「乗り心地がいいクルマ」ときくと、どんなイメージが思い浮かぶだろうか。シートがフカフカのクルマ、新幹線のように揺れないクルマ、スマホを弄っていても酔わないクルマなど、様々なシーンを想像すると思う(どれも良い乗り心地の表現だ)。
このように、様々な「良さ」を追求しなければならないクルマの乗り心地性能は、実に奥が深いもの。自動車メーカーとしても、乗り心地をどのように落とし込むのかは、開発時に苦心するポイントだ。
魔法のじゅうたんに乗った気分! 元開発エンジニアが評価する「乗り心地のいいクルマ」5選
自動車メーカーはどのようにどう乗り心地を決めているのか。自動車メーカーで乗り心地性能設計をしていた筆者が、奥が深い乗り心地についてご紹介しつつ、乗り心地が良かったと感じるクルマを5台ほどご紹介しよう。
文/吉川賢一、写真/トヨタ、メルセデス、フォルクスワーゲン、日産、Adobestock、ベストカーWeb編集部(トップ画像=Ljupco Smokovski@AdobeStock)
■乗り心地は「周波数」と「一発入力」に大別できる
クルマの乗り心地は基本的に「振幅や加速度が小さいほど良い」とされている。後席で何かに集中していて、気がついたら目的地だった、というのは理想的だ(alfa27@AdobeStock)
クルマのサイズ(全高やホイールベース、車両重量など)やタイヤの種類(サイズや空気圧など)によって、乗り心地が変わるというイメージは、なんとなくお持ちだろう。
同じ道路を同じスピードで走行しても、ホイールベースが長いほうが揺れにくいし、重量が軽いほうが跳ねやすいなど、車格ごとに物理的な特徴はある程度決まっているのだが、「こうありたい」とする乗り心地性能は、どの条件下においても同じ方向を向いている。
乗り心地を設計するエンジニアは、一般的に、振動周波数による分類と、一発入力の過渡現象の2つに分けて考える。
具体的には、高速道路を走っているときに上下にフワフワしたり、荒れた道路を走ってガタガタするのが振動、道路の継ぎ目などでタタンッと乗り越すのが一発入力で、「振幅や加速度は小さいほど、乗り心地は良い」とされている。
クルマの乗り心地を振動現象と考えれば、マス(質量)とバネによって、振動の大きさや共振を設計できる。
マスとはクルマの重さ、バネとはサスペンションの4つのバネなどを示し、例えば、1Hz(1秒間に1度上下するゆっくりした揺れ)くらいの「フワフワ振動」を抑制したいならば、バネ定数(荷重と縮み量の関係)を上げるか、軽量化をする。
一発入力も同じく、加速度のピークを下げるため、バネ定数を下げたり減衰を上げる等を検討する。これが、古典的な乗り心地の設計方法だ。ちなみに、最近増えてきた周波数感応ダンパーは、周波数ごとに現象を区切ったことで、機能を最大化できている。
ただ、最新の乗り心地設計は、もっと深いところまで進んでいる。たとえば以下のような事例だ。
・シート素材によって疲労度が変わる(滑りにくいほうが疲れにくい)
・フカフカのシートがいいとは限らない(硬い方が振幅は小さいので疲れにくい)
・毛足の長いフロアマットだと乗り心地が良くなる(接地するのはかかとだけなのによく感じる)
・振動ショックが同じでも音が静かだと乗り心地がよく感じる(人間は加速度の大きさだけで乗り心地の良さを判断していない)
現在は、解析シミュレーションやドライビングシミュレーターなどもあるので、世界中の路面を再現走行することもできる。それでも乗り心地性能設計においてもっとも重要なことは、最終的には人間が官能評価をするということ。人間の感覚は、シミュレーションに現れない現象も捉えてしまうためだ。
■極上の乗り心地その1:トヨタ セルシオ(初代)
1989年登場の初代トヨタ セルシオ
筆者が過去に乗ったクルマの中で、乗り心地が良かった感じるクルマとしてまず挙げたいのが、トヨタの初代セルシオ(1989~1994年)だ。
筆者が初代セルシオに乗ったのは、登場から20年以上経った2010年代。
当時の高級セダンといえば、BMW7シリーズやベンツSクラスが抜きん出た存在で、400psオーバーのハイパワーエンジンを積み、20インチ以上の大径タイヤを履き、ダンピングが良く、引き締まった乗り心地が理想として認識されていた時代だった。
初代セルシオは、走行性能は低く、ボディの揺れも大きいのだが、その揺れの動き方がむしろ心地よく感じられ、「こっちのほうがむしろ良いのでは??」と考えさせられた。乗り心地の良さとはボディの動きや、車体の振動を小さくすることだけではないことを教えてくれた一台だった。
