この記事をまとめると
■いま世界中の自動車メーカーでもポルシェとスバルしか採用していない水平対向エンジン
同じ排気量&気筒数なのになぜ? メーカーによってエンジン音が異なるワケ
■かつてはほかのメーカーも採用していた
■時代が求める性能が出しづらいという面もある
水平対向エンジンはボクサーエンジンとも呼ばれる
みなさんは「BOXER」と聞いて何を思い浮かべるでしょう? まあ順当にはボクシングの選手だと思いますが、ここは自動車雑誌のコンテンツですから、自動車関連に限定するとやはり「水平対向エンジン」でしょう。と言っても、じつはエンジンの「ボクサー」の由来は、ピストンの動きがボクサーの拳のようだからという理由らしいんですけどね。
では、どのメーカーの水平対向エンジンが思い浮かびましたか? 旧いスポーツカー好きの人や往年のモータースポーツ好きの人は「ポルシェ」の水平対向6気筒エンジンですよね。世界に水平対向エンジンの良さを知らしめた功績は大きいです。ちなみにその祖先と言えるのは、フォルクスワーゲンのビートル(Type1)の水平対向4気筒エンジンです。
ビートルと同時期にはシトロエンの「2CV」が水平対向2気筒エンジンを搭載して大ヒットしています。
また、フェラーリもボクサーエンジンを採用していた時期がありました。名車512BBの「BB」は「ベルリネッタ・ボクサー」で、水平対向12気筒エンジンのことを指しています。
国内に目を向けると、トヨタの「パブリカ」が「2CV」をお手本に、日本の量産車で初めて水平対向エンジン(2気筒)を搭載します。それから数年遅れて、スバルが「スバル1000」で水平対向4気筒エンジンを採用。「レオーネ」、「レガシィ」の成功を経て「BOXER」エンジンの地位を確固たるものに築き上げました。
そのイメージから、国内のスポーツカー好きの間では、このスバルの「BOXER」を思い浮かべる人が多いかも知れません。
このように、戦後からは国内外含めていろんなメーカーが水平対向エンジンを採用してきた歴史がありますが、いまとなっては(4輪では)「ポルシェ」と「スバル」だけとなってしまいました。そんな希少な方式となってしまった「水平対向エンジン」のメリットとデメリットを見て行きたいと思います。
戦後の大衆車になぜ「水平対向エンジン」が採用されたのか?
量産車で水平対向エンジンを採用した先駆けの「シトロエン2CV」と「VWビートル」が水平対向エンジンを選んだ大きな理由は、「シンプルな構造で振動が少なくできる」ことと「全長が短くできる」ことでした。両車とも戦後の大衆車のスタンダードとなるクルマを開発するというテーマがあったので、安くて、よく走って、室内が広いという共通の目標がありました。そのクルマの設計に水平対向エンジンは最適だったのです。
水平対向エンジンはシリンダーが左右水平に対向して配置されているため、ピストンが外に内にと同時に伸び縮みすることで理論上の振動をゼロに出来ます。これが例えばV型エンジンだと、燃焼間隔のズレによる振動を打ち消すためのバランサーが必要になるので複雑になり重くなります。加えて風が当たる面積が多く取れることで、空冷でも充分冷やせるため、シリンダーまわりもシンプルにできます。構造がシンプルということは、軽量でコストが低くできることに加え、故障する箇所が少なく、修理も簡単なので普及させる際のハードルを低くできます。
また、直列エンジンに比べて前後長を短くできるので、その結果として室内空間が広く取れます。これは大衆車としては大きなアドバンテージになります。このように、この時期はまさに合理的な選択としていちばんだったわけです。
性能追求の面で見た「水平対向エンジン」のメリットは?
そんな経緯で採用された水平対向エンジンですが、いまのスバルやポルシェが採用し続けている背景とは事情がまったく違います。技術が成熟して高度な戦いが繰り広げられているモータースポーツの世界。そんな厳しいステージで戦うためのベース車が搭載するエンジンに水平対向を選ぶ理由を考えてみましょう。
そのひとつは「低重心」です。上部にシリンダーとシリンダーヘッドを置く直列やV型エンジンに比べて、クランクシャフトと同軸にそれらを配置する水平対向は、エンジン単体では圧倒的な低重心を誇ります。実際には吸気系やオルタネーターなどの補機類を上部に配置しなくてはならないので重心はクランクシャフトより上になりますが、スポーツ走行において重心の低さは上位に挙げられるメリットなので、このアドバンテージは魅力になります。
そして、左右のシンメトリー(対称性)もメリットになります。左右にほぼ均等にシリンダーが配置される水平対向エンジンは、構造的な対称性がほぼカンペキになります。重量配分が左右同じというのは運動性能においても有効に働きますので、性能を追求する車両で水平対向エンジンを採用する理由のひとつになるでしょう。
エンジン単体で見ても性能追求にメリットがあります。バランサーやクランクウエブ(ウエイト)が不要なので、クランクがシンプルで軽量にできます。そして隣り合ったピストンが交互に動く仕組みのため、シリンダー内の圧力がピストンの抵抗になりにくいことも加わって、高回転に有利な形式となるため、高出力が見込めるエンジン形式だと言えます。
官能面で見る「水平対向エンジン」の魅力
スポーツカーにとってはドライビングの気持ち良さもかなり重要です。ポルシェとスバルの水平対向エンジンの魅力として挙げる人が多いポイントが、「ボクサーサウンド(ノート)」でしょう。向かい合うシリンダー同士が同時に燃焼する水平対向エンジンならではの「ドコドコ」や「ドロドロ」といった鼓動感のある排気音が好きだという人は多いと思います。これは他の形式のエンジンでは味わえないポイントなので、オーナーにとっては優越感を味わえる部分でしょう。一時期はマフラーを交換することで、その鼓動感をより強調している車両も多く見かけました。
あとは左右対称レイアウトならではの、左右2本出しマフラーの後ろ姿でしょうか。近頃はデザイン重視で左右配置のマフラーも増えてきましたが、その説得力は水平対向が一段高いところにあると感じます。
ではなぜ、スバルとポルシェにしか採用車が残っていないのか?
高性能を追求する時代にはメリットの方が注目されていた水平対向エンジンですが、時代が燃費や環境優先にシフトしてきた近代では、そのメリットの部分が効果を発揮しづらくなってきているようです。
いちばんのデメリットはエンジン幅が広くなってしまう点です。いまの環境対応思想のエンジン設計はロングストローク傾向にありますが、水平対向エンジンではエンジンの幅をさらに広げる方向になってしまうため、それはできません。
また、衝突安全の面でも制約になってしまいます。衝突の衝撃を吸収するために重要なサイドメンバーを理想的なところに通せないため、エンジンを落とすなどの別の方法で衝撃を分散させて対応しています。
そして、意外と見逃されている部分ですが、エンジンと駆動系の最下部になるのはマフラーとフライホイールなので、スバルのように前置きの水平対向エンジンのクランク軸の位置は、直列やV型エンジンよりも少し高くせざるを得ないようなんです。それでも低重心なことには違いありませんが、圧倒的な低さとまでは言えないようです。
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みんなのコメント
V型バンク角180°だって指摘されてるのに
またそのまんまかよ
バイクだけどな。