EV化された日産「ニューバード」
「ニューバードを初めて見たとき、すべてが懐かしく思い出されました」と語るのは、英国にある日産サンダーランド工場で生産管理者を務めるピーター・ロビンソン。1987年当時は、トリムとシャシーの部署で熱心に働く、19歳の新人だった。
サンダーランド工場は前年の1986年9月に開設されたばかりで、3代目ブルーバード(セダンとリフトバック)の1車種を組み立てていた当時の従業員数は490人だった。現在、工場の総生産台数は1050万台を超え、はるかに広くなった敷地で6000人以上が欧州向けのリーフ、ジューク、キャシュカイの製造に従事している。
54歳のロビンソンは、この工場で働く4人のベテランのうちの1人。「ニューバード」は彼らと同じように、日産の過去、現在、未来をつなぐ架け橋となっている。ベースは1989年に同工場で製造されたブルーバード・リフトバックGSだが、オリジナルの1.8Lガソリンエンジンではなく、現行型リーフのバッテリー、インバーター、電気モーターを搭載しているのだ。
英国日産は2021年末、サンダーランドにおけるブルーバード製造開始から35周年を記念し、EVのニューバードを公開した。設計は、サンダーランドから25km離れたダラムで、クラシックカーをバッテリーEVに改造する家族経営のキングホーン・エレクトリック・ビークルズが担当した。
ロビンソンや彼の同僚にとって、ブルーバードは1986年当時、英国人(あるいはサンダーランドの人々)も日本人やドイツ人と同じようにクルマを作ることができたんだという証拠である。
信頼性の高さが評価されたブルーバード
当時のブルーバードは、動力性能の面ではプジョー406のような落ち着きに欠けるし、外観的にも飛び抜けて美しいものではなかった(公平を期すために書いておくと、フォード・シエラもそうであった)。しかし、人々はそれを受け入れ、ブルーバードの品質、信頼性、スペック、そしてコストパフォーマンスに注目したのである。
当時、英国の大衆紙デイリー・メールの冒頭の見開きには、「日産ブルーバード……おそらく英国で最も良く作られたクルマ」と書かれていた。その文字の下には、保証請求率が英国で最も低いことを付け加えている。筆者の隣人の、21年前に製造されたプリメーラがまだ健康であるように、ブルーバードの品質は後継車にも受け継がれていった。
日産は1986年から1990年にかけて18万7000台強のブルーバードを製造した。工場のベテランたちは、「1台作るのに丸2日かかった」と振り返る。
体力勝負の仕事だった。例えば、リフトバックのテールゲートは3人がかりで組み立てる必要があった。セダンの重い一体型リヤシートも同じ。ルーフは4人で持ち上げ、ボディサイドはモールグリップでしっかり固定しないと滑り落ちてしまう。その周りには溶接の作業員がいて、火花で火傷をすることもしばしば。
一方、車内では、腕を高く上げてハサミでヘッドライニングを切りそろえる人、フロントバルクヘッドからリアまで苦労して配線を通す人、ダッシュボードを組み立てる人など、さまざまな人がいた。その傍らでは、箱をこじ開けて部品を取り出し、包装を解いて仲間に渡していく作業もあった。それぞれが、4分48秒以内に自分の仕事を終わらせなければならないというプレッシャーの中で必死に働いていた。
「騒音、埃、煙がすさまじく、みんながお互いの周りで作業をしていました」とロビンソンは振り返る。「幸いなことに、現在では車体工場とシャシー工場が別の建物にあるなど、仕事の整理整頓が行き届いています」
成長したサンダーランド工場
というわけで、今日の生産ラインを見てみることにした。案内してくれたのは、この工場のベテランで、最近は新型車の生産担当をしているマイケル・ハーカー。今回見学するのは、創業当時から工場内にあるメインの第1ラインと第2ラインだ。
昔の航空写真を見ると、2つの小さな小屋から工場がどのように拡張されたかがわかる。新型コロナウィルスや半導体不足の影響で、生産は1日1000台、8時間2交代制に縮小された。部品保管にかかる費用を抑えるため、すべてが「ジャスト・イン・タイム」で運ばれてくる。つまり、ほとんどの場合、ライン上にある在庫は1時間半分しかないのだ。
リーフのモーターは、鮮やかなオレンジ色のケーブルが目印だ。リーフの製造には10時間かかる。筆者のすぐそばで、部分的に作られた車両が作業場から作業場へとゆっくりと運ばれていく。その静かさには驚かされる。
「わたし達は、自動的に正しいトルクで締め付けるバッテリーガンを使っています。手で締め付ける必要があった昔のエアツールに比べれば、ずっと静かですよ」とハーカーは説明する。
ハーカーはかつて、同僚とともに手を伸ばしたり、下げたり、曲げたり、しゃがんだりと、体力を消耗しながら組み立てていたことを話してくれた。しかし、今は違う。車両がラインを通過するときに、機械で適切な高さに昇降させるのだ。ただ、すべての作業がそうではない。筆者はキャシュカイのダッシュボードの下で、しゃがみこんで手を伸ばす作業員の姿を目にした。「ペダルボックスの取り付けです」とハーカーは言う。「最悪な仕事です」
生産ラインの終盤には、車両に水をかけて漏れがないかを調べるドレンチングブースがあり、エンジンやモーターを搭載するローリングロードが続く。作業員が各車を取り囲んでフィット感と仕上げをチェックし、キャリブレーションエリアで運転支援機能を設定する。最後にアンダーシールベイで下回りの防錆処理が行われる。短い走行テストを経て、メイド・イン・サンダーランドの日産車が工場を後にし、英国北東部の製造業のサクセスストーリーは新たな1ページを刻む。
ニューバードの走りはどんな感じ?