■極上の乗り心地その2:メルセデスSクラス(W222型)
2013年登場のメルセデスSクラス(W222型)
過去に試乗してきた中でも、「いまだに凄い!!」と感じているのが、2013年登場のメルセデスSクラス(W222型)だ。
ニワトリを持ち上げた手を、上下、左右、回転方向に動かしても、ニワトリの頭部は常に同じ位置に止まって見える、というテレビCMは、乗り心地に興味のある読者諸氏ならば、覚えている人もいるのではないだろうか(現在もYouTubeで視聴できる)。
凄さの秘密は、このモデルに装備されていた「マジックボディコントロール」だ。ステレオカメラで路面の凸凹を撮影し、サスペンションのスプリングレートとダンパーの強さを即座に制御をして衝撃をいなすというもの。
段差や凹凸を通過すると、他の高級車では少なからず揺れるのに、このSクラスは何事もなかったかのように通過する。カメラとアクティブサスを組み合わせるという、乗り心地への執念とコスト(超高い)のかけ方が尋常ではない、メルセデスの凄さが感じられたアイテムだった。
■極上の乗り心地その3:フォルクスワーゲン「ゴルフ7」
フォルクスワーゲン ゴルフ7
ゴルフ7の魅力は、正確で安定感の高いハンドリング、クラスを超えた快適な乗り心地、静粛性、室内の使い勝手、優れた燃費、そしてコストパフォーマンス、すべてがバランスよくパッケージングされていることだ。
なかでもゴルフ7の最終型、「マイスター」グレードは、BMWやメルセデス、アウディなど欧州高級車のDセグメントの乗り心地にも匹敵する、極上の静粛性と乗り心地であった。
17インチタイヤでも十分に良かったが、16インチタイヤを装着したベーシックグレードは、乗り心地の良さがひと際光っていた。このゴルフ7で完成されたことで、現行のゴルフ8の乗り心地もゴルフ7と同等に素晴らしい。
■極上の乗り心地その4:トヨタ クラウンクロスオーバーRS
トヨタ クラウンクロスオーバーRS。スポーツグレードにあたるRSは標準タイプよりも乗り心地が良い
最近乗った中で乗り心地が良いと感じたのが、トヨタ「クラウンクロスオーバーRS」だ。RSはスポーツグレードにあたるのだが、標準グレードよりも乗り心地が良い。
一般道から高速道路まで様々走らせてみたが、柔らかな乗り心地と優れた静粛性のおかげで、非常に快適。標準搭載となる電制ショックアブソーバーの恩恵も大きいが、大径タイヤが前提でも、突起ショックを上手くいなすための方策が構築されているのだろう。
このところのトヨタ車(含レクサス車)は、乗り心地のまとめ方が非常にうまい。新型クラウンスポーツも、同様のデバイスとなるそうなので、非常に楽しみにしている。
■極上の乗り心地その5:日産エクストレイル
2022年7月登場の4代目日産 エクストレイル
2022年7月に4代目へとフルモデルチェンジした日産「エクストレイル」も、乗り心地が良いと感じたモデルだ。コンベンショナルなサスペンション車の中では、現在の国内外のラインアップにおいて、このクルマがトップクラスだと思う。
ロードノイズや風切音はライバルSUVたちよりもワンランク上、とても静かで、動性能も上質だ。e-POWER特有の静かで滑らかな乗り心地は、非常に心地よい。
また、加速や減速で前後に車体が揺れないよう、前後輪のトルク配分をコントロールするe-4ORCEも、いい乗り心地に貢献している。e-Pedalの操作感もよく、日産が電動車のつくり込みを長く経験してきた利点は、こういうところに表れているのだろう。
■万人すべてが感じる「良い乗り心地」は難しい
最近は足回りを締める傾向があるが、昔のアメ車のようなフワッフワな乗り心地が恋しくなることもある。感じかたは十人十色。それ故に乗り心地の追求は難しい(happycreator@AdobeStock)
走行速度を重視した昨今のクルマは、ボディモーションを抑えるため、サスペンションはどうしても固める傾向になる。たしかに引き締まった足回りは安定していて走行しやすいのだが、たまには大昔の日本車やアメ車のように、緩めの乗り味も味わいたくなる。
体格も年齢も性別も違う、どんな人が乗っても「良い」と感じる、「万人にとって良い乗り心地」とは何か、乗り心地はまだまだ奥が深い現象なのだ。
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みんなのコメント
初代セルシオは、ヨーロッパでも日本でも絶賛された車で、走行性能も高かったのを知らないんだね。
適当な記事を書くなよな。