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高価格の日産「シーマ」がバカ売れだったバブル期の「シーマ現象」とは何だったのか?

掲載 更新 19
高価格の日産「シーマ」がバカ売れだったバブル期の「シーマ現象」とは何だったのか?

■バブルの成功者に選ばれた日産「シーマ」

 女優の伊藤かずえさんの愛車のレストアを日産がおこなうとして、いま大いに注目されている初代「シーマ」は、1988年1月に発売されました。

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 正式名称は「セドリックシーマ」「グロリアシーマ」、型式も「FPY31」と、それぞれセドリックとグロリアの上級バリエーションとして設定された車種でした。

 そしてこのシーマはバブル景気期間中に飛ぶように売れ、高価格の乗用車がバカ売れしたことが後に「シーマ現象」と呼ばれるようになり、当時の旺盛な消費活動を象徴する言葉として使用されています。

 ところが、シーマが突然登場して突然売れたのではなく、世相や時代背景の変化や偶然が複雑に絡み合って売れたのです。

 日本は1973年と1979年の石油危機後、アメリカに集中的に製品を輸出して黒字を得る国となり、高度経済成長を遂げた日本をたたえる風潮が見られるようになりました。

 一方、1983年のNHK朝ドラマは「おしん」を放送。太平洋戦争前後を生きた主人公を描き、戦時中の記憶がある世代に「おしん」ブームが起こりました。

 このブームは、「太平洋戦争中の苦労を忘れない」ことの最後の現れだったのかもしれません。

 そして1985年、通称「プラザ合意」が開催されて円安ドル高傾向が是正。急激な円高ドル安となり、輸出産業は価格競争上不利な立場に追い込まれ、その対策として、国産車メーカーは国内需要を強化する「内需拡大」に転換しました。

 これらの状況から、おしんブームの「節約」や「苦労」は、国のためにならないことになっていったのです。

※ ※ ※

 シーマ以前の3ナンバー車は、5ナンバー車のバンパーやサイドプロテクションモールを大型化することでサイズを拡大していました。これは3ナンバー車の自動車税額が高額で、販売の主力が5ナンバー車だったことに起因します。

 そんななか、1987年に発売されるトヨタ「クラウン」が3ナンバー用ボディのモデルを発売するとのうわさから、日産は急遽3ナンバー用ボディのシーマの開発を始めたとされています。

 ところが、クラウンの3ナンバー用ボディは5ナンバー用ボディと似たイメージで、インパクトが小さかったのです。

 一方、シーマは開発が遅れたために、セドリック・グロリア発売から8ヶ月後の1988年1月、大幅に異なるスタイルで登場しました。

 また最上級グレードのエンジンは255馬力の3リッターV型6気筒DOHCターボと、従来の高級車にはない高出力を誇ったのです。

 急加速時のシーマは、強力なエンジンパワーからリヤサスペンションを沈み込ませてタイヤのキャンバー角が大きく変化。いかにも力強いクルマのイメージが漂いました。

 そんなシーマの最上級グレードの価格は、当時としては破格の510万円。先代セドリックの売れ筋グレードは300万円から350万円でしたから、約1.5倍に当たります。

 また、当時の国家公務員大卒総統初任給は14万1000円だったので、36か月分に相当します。

 そんな高額車ながら、シーマは1988年だけで3万7000台も販売されました。

 シーマは、「発売開始時期の違いの偶然」、「スタイルの違い」、「高級車にハイパワーエンジンの特殊性」により、セドリック・グロリアとは別物という評判を得たゆえの成績かもしれません。