1989年式ブルーバードからニューバードへの改造は、キングホーン・エレクトリック・ビークルズの創設者、ジョージ・キングホーンが指揮をとった。改造プロジェクトは8週間かけて慌ただしく行われた。
リーフから供給されたバッテリーは、一部がモーターとインバーターとともにボンネットの中に置かれ、残りはトランクに収められている。リアの200kgの重量増に対応するため、リアには調整可能なスプリング、また全輪にビルシュタイン製ダンパーが取り付けられている。
ブルーバードは、日産が英国で信頼できるメーカーとしての地位を確立するために作られた、ミドルクラスのファミリーカーだった。しかし、ニューバードの柔らかいシートに座り、キーを回してセレクターノブを「D」に回し(今後ブルーバードのATシフターを装着予定)、ダラムからサンダーランドへ走らせると、快適で質素なクルマだったことを思い出させた。
キングホーンは、1980年代の緩いブレーキとハンドリングに合わせて、モーターを調整している。
カセットプレーヤーに入れたアルバム「Now That’s What I Call Music 15」で、筆者は大いに運転を楽しんだ。実際、電気とシングルスピード・トランスミッションは、ブルーバードの性格に合っている。もちろんアンダーステアは顕著で、ダンパーを少しひねるようにして曲がるが、流れに身を任せれば、ニューバードはシンプルに動いてくれる。
静かすぎるという呟きも聞こえてきそうだが、実はキングホーンは、ミルテック・スポーツと共同でエグゾーストサウンドを開発している。
日産サンダーランド工場のベテラン従業員
驚くべきことに、日産サンダーランド工場では、操業開始当初の従業員が現在も19人働いている。
筆者は、1987年に入社したピーター・ロビンソンと、1986年入社の生産ライン最年長のマイケル・ハーカー(55歳)、そして同僚のレス・グリーナー(56歳、1987年入社)、マイケル・アダムス(54歳、1988年入社)に会っている。
「わたし達は、この工場のDNAの一部なんです」とハーカーは誇らしげに言った。ハーカーの最初の仕事は、ブルーバードにナンバープレート・フィニッシャーを取り付けることで、アダムスは組み立てラインでスポット溶接をしていた。ロビンソンはトリム&シャシー部門で歯を食いしばり、グリーナーは車輪の取り付けという重要な仕事を担当した。
「ブルーバードはわたし達が最初につくったクルマだから、本当に愛着があるんです」とグリーナー。
アダムスによると、当時は今よりもっと仲間意識が強かったという。「今よりずっと緊密な共同作業が行われていました。ラジオを聴いて、全部の歌を口ずさんでいましたよ」
4人はニューバードの灰皿にくすくす笑いながらも、その明るく広々としたインテリアと豪華装備に感嘆の声を上げた。「ブルーバードを作るには、かなりの工数がかかる」とグリーナーは言う。「無駄がないのはいいことですね」
ピーター・ロビンソンとその同僚がブルーバードを製造していた当時、自分たちが生きている間に代替エネルギーが普及し、内燃機関が縮小する時代が来るとは思いもよらなかっただろう。
日産は昨年7月、サンダーランド工場を中心とした電動化ビジョン「EV36Zero」を発表し、旧来のやり方を変えるために10億ポンド(約1600億円)かけて大きな一歩を踏み出した。このプロジェクトは、EV、再生可能エネルギー、バッテリー生産を1か所に集めた世界初のEV製造エコシステムを構築するとしている。
一方、10億ポンドの予算のうち4億2300万ポンド(約680億円)をリーフの後継車の開発に充てている。最近公開された「チルアウト」コンセプトをベースにしたクロスオーバーで、今後数年のうちに発売される予定だ。サンダーランドの生産ラインの従業員は、これで忙しくなるはずだ。
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