■なぜホンダは新たなハイブリッドシステムを開発?
2021年4月、ホンダの三部敏宏社長は就任初の記者会見で「2040年に世界での販売の全てをBEV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)とする」という計画を発表しました。
中長期的とはいえインパクトのある戦略に驚きましたが、その後の質疑応答で「特定技術(=電動化)に対して決め打ちでシナリオを描かない」、「色々な技術に対して可能性を残しておくべきだと思う」と語っています。
筆者(山本シンヤ)は、プレゼンと質疑応答の矛盾が気になりますが、ホンダの“本心”は後者にあると考えています。
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その1年後となる2022年4月12日、ホンダは「四輪電動化ビジネス説明会」を行ないました。これまでの取り組みや製品計画、進捗状況などが発表されましたが、質疑応答で三部敏宏社長はこのように語りました。
「ハイブリッドも一生懸命やっております」
ホンダは4輪事業を始めて60年以上が経ちますが、その中でハイブリッドは約4割となる25年の歴史を持っています。1999年に登場した初代「インサイト」以降、さまざまなHEV(ハイブリッド)システムの研究・開発を進めてきましたが、その最適解が「e:HEV(イーエイチイーブイ)」です。
このシステムは2012年に発表されたスポーツハイブリッドシリーズの中型車用「i-MMD」の進化版ですが、組み合わせるエンジンやモーター次第でコンパクトモデルからミドルクラスまで対応できる多様性を備えていることが大きな特徴。
現在は小型用と中型用の2タイプ用意され、基幹モデルに数多く展開が行なわれています。
ただ、2024年10月に2026年からグローバル市場へ投入が予定される次世代BEV「ホンダ・ゼロシリーズ」に搭載される基幹技術の発表に加えて、プロトタイプの試乗が行なわれ、ホンダ自身が「第2の創業期」と捉えて、さまざまな技術的な挑戦を行なったことがわかりましたが、「結局、やっぱりBEVファーストなのか」と感じたのも事実です。
そんなこともあり、筆者は「HEVに一生懸命と言っても、既存技術を繋ぎながらしのぐ方針なんだろうな」と勘ぐっていたのですが、2024年12月に「ホンダe:HEV事業・技術取材会」が行なわれました。
この取材会の冒頭で、四輪事業本部長の林克人氏はこのように語りました。
「ホンダは2050年にカーボンニュートラル達成を目指しています。一方で『ホンダはエンジン開発を凍結したと聞いたが、事実なのか?』、『得意のエンジンの強みを捨てて、今後どうするのか?』となども質問も出ています。これは我々が四輪事業の全体の戦略が正しく伝えられていない反省でもあります。
そんな中、ホンダはBEVの仕込みを行なうと同時に“五感に響く”技術でICE(内燃機関:エンジン車)時代に伝説を残したいという野心を持ち、絶え間なく新しいHEVの開発を進めていました。それは社内では“当たり前”のように推進され、ご披露できるところまで開発が進みました」
ここで勘違いしてほしくないのは、昨今のBEV失速報道に対して慌ててHEVの対応したわけではなく、当初からの「シナリオ通り」に進められていたということです。そういう意味では、ホンダは究極の“伝え下手”と言わざるを得ません。
ただ、あるエンジニアに聞くと「ホンダはエンジンが大好きなので、放っておくと楽な方(=コンバートBEVにしてエンジン搭載できる余地を残す)に進みがちです。
だから社長はあえて『BEVを真剣に本気でやるぞ!』と宣言、これまでの概念とは異なる『BEVファーストなモノづくり』の挑戦をさせたと思っています。
ただ、それが原因でHEVも並行してやっている事が上手く伝わらなかったのも事実ですが」
そういう意味では、ホンダ自ら今回の発表がその誤解を解くための最大のチャンスだと捉えているようです。
■“五感に響く”次世代e:HEVシステムとは?