 新しい高級車像から、シーマは成功者に選ばれる高級車となっていったのです。

■好調だったシーマながら5回のピンチに見舞われた

 しかし、「シーマ現象」の言葉が示すシーマの独走状態はわずか約1年半でした。

 シーマはたびたび窮地に立たされましたが、1回目のピンチは1988年夏に昭和天皇が体調を崩されたときです。

 この時期、テレビは昭和天皇の体調を定時毎に放送し、祭事は「諸般の事情」で中止され、急速に自粛ムードが漂いました。当然、自動車の販売にも影響したのです。

 昭和天皇は1989年1月に崩御されましたが、その後、春頃から人々は我慢していた高額商品購入をするようになり、高級車の売れ行きは再度上昇しました。

 2回目のピンチは1989年10月です。拡大する高級車市場に対し、トヨタは米国専用の予定だったレクサス「LS400」を「セルシオ」として国内へ導入。11月には日産も「インフィニティQ45」の販売を始めました。

 その結果、シーマは「一番大きく高額なクルマ」という地位から降り、「選択肢のひとつ」になってしまったのです。

 さらに3回目のピンチは1989年末に日経平均株価は史上最高額の3万8915円を記録したときで、直後の1990年1月に株価は突然下落し不穏な空気が流れ始めます。

 そして4回目のピンチが続きます。当時、株価は下落するものの土地価格は高止まり傾向。不動産業者は銀行から資金を得て土地を購入・転売しては利益を得て、銀行も利子で収益を上げていました。

 それらの業者のなかには、住人に嫌がらせをして立ち退かせる、いわゆる「地上げ」行為をする者も存在。土地価格は、不動産業者と銀行により上昇していたのです。

 そして無策の国へ非難が集中し、1990年3月、国は土地取引に関する融資総額を規制する「不動産関連融資総量規制」を展開しました。

 融資が制限されると不動産業者は土地の購入が困難になるため、1991年下半期には土地価格が下落を始めました。

 ところが、融資していた銀行側も回収が困難になり、いわゆる不良債権が発生。土地価格どころか景気も落ち込んでいくのでした。

 この頃になるとシーマは、「とにかく儲けた人のクルマ」と見られるようになっていました。

 妬みの視線を投げかけたり、事業の失速を嘲笑する人も現れるなど、シーマのイメージも世の中の空気は決して良いものではなくなってしまったのです。

 5回目のピンチは、1991年1月に訪れます。欧米側の多国籍軍とイラクの間で「湾岸戦争」が勃発。当時は第三次世界大戦への拡大も懸念されました。

 日本は参戦しませんでしたが、報道される戦争の風景に景気停滞ムードが漂い始めます。

 株価下落と不動産関係や銀行の業績悪化、好景気に対する嫌悪感などにより、多くの人が好景気の終わりを感じ始めました。

 そして1992年夏、3ナンバー車の販売台数が減少に転じ、高級車が売れた「シーマ現象」は幕を閉じたのでした。

※ ※ ※

 セドリック・グロリアは1991年6月にY32型にフルモデルチェンジ、シーマ用のエンジンを搭載。シーマは2か月後にフルモデルチェンジし、英国調のエレガントなセダンに移行しました。

 トヨタも同年9月にクラウンをフルモデルチェンジし、280馬力のツインターボエンジンを搭載する初代「アリスト」も登場するなど、トヨタ流の高速セダン像を築きます。

 すなわち初代シーマの、「新しい高級・高速セダン」像が各車に分散し、シーマの特殊性は薄れていったのです。

 しかし、「シーマ現象」のように、特定の車種名が経済現象を象徴することはまずありません。

「シーマ現象」の言葉と功績は、バブル期を象徴する歴史的用語として語り継がれていくのではないでしょうか。

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みんなのコメント

19件
  • 初代は、デザインはそれほど個性的ではなかったと思う。ただ、そのサイズがかもし出す存在感は独特だった。隣のクラウンが小さく見えま~すという感じ。
    その無個性のためか、モデルチェンジを重ねるに従い、エムブレムを見ないとシーマと言う名前が出てこない車になってしまった?
    らしさのアイコンを持っていなかったのかもしれない。
  • バブルで一稼ぎしたが、メルセデスやBMWは、敷居が高い見栄っ張りが、近所や仲間から、マウント取るのに最適な車だった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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