以前は「5速もあれば最先端」といわれていた乗用AT車のトランスミッション。しかし現在の主流は6~8速、スポーツモデルになると9速、なかには10速にもなる多段ギアを備えるクルマがある。ATがここまで多段化してきた理由はなぜなのだろう? この先12速や15速とかが出てくるの?
文/吉川賢一、写真/レクサス、日産、ポルシェ、シボレー
12速とか15速とか出んの? EVには不要? クルマのATは何速あれば十分なのよ!
■これ以上は増えてもメリットはほぼない?
2017年に登場したレクサスLCは、ガソリンモデルに10速ATを搭載した
現在のガソリン車におけるトランスミッションは、無段変速機(以下CVT)が主流だ。
かつての小型車向けCVTは、ハイパワーエンジンのトルクを伝達しきれない(プーリーとベルトが滑るため)とされたこともあった。
しかし現在のCVTでは改善されている。
たとえば、日産のエクストロイドCVT(1999年登場のY34セドリック、V35スカイラインにV6エンジンと組み合わせて採用)や、エクストロニックCVT(海外モデルの「アルティマ」搭載の可変圧縮比Vターボ(最高出力248PS)と組み合わせて採用)など、ラージセダンクラスでもCVTが使われている。
ただ、300PS超の出力となると、有段AT(DCT含む)が必要となってくる。
ガソリンエンジン車は回転数をある程度上昇させないと所望のトルクが発揮できない。そして、トルクが強く出る回転領域(トルクバンド)を維持するよう、発進時や登坂時には低速のギアを使い、速度が乗り始めたら中速のギアにシフトアップして、切れ目のない加速を狙う。
高速走行になれば高速走行用ギアへとシフトアップして低燃費を狙う。こうした目的を実現するため、これまでは有段ギアの段数を増やしてきた。
現時点で最も段数の多いAT車は、2017年にレクサスLC500が世界初搭載した、アイシンAW製の10速AT車だ。細かく刻まれたステップ比(隣り合うギヤ比同士の比率のこと)のおかげで、シフトダウンもシフトアップも、流れるようにリズミカルに変速する、有段トランスミッションの極みといえる。
ただ、10速AT以上にギアを増やしても、最高速100km/h(部分的には120km/h)の日本では、メリットはあまりない。ギアのつながりはさらに滑らかになるだろうが、ギアが増えるぶんコストは上がるし、シフトチェンジもビジーになるし、そもそも最上段のギアを使わないかもしれない。実際、欧州車に多い9速AT車でさえ、最上段ギアに入るシーンはなかなかお目にかかれない。
トラックの世界では、15速や18速、20速のギア比もあるが、それは、20トン、30トンといった超重量級の荷物を積んだときのゼロ発進などのため。我々が普段乗っているような普通乗用車においては、これほどの多段ギアは無用の長物なのだ。
■バッテリーEVにも今後はトランスミッションが搭載されるはず
電気自動車、日産リーフのパワートレイン。トランスミッションはないが減速ギアはある
一方、現在の量販バッテリーEVには、(一部の車種を除いて)トランスミッションは備わっていない。
電動車に備わるモーターは、ゼロ回転時から強いトルクを発揮できるため、もっともトルクが欲しいゼロ発進や坂道発進のようなシーンから、市街地などの中速、高速道路などの高速まで、変速をせずに走行することが可能だからだ。
ただ、モーターの回転を適切な数に落とす減速機(ギア)はある。日産リーフに搭載されているEM57モーターの最高回転数は1万500rpmほどだ。最終減速比は8.193とあるので、およそモーターが8回転すると車軸は1回転、つまり減速(ギヤダウン)されている。
モーターの大きさ(出力特性)と減速比を適切に設定してタイヤを回転させることで、世界のおおよその速度上限レンジである140km/h程度ならば、トランスミッションがなくともカバーできるようになっている。
また設計的にも、トランスミッションはないほうが、省スペースで済む(他のスペースに使える)、整備対象が少なく済む(トランスミッションの整備が不要)などのメリットもある。こうした背景から、現在のバッテリーEVは、1速が主流となっている。
ただ、(バッテリーEVにトランスミッションが)まったく必要ないわけではなく、内燃機関車と違い、回転数が増えるほど電費が落ちる傾向のあるバッテリーEVでは、航続距離確保のために、トランスミッションが導入される可能性がある。
2019年に登場したポルシェのBEV「タイカン」が、業界初となる自社製の2速トランスミッションを備えて登場したことは、ちょっとしたニュースになった。
タイカンは、後輪のアクスル上に、ショートレシオの初期加速用ギアと、ロングレシオの高速走行時の加速維持用ギアの、2速トランスミッションを備えており、ポルシェによると、「加速の強さと最高速度を両立し、さらには、航続距離を伸ばすこと」が狙いだという。
実際、タイカンGTSの最高速度は250km/hにもなる。
バッテリーEVであろうとも内燃機関と遜色のない最高速を求められるポルシェならではの技術だといえるのかもしれないが、一般的な量販BEVであっても、トランスミッションを搭載することで航続距離を伸ばせる可能性があることから、導入検討中のメーカーも多いはずだ。
いずれは、量販BEVにもトランスミッションの流れがやってくるものと予想している。
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■すでに変速機付きe-Axle搭載の動きが
BEVのポルシェ タイカンは2速トランスミッションを搭載している
2023年12月初旬に富士スピードウェイにて行われたNISMOフェスティバルの会場で、トランスミッションメーカーのジヤトコが、エンジンとパワートレインを取り除き、バッテリーとe-Axleを搭載したコンバートバッテリーEVの日産タイタンを世界初公開している。
このe-Axleは、モーターと変速機を一体化したパワーユニットで、3速のギアを備えており、一速は低速時やトーイング(けん引)の際に使い、2速は街中のような走行シーンをカバーし、3速は高速巡行の低電費走行用とすることが可能としている。
この例をみても、レイアウトやサイズの問題はあるにせよ、近い将来、e-POWER車やバッテリーEVに搭載される可能性は高い。
もちろん海外メーカーも考えることは同じで、ドイツの自動車サプライヤZFが、2019年頃にバッテリーEV用のトランスミッションe-Axleの開発を発表しており、主要自動車メーカーへ2025年ごろから供給開始する予定だという。
日本と海外、どちらが先に変速機能付きのe-Axleを商品化し、どのクルマに載せてくるのか!?? 今後が非常に楽しみだ。
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みんなのコメント
最低4速は要ると思いますよ。