では、ここからは次世代e:HEVシステムの詳細についてお伝えしましょう。
基本的な構成や機構、小型用/中型用の2タイプを用意する点などは現行システムと同様ですが、基幹となるエンジン、ドライブユニット、制御系は全て刷新されています。
その開発コンセプトは「圧倒的な燃費(環境性能)」、「上質・爽快な走り(走行性能)」のロジカルな要素のさらなる進化に加えて、恐らくこれまでのHEVでは聞いた例がない「五感に響く」というエモーショナルな要素をプラス。
エンジンは直列4気筒直噴、排気量は小型用が1.5リッター、中型用が2リッター。今後のグローバル環境規制に対応できるスペックで、どちらも「アトキンソンサイクル」、「高速燃焼」、「全領域での理論空燃比の実現」、「燃費の目玉を40%以上拡大」などが盛り込まれたユニットになっています。
ドライブユニットは小型用が同軸構造、中型用は平行軸構造と、各々の提供価値に合わせた最適なレイアウトを採用。モーターはコンパクトで“高効率”、中型用はコンパクトで“高出力”をテーマに各々開発されていますが、実は骨格共用技術を活かすことでコストの低減も行なわれています。
バッテリーはエネルギー密度をアップさせた小型高出力パックを採用。小型用は薄型のメリットを活かしフロント床下配置(現行車のセンタータンク位置で燃料タンクはリア席下に移動)。中型用はパッケージのメリット(全高の低いセダン系にも対応できる)を活かし全高・全長最小サイズでリア席下配置を採用しています。
HEVの頭脳となるパワーコントロールユニットは小型用/中型用を共用してコスト低減を図っており、「トランスミッション直載」、「リア駆動インバーター内蔵」、「高密度化」により、高効率かつコンパクトに仕上げられ、空間拡大にも大きく貢献しています。
エネルギーマネージメントは現行e:HEVの車速とエンジンサウンドを連動させるリニアシフトコントロール制御の進化版となる「Honda S+ Shift(ホンダ エスプラスシフト)」を開発。
これは運転状況や走行環境に応じてモーターとASC(アクティブ・サウンド・コントロール)の連動、運転状況や走行環境に合わせた変速制御に加えて、エンジン回転数を維持して再加速時に応答を大幅にさせるシフトホールド、さらにパドル操作による有段ギア変速フィールなどの連携により、まるでエンジン車に乗っているような気持ちを味わえるデバイスになります。
もちろん、次世代e:HEVはFFだけでなく4WDも設定されますが、ここも大きく進化しており、現行モデルのメカニカル式4WDからリアモーターを用いた電動AWDに変更。リアモーターの出力は約50kWで次世代BEVでも活用されるモノを水平展開し、開発陣は現行4WD同様の悪路走破性を実現すると自信を見せます。
実際に体感するとどうなのでしょうか。今回は現行「ヴェゼル」に小型用の次世代e:HEV搭載した開発車両(ただしHonda S+ Shiftは未装着)に試乗することができました。
まずはゆっくり走らせます。現行e:HEVは慎重なアクセルコントロールでもすぐにエンジンが始動してしまいますが、次世代e:HEVは粘りを見せます。そこからエンジンが始動しても静と動のギャップは今までよりも抑えられています。
さらに、アクセルをグッと踏み込んでもエンジン回転数をあまり上げることなく加速。イメージ的には現行e:HEVが回転で力を稼ぐ印象だったのに対して、次世代e:HEVはトルクで力を稼ぐ印象を強く感じました。要するに実用域では確実に電動車感が増しているのです。
その一方で、高速道路などアクセル開度が増す走行条件ではエンジン回転はそれなりに高まりますが、次世代e:HEVは確実に力強さが増しています。わかりやすく言うと、1.5リッターを組み合わせる現行ヴェゼルのe:HEVと比べると、それが1.8リッターくらいになったという感じです。
加えて、音質が濁音多めから粒が揃った印象(エンジンの剛性アップが効いている)に加えて、より巧みになったエネルギーマネージネントの進化(エンジンの高効率領域拡大でリニアシフトコントロールの幅が広がっている)も相まって、逆に電動車らしからぬフィーリングを実感。
特にドライブモード・スポーツは常時エンジン始動状態の上に、ダイレクト感と切れ味あるシフト制御(減速時はダウンシフトも)は、エンジンと駆動に機械的な繋がりはない直結感があります。この感覚、どこかで味わったことがあると考えると、かつて「フィット」などに搭載されたDCT内蔵1モーターの「スポーツハイブリッドi-DCD」に近い印象です。
ちなみにこのモデルは現行ヴェゼルの次世代e:HEVを搭載しただけで走りの適合は全くされていませんが、バッテリー位置の変更と電動4WDの効果が効いており、タイトなコーナーでは少ない舵角でロールを抑えながらスーッと気持ちよく曲っていきます。
それでいながら高速道路ではヴェゼルを感じさせないドッシリ感。この感覚も、どこかで味わったことがあるなと考えると、「レジェンド」に採用されていた「スポーツハイブリッドSH-AWD」に近いように思いました。
そういう意味では、次世代e:HEVはかつてラインナップされていた3つのスポーツハイブリッドシリーズが持つ各々の強みを、ある意味全て備えたシステムに仕上がったといえます。
この次世代e:HEVはフルモデルチェンジのタイミングなどで順次投入される予定ですが、個人的には「今すぐ積んで売ってほしい!」と言いたくなるくらいの商品性の高さでした。
■新型プレリュードに搭載予定の「Honda S+ Shift」がスゴい!
