎖を意味する。
日本の自動車メーカーはホンダに限らずグローバル販売のために海外に生産工場を建設し、現地生産を行なっているが、その海外の工場閉鎖はかつてなく、異例中の異例な決断だ。ホンダにとってイギリスの工場は1985年に操業を開始し、アメリカのメアリズビル工場についで歴史があり、ヨーロッパ進出の象徴的な生産拠点となっていた。
さらに、時はあたかもイギリスではEU離脱(ブレグジット)に関して政治的な混乱が続いており、その行方によっては経済的な混乱も発生すると予想され、そのイギリスからの脱出ではないか、という憶測もある。そのため、このニュースは日本だけではなく、イギリス、ヨーロッパでもイギリス工場での生産終了、工場閉鎖について大きく採り上げられている。
ただし、八郷社長は記者会見でもわざわざブレグジットに関してコメントし、これとは関係ないホンダとしての決断であることを強調している。
またイギリス、トルコの工場をでの生産を終了する2021年とは、現行型のシビック・ハッチバック、シビック・セダンがモデルチェンジを行なうタイミングだとされている。
では、グローバルカーである次期型シビックはどこで生産するのか? 八郷社長はアメリカ、日本、中国で生産するという。そしてヨーロッパ向けのシビック・ハッチバックはアメリカ工場からヨーロッパに輸出する形になると語った。またハイブリッド・モデル、電動車は、電動化が最も加速しており、車両の規制なども似ている中国で集中生産し、ヨーロッパに輸出する体制を構築するとしている。つまり、アメリカ、中国での生産を増強し、ヨーロッパをカバーするわけだ。
ホンダのグローバル生産体制の見直しの背景
ホンダは日本の自動車メーカーの中でも最も積極的に海外生産を行なってきた。販売される地域で現地生産することを基本方針としている。さらに2013年にはグローバル6極体制を打ち出し、グローバル販売と生産を充実させる戦略をとってきた。グローバル6極体制とは日本、北米、欧州、アジア・大洋州、中国、南米の各地域を意味し、それぞれの地域での販売、生産を行なう体制を築くことだ。
このグローバル6極体制は、2013年に登場したフィットから適用され、「世界6極同時開発」、「現地最適図面」と称し、車種ごとの基本設計は共通だが、細部仕様や調達はそれぞれの地域の事情を反映させることで、世界販売台数の拡大を目指した。また上級ブランドのアキュアラは最大市場であるアメリカを開発拠点とし、中国は現地の顧客ニーズに対応した商品を現地で開発する体制を強化している。
その結果、各地域のニーズに適合した車種の開発が進み、北米専用の大型SUV「パイロット」やライトトラック「リッジライン」などが成功している。またアジアの新興国向け専用車や中国での専用車の開発では、各地域の販売を支える柱に成長している。その一方で、グローバルの車両開発の頭脳部となっているホンダ技術研究所は、世界各国の現地開発、現地生産をサポートする必要があり、負担は増大する一方となった。
つまり、グローバル6極体制は営業面では成功したといえるが、同じフィットやシビックを世界各地の工場でそれぞれ独自化させたため、開発の基本を担うホンダ技術研究所の能力をオーバーし始めたのだ。
こうした状況に対して、ホンダは改めてグローバル・モデルの再定義を行ない、グローバル・モデルに新しいモジュラープラットフォームを導入し、フィット、シビック、アコード、CR-V、HR-Vなどで共通化し、開発の効率化を目指す方向に舵を切った。その第1段が、現行シビックのグローバル・モジュラー・プラットフォームの導入だ。
この結果、シビックはイギリス工場でハッチバックを生産し、アメリカ、日本、トルコ、中国でセダンを生産するという分業体制になり、イギリス製のハッチバックはアメリカや日本に輸出される仕組みだ。シビック・ハッチバックタイプRに至っては、アメリカでタイプR用の高出力エンジンを生産し、そのエンジンをイギリス工場に送って車両を生産し、ヨーロッパや日本に輸出するという流れになっている。
戦略の転換
ホンダの4輪車の販売台数、業績ともに大筋では順調といえるが、以前から指摘されてきた営業利益率の低さという課題が残っている。2017年度の営業利益率は5.4%だったが、2018年度決算の見通しでは5.0%となっており、各自動車メーカーの中でも低いレベルになっている。
その理由はいくつかあると考えられるが、最大の課題は、世界各地の工場の稼働率の低さにある。つまりホンダは他の自動車メーカーに先駆けて海外での現地生産を進めてきたが、逆に現地の市場動向、経済動向により稼働率が下がるケースが生じてきたのだ。現時点での工場の生産は年産540万台体制となっているが、平均稼働率は97%だという。
この現象は、日本、ブラジル、タイ、トルコ、イギリスの各工場で発生している。そのため、まずブラジル、タイ工場の組立ラインで、休止中のラインは廃止するなど工場再編を行ない、日本では狭山工場を閉鎖して寄居工場に集約し、各工場での稼働率を高める手を打ち出した。
イギリス工場は第1ラインが年産16万台、第2ラインが年産10万台の能力を持っているが、現在は第2ラインは休止され、第1ラインだけでシビック・ハッチバックを年産16万台規模で生産している。そしてそのイギリス製のシビック・ハッチバックの55%はアメリカに、10%は日本に輸出されているのが実情だ。つまりハッチバックの本場のヨーロッパ向けは35%に過ぎないことになる。トルコ工場は年産5万台の規模で、これも生産規模から見て採算は取れない状態だ。
したがって、この2工場を閉鎖することで生産効率が高まることは明らかだ。八郷社長は、新グローバル生産体制となる2021年末の段階で、グローバル生産能力は年産510万台の規模で、稼働率は100%を超えることができるとしている。
今回、最も問題となっているイギリスのスウィンドン工場の稼働率の悪さの原因の背景は、ヨーロッパでのビジネスの低迷が続いていることだ。ヨーロッパ市場でのシェアは1%を切っており、現状では回復する気配がなく、イギリス工場での採算性、営業実績を合わせれば赤字体質ということができる。
主としてヨーロッパ市場にアピールするためのF-1グランプリの効果も薄い。そのため八郷社長は、2021年でイギリス工場の生産終了、電動車を中国からヨーロッパへの輸出体制の構築と合わせ、ヨーロッパにおけるブランド戦略を強化すると語っている。
シビックを例に取れば、アメリカ、中国でセダンを中心にしてヒットしている一方で、Cセグメント・ハッチバックの本場のヨーロッパではシビック・ハッチバックは負け組に入っている。こうした現実から明らかなように、フィット(現地名ジャズ)、シビック・ハッチバックの巻き返しと新開発の電気駆動車により、ヨーロッパ・ビジネスを立て直すことが求められている。
ホンダの先代の伊東孝紳社長は、グローバル年産600万台体制という拡大戦略を一時掲げたが、フィットのリコール問題などで軌道修正を余儀なくされ、後を引き継いだ八郷隆弘社長は開発体制、生産体制の抜本的な見直し、2輪(研究所における開発と生産の一体化)、4輪ビジネスの再編を行なう役割を担っている。
4輪ビジネスは新たに本社内に副社長が担当する4輪事業本部を設置し、ホンダ技術研究所は車種開発を担当するオートモビルセンター、デジタルソリューションセンター、ライフクリエーションセンター、車種開発を行なわない先進技術研究所などに大幅再編し、4月1日から新たなスタートを切ろうとしている。
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