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ニキ・ラウダ、正確無比な“コンピューター”と呼ばれた天才(最終回)【追悼企画】

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ニキ・ラウダ、正確無比な“コンピューター”と呼ばれた天才(最終回)【追悼企画】

エラーのない正確無比なドライビング

速いドライバーのなかには、より速いラップを求めて攻めて走った結果、限界をわずかに超えてしまい、コースアウトやクラッシュにつながることが少なくない。とくに若いドライバーの成長期には、経験の少なさや速さへのより強い想いから、そういうことが起きやすい。

ニキ・ラウダ、正確無比な“コンピューター”と呼ばれた天才(最終回)【追悼企画】

ニキ・ラウダもまた、若い頃からとても速いドライバーだった。その速さはF1に上がっても健在で、F1フルシーズン参戦3年目、フェラーリ加入初年度だった1974年には予選で9回ものポールポジションを獲得。圧倒的な速さを誇っていた。自身初のワールドチャンピオンを獲得した1975年もポールポジションを9回獲得している。

ラウダの速さは多くのファンを魅了した。そして、充分な速さがありながら、オーバードライブ(攻めすぎ)のようなエラーがない。その破たんのない正確無比なドライビングに、人々は敬意と驚きの思いをこめて、ラウダのことを当時最先端なテクノロジーの代表であった「コンピューター」と呼んだ。まさに時代を超越した天才だったのだ。

時にエンジニアから疎まれた「スーパーラット」

しかも、ラウダは常に理知的で論理的な思考とアプローチで知られている。それもまた「コンピューター」と呼ばれる所以だ。クルマの技術にとても明るく、エンジニアとともにマシンを開発・熟成できる。この理論派的な手法は、彼の著書で日本語版にもなっている『ニキ・ラウダ F1の世界』にも書かれている。

ラウダは走行中に現実に起こった事象をできる限り正確に体でとらえ、それを脳の中で思考。エンジニアにわかりやすく伝え、エンジニアとともにより良くするための考察も行えた。

ただ、ふだんはその理知的姿勢と高いマシン開発の能力はチームから歓迎されたが、思ったことをはっきり言う性格はエンジニアから疎まれることもあった。エンジニアの立場を脅かしてしまうこともあったからだ。

正確なドライビング、速さ、科学的な開発能力。それらすべてをきわめて高い次元で実現できたのがラウダであり、まさに超人的な「スーパー」ドライバーだった。ラウダは顎のかみ合わせの関係からいつも前歯が前に出ていた。これが前歯が出たネズミを連想させ、ネズミを意味するラットという言葉を用いた「スーパーラット」とも呼ばれた。

スクーデリア・フェラーリ復活への貢献

ラウダの能力がいかんなく発揮されたのが、まずフェラーリでの時代だった。

当時のフェラーリは1964年以来、長年チャンピオンを獲れないでいた。だが、1974年にラウダが加入してマシン開発に多くの助言を与えた結果、1975年にラウダもスクーデリア・フェラーリもチャンピオンを獲得。まさにラウダの「コンピューター」のたまものだった。

だが、翌1976年のドイツGPでラウダはクラッシュ。瀕死の重傷を負ってしまう。当時のヨーロッパのメディアやファンは「コンピューターのラウダでもミスをするのか?」と、言ったほどだ。

この事故によるラウダへの肉体的ダメージは、通常なら1976年シーズン中の復帰は無理であり、悪ければそのまま引退になりそうな重傷ぶりだった。実際、フェラーリは当時ブラバムに乗っていたカルロス・ロイテマンをラウダの後任として契約したほどだ。

だが、ラウダは事故からわずか6週間(1か月半)でグランプリに復帰してみせた。無理をしていたところもあった。が、そこにラウダの復帰へ向けた強い意志の力と集中力が垣間見えた。この意志力と集中力の強さはラウダをラウダたらしめるものであり、やはり他の選手よりも抜きん出た天才的な部分でもあった。

目先の勝利よりも、シーズンを見据えた戦い方

コンピューターがバージョンアップするように、ラウダもまたバージョンアップしてきた。

まずグランプリの戦い方が変化していた。1974年、1975年には年間9回もポールポジションを獲得し、予選での究極の速さを求め、それを誇示するかのようだった。が、1976年からは直接得点獲得にはならない予選でのポールポジション獲得よりも、レースでの結果と得点獲得をより重視するようになっていく。持ち前の速さを、レースでのより堅実でより強い走りと戦いぶりに結び付けていったのだ。

