フォルクスワーゲンのMEBが基礎骨格
新しいエクスプローラーは、新しいフォードを体現している。フォルクスワーゲンのMEBプラットフォームを基礎骨格にするだけでなく、かつてフィエスタがラインオフしていた、ドイツ・ケルンの工場で作られるのだから。
【画像】フォードの定番SUVも電動へ! 新型エクスプローラー 競合サイズの電動SUVはコレ 全172枚
英国価格は、約4万ポンド(約800万円)から。電動ファミリーSUVの価格帯をリセットするべく、お手頃に設定された。全長は、フォルクスワーゲンID.4より約125mm短い。
フォードは、フィエスタやフォーカスなど薄利多売のモデルから、プーマやエクスプローラーなど、利益率の高いクロスオーバーやSUVへシフトしている。多くの人の記憶に残るモデル名を活用しながら。
AUTOCARの読者はご存知かもしれないが、フォードは英国ナンバーワンの自動車メーカーだった。だがフィエスタの生産終了以降は、販売数の上位から転落している。新しい電動SUVで、勢いづかせたいところだ。
エクスプローラーは難産だった。最新のバッテリー技術へ最適化するため、開発は1年以上遅れた。それでも同社の技術者は、操縦性に長けたモデル作りを得意とする。
開発を率いた技術者の1人、ヘルト・ヴァン・ノイエン氏は、「基本的に望ましいフォードへ近い」ものへ仕上がったと主張している。車重による足かせはある、と前置きしつつ、機敏さや路面への追従性、フィーリングを追求したとも述べる。
タイヤは専用開発のコンチネンタルで、ハードウエアだけでなく、ソフトウエアにも時間が割かれたという。東欧のスロベニア・リュブリャナ郊外の公道で、仕上がりを確かめてみよう。
航続距離は最長601km 2モーターの四輪駆動も
エクスプローラーには複数の仕様が用意されるが、2024年末に発売されるエントリーグレードはエクセル。駆動用バッテリーは52kWhで、航続距離は384kmが主張される。駆動用モーターはリアに搭載され、170psを発揮する。
今回試乗したのは、エクステンデッドレンジ仕様。同じシングルモーターだが、最高出力は286psへ高まる。駆動用バッテリーは77kWhへ増量され、航続距離は601kmへ伸びるという。MEBプラットフォームを利用したモデルとして、目下の最長だ。
こちらの場合、英国価格は4万5875ポンド(約917万円)。追加費用でプレミアム・グレードを選ぶと、ホイールは19インチから20インチへ大きくなり、マトリックスLEDヘッドライトを獲得する。かわりに、30kmほど航続距離は短くなる。
ベーシックなエクセルでも、ヒーターとマッサージ機能付きのフロントシートに、運転支援システム、インフォテインメント用タッチモニターなど、装備は充実している。高効率なヒートポンプ式エアコンは、共通でオプションだ。
エクステンデッドレンジにはツインモーター仕様もあり、5万3975ポンド(約1079万円)へ上昇する。フロント側にも駆動用モーターが追加され、四輪駆動になり、最高出力は総合339ps。79kWhの駆動用バッテリーが載り、1度の充電で529km走れる。
最高速度はいずれも180km/h。急速充電能力は、シングルモーターが最大135kW。ツインモーターでは185kWとなる。
フォードらしく優れた操縦性を宿す電動SUV
既にこのクラスの電動SUVは、選択肢が整いつつある。今回の試乗の限り、フォーカス級に日常的な興奮を提供することはないとしても、エクスプローラーが快適で親しみやすく、優れた操縦性を宿したモデルであることは明らかだ。
ステアリングは軽すぎず、反応は正確。速度域を問わず扱いやすく、車線の中央を辿りやすい。ドライバーの意のままに操れ、クルマとの一体感もこのクラスでは優れる。とてもフォードらしい。
動力性能は、シングルモーターの286psで不満なし。発進時に一気にトルクが立ち上がる印象だが、それ以降は線形的で滑らかに速度を管理できる。追い越しに不足ない余力もある。
ツインモーターも試せたが、エクスプローラーの動力性能としては、こちらがベターかもしれない。パワフルでシャシーの能力を引き出しやすく、運転の楽しさも勝るようだ。
