日本車として初めて水平対向エンジンを採用
今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーは、SUBARUレヴォーグが受賞した。これに搭載されるガソリンターボエンジンは、水平対向4気筒である。水平対向とは、ピストンが横に寝た格好で左右にあり、その間にクランクシャフトと呼ばれる回転軸がある。シリンダーが横に寝ているので、エンジンが低くなるのが特徴で、ドイツのポルシェ911や、その基になった356、そしてフォルクスワーゲンのタイプ1(通称ビートル)も同様のエンジンを搭載する。
いま見ても圧倒的な存在感! 60年代の国産スポーツモデルの名車っぷりが凄い
富士重工業(現在のSUBARU)が、水平対向ガソリンエンジンを使いはじめたのは、1965年に発表、翌66年に発売されたスバル1000だ。日本車として初めての水平対向エンジン採用であった。4気筒といっても、左右に2気筒ずつの配置となり、エンジン全長が短くなるため、縦置きのまま前輪駆動を実現した。その前輪駆動で確かな走行性能を実現するため、日本車としてはじめてラジアルタイヤを装着したのもスバル1000であった。
同じ1000ccのガソリンエンジンを積む、競合の日産サニーやトヨタ・カローラが当時の標準的な後輪駆動であったので、車体のつくりも独創的となった。たとえば、室内の床はプロペラシャフトを床下に通さなくて済むので、平らで広々としていた。当初は4ドアセダンのみとして発売され、後ろのドアは後席背もたれより後ろ側から大きく開き、後席への乗降性にも優れている。
ほかに、水平対向エンジンの背の低さを活かし、スペアタイヤをボンネットフード下となるエンジンの上に装備し、それによって荷室は広く容量が大きくとれた。
富士重工業は、スバル1000以前に軽自動車のスバル360を1958年に発売している。こちらは、2気筒エンジンを客室の後ろに搭載し、限られた車体寸法のなかで客室に大人4人が快適に乗れる構成とし、人気を呼んだ。
中島飛行機を母体とする富士重工業は、自動車産業への転換をはかる際に、それぞれの実情に合った最適な技術を求め、単に一台のクルマを完成させるだけでなく、人間中心のクルマづくりに徹したメーカーといえる。
4ドアセダンの基礎は幻の名車「P1」にあった
スバルのクルマづくりで母体となったのは、スバル1000やスバル360が誕生する前に試作された「P1」と呼ばれる4ドアセダンではないだろうか。P1はプロジェクト名であり、実際にはスバル1500という。
車体は、日本車としてはじめてとわれるモノコック構造を採用していた。目的は軽量化だった。まだ鋼板の技術が今日ほど高くなかった時代に、フレームのない車体構造で剛性を出すことは苦労があったはずだ。しかしそこに、中島飛行機としての航空機設計の経験が活かされていたのだろう。
サスペンションは、前輪側がダブルウィッシュボーンで、後輪側は固定軸ではあるが摩擦損失の少ない3枚のリーフスプリングを用いていた。前後とも、油圧式のダンパーを装備している。
このときのエンジンは一般的な直列4気筒で、排気量は1500cc。後輪駆動であった。このエンジンはしかし、プリンス自動車のために開発・製造されたもので、やはり中島飛行機を母体とする富士精密工業が製作したものであった。同社はしかし、富士重工業の設立には参画せず、プリンスとの関係を持ったことから、スバル1500では使えないこととなった。そこで、急遽、中島飛行機から分かれた別のメーカーに製作を依頼することになったのである。
そうした紆余曲折を経ながらスバル1500は完成したが、最終的には販売されることはなかった。数台が、タクシー会社などで使われただけだった。理由は当時の富士重工はまだ、自動車を製造・販売する資本的体力がないとの経営判断による。
しかしそのことが、スバル360やスバル1000を生み出すうえで、大きな決断となったのではないかと振り返ることができる。スバル1500は、技術的にはいくつもの先進性を備えていたが、諸元としては、他社と同様の直列4気筒エンジンで後輪駆動という方式で、個別技術はともかくも、たとえば初代トヨペット・クラウンなどと同じような4ドアセダンとみえてしまうからだ。
いっぽうスバル1000は、サニーやカローラと明らかに違うつくりであることが、外観からも一目瞭然だ。それによって旧車となった今日も語り継がれ、また現在のSUBARUの礎にもなったと思えるのである。
当時、クルマ好きの集まる場所で、プリンス・スカイライン、日産・ブルーバードなどと並んで、スバル1000の持ち主は胸を張ってクルマ談義に花を咲かせていた。スバル1000の販売価格は、4ドアスーパーデラックスで58万円、スポーツセダンでは62万円であった。
サニー1000の2ドアデラックスの46万円や、カローラ2ドア1100デラックスの49.5万円に比べ高価だったが、1000ccエンジンながらスカイラインなどと並べて引けを取らない、誇り高き4ドアセダンであったといえる。
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みんなのコメント
ゆったりとしていて、しかもウィンドウが大きいこともあって閉塞感全くナシ。
さすがFFだと思うのは、特に後部座席のフロアがまっ平であること。
インパネ周りもすっきりシンプル。
2017年に「日本自動車殿堂」で「歴史遺産車」として顕彰されたのも
うなずけます…
自動車雑誌でも時々混同しているし。