続いてはHonda S+ Shiftの体感です。今回は何とまもなく発売予定といわれる新型プレリュードでの試乗でした。
ただ、このモデルのパワーユニットは次世代e:HEVではなく、「シビック/ZR-V」に搭載される現行e:HEVをプレリュード用に最適化してHonda S+ Shiftをプラスしたもの。要するに現行e:HEVの最終進化系であると同時に、次世代e:HEVを繋げる“リリーフ”的な存在といえます。
新型プレリュード(プロトタイプ)のエクステリアは偽装テープで覆われているものの低くワイドなスタイルはシビックのクーペ版という匂いはなく独自性があります。個人的にはどことなくプジョー「RCZ」を思いだしましたが、スペシャリティ感はシッカリあります。
インテリアは最新ホンダ共通の水平基調のコクピットですが、独自のメーター周りとコクピット感覚を強めた高めのセンターコンソールがより低さを強調。シフトはボタン式でドライブモードスイッチやHonda S+ Shiftなどが集約されています。
まずは比較用の「シビックe:HEV」(2リッター搭載の中型用「SPORT e:HEV」)に乗ります。実は先日1.5リッターターボ+6速MT「シビックRS」と乗り比べたのですが、同車はMTを操る喜びはあるものの、総合的に見て「どちらが気持ちよいか?」と問われると、筆者はe:HEVのほうが上だと感じました。
そんな現行の中型用e:HEVが環境性能と走りのバランスが世界一だと思っているので、次世代e:HEVへのハードルはおのずと高まります。
まずはノーマル(Honda S+ ShiftはOFF)の状態で乗ります。電動車感が強くエンジン始動もほぼ気にならないのはシビックと共通ですが、“元気”な印象のシビックに対してプレリュードは“大人”な印象。
例えばアクセルを踏み込んだ際にエンジン回転数をあまり上げることなく加速していく感じで、まるで「大排気量NA」のような余裕すら感じたほどです。そういう意味ではプレリュード=スペシャリティカーのキャラクターにピッタリな制御になっていると言えます。
続いてHonda S+ ShiftをONにして走らせてみました。すると、これまでどちらかというと黒子に徹していたエンジンが声高らかに主張を始めます。
そのフィーリングは「フルバランスされたスポーツエンジン」に近いもの。具体的には、繋がっていないはずのエンジンと駆動系がまるで繋がっているかのような直結感や、回すほど力が湧き出るようなエンジンの伸び感、操作に対して阿吽の呼吸でダイレクトに応じてくれるレスポンスが、シビックの時以上にリアルに感じられるようになったのです。
実際に乗っていると「本当に同じシステムなの?」と思ってしまったくらいです。
それに加えて、エンジン回転数と完全同期した心地よいサウンド、より攻めたシフト制御(パドル操作を行なうとシフトショックはないがシフト感は感じる)、さらに俊敏に反応するメーターなど、視覚や聴覚の緻密な連動もパワートレイン全体の気持ちよさをアシストしているのは言うまでもありません。
ただ、残念なのは実際のエンジンのレッドゾーンは6000rpmなのに、実際に走らせているとフィーリング的には「もっと回させてよ!」と錯覚してしまうところです。
さらに減速時のダウンシフト制御も驚いた点のひとつで、現行はシステム上アクセルOFF→エンジン停止→アクセルON→エンジン始動となるので再加速時のエンジン発電電力を駆動力に活用する時にズレが生まれ、それが意のままの走りを阻害していましたが、Honda S+ Shiftは走行状態に応じたエンジン回転数を維持(まるでガソリン車のよう)してくれるので、再加速時にもラグなく加速体制に入れます。
要するにハイブリッドなのに細かいアクセルコントロールに応えてくれます。
実際にON/OFFを比べると、普通のエンジンとスポーツエンジン並みに応答が異なります。さらにドライブモードによって出力特性やシフト制御が明確に異なるのも面白いところです。
