ジャガー・ランドローバー・クラシックワークスが手がけた、極上の「XJ12C」に小川フミオが乗った!
ゆったりした走りがXJの真骨頂
もっとも魅力的なジャガーの1台である……と、言いたいが、「XJC」だ。XJクーペとも呼ばれ、1975年から77年の間だけ生産され、今やコレクターズ・アイテムとなっている。
ピラーレスの2ドアで、独自の魅力をもつXJCは、私にとって長年の憧れだった。その夢が叶ったのは2024年。本社直轄のジャガー・ランドローバー・クラシックワークスが、フルレストアした1978年型のXJ12Cをドライブするチャンスをくれたのだった。
12気筒エンジンのトルクといい、上手に設定された乗り心地といい、内外装のデザインに加えて、大きな魅力を感じさせてくれた。創業者のウイリアム・ライオンズ存命中にスタートした企画というのも、クルマ好きにはロマンチックに思える。
今でも人気が高い初代XJシリーズの発表は1968年だった。最終的に78年から92年まで作られて日本ではデイムラー「ダブルシックス」という姉妹車が人気を呼んだシリーズ3まで、3回の大きなマイナーチェンジを経ている。
XJCの企画がスタートしたのは、ジャガーにとって最重要だった米国市場で、クーペという車型の市場価値が高いことを、前出のサー・ウイリアムが見て取ったことに端を発している。
当時は、Bピラーをなくしたことでボディ剛性が保てなくなったとか、風切り音が過大になったとか、エンジニアは苦労した、と、記録に残っている。しかも、当時はボディデザインの評判もイマイチだったとか。
デザインの話に限ると、当時はセダンとの共通性が強すぎて、スポーティな雰囲気が薄すぎたと思われたんだろうか? 私はセダン好きということもあり、メルセデス・ベンツでいうならSクラス・ベースのCLとかBMWなら6シリーズとか独特の雰囲気がたまらない。ジャガーの場合、ベースのXJが大好物なので、XJCの魅力がひときわ輝いているのだ。
XJCが発表された当時、XJはシリーズ2に移行していたが、クーペのシャシーはホイールベースが100mm短いシリーズ1のものが使われた。総生産台数は1万426台で、私が今回乗ったXJ12Cなる12気筒モデルは1855台のみが作られた。
ドライブすると、まったく私の期待を裏切らなかった。燃料噴射装置をそなえた5.3リッター12気筒エンジンの強大なトルク(400Nmは当時としては驚異的)に乗って、アクセルペダルを強く踏み込まなくても力強い加速をする。
足まわりは、XJサルーンと同様、やわらかめ。 ダンロップ「SPスポーツ」という当時のスペックスをもつタイヤを履いていて、走行していると路面のショックを丁寧に吸収してくれる。ステアリングはクイックではないが、このゆったりした走りがXJの真骨頂なのだと、私的には得心がいった。
ロンドンの北西200マイルほどのゲイドン周辺の道はそう混んでいなかったので、交通の流れは遅くないけれど、苦もなく流れに乗れる。サイドウインドウを全開にすると、ピラーレスなので開放感が強い。80年代になると側突の問題から採用されなくなったボディ形式だが、今は実にスタイリッシュだ。
ビニールトップといって、黒い剛性樹脂を貼った小さめなキャビンもよい。内装は、ぶ厚いクッションのシートに、ウッドパネルとクロームパーツによるもの。その特別さもおおいにけっこう。
先に、XJCが当時は思ったほど人気が出なかった理由として、ひょっとしたらセダンに似すぎていたせいかも……と、言われたけれど、このクルマの“ブサカッコよさ”がたまらなく好きな私としては、昨今のクラシックカー市場での人気ぶりに納得がいく。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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