そのため、予選では勝利が見込めるグリッド2列目か3列目程度で良しとし、決勝での優勝をより大事にしていた。一方、当時決勝日の朝に行われていたウォームアップ走行を重視していた。結果、決勝を見据えたセッティングで走るウォームアップ走行でトップタイムをマークすることが多かった。そして、決勝レースになると着実にトップに立ち、優勝をもぎとるパターンとしていた。また、優勝が見込めない展開のときにはできるかぎり上位に入賞し、高得点を獲得しようと努めた。

走るコンピューターから不死鳥へ

このシーズンを通したチャンピオン争いを見据えた戦いぶりもまた、多くの人を驚嘆させた。そして、このラウダの計算高く割り切った理知的な戦いぶりから、人々はふたたびラウダのことを「走るコンピューター」と呼ぶようになる。

1976年の大事故から復帰し、1977年には圧勝で2度目のチャンピオンを獲得。このことからラウダは「不死鳥」とも呼ばれている。ラウダは1979年に一度現役を引退したが、1981年にマクラーレンからF1に復帰。開幕からわずか3戦目で優勝してみせた。

2シーズンのブランクを経てすぐの優勝でも、ラウダは「不死鳥」と呼ばれた。実際には復帰の話が来た段階で、ラウダは事故からの復帰の際に助けてくれたオーストリアのトレーナー、ヴィリー・ダングルの元でトレーニングを積んでいたという。ここでもまた、高い集中力と目的意識が短期間でのラウダの現役復帰を実現させていた。もちろんラウダ生来のまさに天才的に速いドライビング技術もあった。

マクラーレンにおけるTAGポルシェの開発と勝利

1980年代に入るとF1にはターボエンジンの時代が訪れていた。そのなかで時代の波に乗り遅れていたのがマクラーレンだったが、1983年にやっとTAGポルシェエンジンを獲得。ここでもまたラウダの天才的な働きが発揮されている。

TAGポルシェの開発の本体はドイツのポルシェ。ポルシェはル・マン24時間を筆頭に、すでにスポーツカーレースの世界でそのターボエンジン技術は成功を収めていた。そのためF1においてマクラーレンが相手でも、当時新進気鋭のチーフデザイナーだったジョン・バーナードでも、すべてに優位で強気な立場を取っていたという。だが、スポーツカーよりもはるかに車重の軽いF1では勝手が違ったところもあった。

そんなときにラウダの存在が大きな影響を与えた。F1で2度のチャンピオンを獲得したラウダの言葉には強い説得力があった。さらには、ラウダ持ち前の高い技術への知識と旺盛な理解力があった。おかげで、ポルシェのエンジニアたちと対等に渡り合える力も持っていた。後年、この当時の状況をふりかえったバーナードも、ポルシェのエンジニアたちはラウダの言うことには積極的に耳を傾けたと評していた。

時代を超えて発揮されたラウダの才能

このTAGポルシェエンジンを搭載した「マクラーレンMP4/1E」は、1983年シーズンの終盤4戦に出走したが目立った成績は挙げられなかった。が、翌シーズンには急激な進歩を見せ、先にターボエンジンを投入していたルノー、フェラーリ、BMW、アルファロメオ、ホンダ、ハートらをしのぐレベルになった。

ラウダはこのTAGポルシェエンジンを搭載した「マクラーレンMP4/2」を駆り、自身3度目のワールドチャンピオンを獲得。マクラーレンチームも1974年以来のコンストラクターズチャンピオンを奪還し、ポルシェはF1で初の頂点に登りつめた。

ラウダは、フェラーリでもマクラーレンでも、自ら開発に深くかかわったマシンで王座に輝いた。それは、チームの復活と再生にもなっていた。

卓越した開発能力、知識、速さ、正確無比なドライビングテクニック、不屈の闘志と高い集中力と目的意識。どの時代の栄冠獲得でも、ラウダが備えた天賦の才能がいかんなく発揮されていた。

ニキ・ラウダはまさに天才という名にふさわしいレーシングドライバーだったのだ。

TEXT/小倉茂徳(Shigenori OGURA)

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