「コンフォート」はレジェンドのような粘りのあるトルク特性であえてシフトダウンさせずジワーッと加速させる特性。
ノーマル改め「GT」はトルクと伸びのバランスと邪魔をしないシフト制御で、個人的に感じたのは5代目「プレリュード タイプS」に搭載された直列4気筒DOHC-VTEC「H22A」のフィーリングをより精緻に、より洗練させた特性。
そして「スポーツ」は応答性・レスポンス上等かつ常にトルクバンドを外さないシフト制御で、トルクはシッカリ確保されている小排気量のスポーツといった、本来はあり得ない特性と、3つのモードの違いが明確です。
一般的にモード切替は買った時は使うけど、結局ノーマルに落ち着くというケースが多いですが、これはシーンに応じてリアルに使い分けたくなります。
これはモーター制御だからできる拡張性ですが、これもある意味で「クルマ屋らしいSDV」の答えのひとつと言えるでしょう。
もちろん、中には「ギミックなんて話にならん」という人もいるでしょうが、ここまで本気でやるとそんなことはどうでも良いと思えるくらい。正直、今回試乗してみてガソリン車だろうがハイブリッド車だろうが気持ちよければ何でもいいと素直に感じました。
そういう意味で言うと、Honda S+ Shiftの本質は「アナログの良さをデジタルでピュアに再現」なのかなと思いました。
ちなみにノーマルの状態は「ハイブリッドの中では最高」ですが、Honda S+ ShiftをONにすると「パワートレインとして最高」と言える魅力があります。
恐らくピュアな内燃機関が大好きの人でも納得するだけでなく、思わずニヤッとしてしまう要素を持つハイブリッドと断言できます。
現行のユニットがベースでもこれだけの驚きがあるのですから、中型用の次世代e:HEVと組みわせたらどうなるのか、期待値はさらに高まります。
■「シビック タイプR」をベースにプレリュード用に開発された足回りの印象は?
プレリュードをハンドリングコースでも走らせたのでシャシ周りの印象も少し紹介しましょう。
プラットフォームやサスペンション周りは「シビック タイプR」用をベースにプレリュード用に開発されています。
ディメンションの良さ(よりワイド、より低く)に加えて、セットアップもホンダスポーツでは珍しく性能全振りではない絶妙な塩梅が何とも大人仕立てです。例えになっているかわかりませんが、「心地よい無駄がある」ハンドリングなのです。
シビック タイプRは戦うクルマのため短時間で旋回を完結させる無駄を削いだハンドリングですが、プレリュードはそこに時間(といってもごく僅かですが)をかけて自然かつ滑らかさを重視したハンドリングです。
ロールは少なめだけどサスペンションは突っ張った感じはなくしなやか。それでいながらサイズ以上の安心感があるのです。街乗り領域ではスッキリ感、ワインディングではリアルスポーツ並み旋回性能ながらも、それをひけらかさないしたたかな旋回性能、そして高速道路では「君はレジェンドクーペ?」のようなドッシリ感。
この機敏すぎず、でも鈍感ではない絶妙なさじ加減でバランスが取れたフットワークは、まさに「爽快」を超えて「清々しさ」を感じたほどです。
※ ※ ※
これまでBEVチームの陰に隠れていたHEVチームでしたが、今回その鬱憤を晴らすかのような強い意志を持った技術であり、実際にそのようなシステムに仕上がっていました。
そういう意味では久しぶりに“ホンダらしさ”を感じましたが、「次世代e:HEV」というのはセンスがありません。
個人的には「e:VTEC(エレクトリック・ヴァリアブル・エネルギーマネジメント・コントロールハイブリッド)」が最適だと思っていますが、せめて「現行のシステムとは次元が違う」ということが一目でわかるサブネーム、もしくはロゴデザインの採用をしてほしいところです。
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