高い速度域を保って機敏に走れ、気持ちが良い。0-100km/h加速は5.3秒だ。ただし、フォードとしてはお高めの価格が残念。スイートスポット的な、丁度いい仕様が登場することへ期待したい。
シングルモーターでもツインモーターでも、ドライブモードはスポーツとエコ、Bの3段階が用意される。最後のBは、ブレーキペダルを踏まずに停止できる、ワンペダルドライブを叶えている。
スポーツ・モードではステアリングホイールが重くなり、アクセルペダルの角度に対して活発に加速するようになる。エコ・モードはその逆だ。
ライバルに勝る快適性 タッチモニターは15インチ
サスペンションはアダプティブではなく、ドライブモードに関わらず一定。シングルモーターの方が、低速域での乗り心地は落ち着かない印象。ツインモーターは増える車重の影響か、つぎはぎの多い都市部でも滑らかだった。
流れの速い郊外に出れば、シングルモーターでも質感は改善。しなやかで快適といえた。
車内はとても静か。風切り音は最小限に抑えられ、フォードへ期待する以上に洗練されている。電動であることの強みを、しっかり味わえる。フォルクスワーゲンID.4だけでなく、アウディQ4 e-トロンと比較しても快適性は高いだろう。
実際の航続距離は、少し活発に走らせた後に充電し、シングルモーターで表示された想定が515km。ツインモーターでは482kmが示された。気温が12度と低かったことを考えると、優秀だ。
最後に、車内を観察してみよう。ダッシュボードに据えられるのは、中央部分をほぼ埋め尽くす、約15インチのタッチモニター。チルトでき、裏側には収納が隠されている。センターコンソールにも、大きな小物入れがある。
タッチモニターは高精細。トップ画面は理解しやすいが、そこから掘り下げていくとメニュー構造が少しややこしい。これは、フォルクスワーゲン・グループのシステムが持つ癖と共通している。
アイコンが小さく、正確にタッチするには指先をしっかり見る必要がある。エアコンの操作メニューがモニターの下部へ固定表示されるのは良いのだが、これも小さい。
ベストセラーへ返り咲くための大きな1歩
ステアリングホイールには、ID.4などと同じ、タッチセンサー式のパネルがある。これも、本家と同様に反応がイマイチ。後発のフォードは、採用を見送っても良かったように思う。
インテリアは、レイアウトなどを観察すると、MEBプラットフォーム由来であることがわかる。大人が快適に過ごせる空間はあるが、内装素材にはコスト削減の結果が漂う。プジョーE-3008の方が、触感も含めて印象は勝るだろう。
英国人には、定番ブランドの1つといえるフォード。多くの家族にとって、新型エクスプローラーが最初のバッテリーEVになる可能性は高い。
扱いやすいサイズで、クラスの平均以上に運転を楽しめ、ロングレンジ版は航続距離も優秀。クラス平均以下の内装という特徴も受け継いではいるが、再びフォードがベストセラー・ブランドへ返り咲くための、大きな1歩といえるだろう。
ちなみにもう1台、フォードはMEBプラットフォームをベースにしたバッテリーEVを計画中。こちらは、懐かしいカプリの名前が復活する予定だ。
フォード・エクスプローラー・エクステンデッドレンジRWD プレミアム(欧州仕様)のスペック
英国価格:4万9975ポンド(約999万円)
全長:4460mm
全幅:1870mm
全高:1600mm
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:6.4秒
航続距離:569km
電費:6.7km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2102kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
バッテリー:77kWh(実容量)
急速充電能力:135kW
最高出力:286ps
最大トルク:55.4kg-m
ギアボックス:1速リダクション(後輪駆動)
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古くからの知っているエクスプローラーに比べ、ひと回り小さいのか?