ATやワゴンモデルも導入されたランエボ第3世代
三菱のブランドから連想されるのは、古参のファンなら「ラリー」「4WD」「RV」であり、最近のファンなら「電動車」のイメージも入ってくるだろう。そのうち「ラリー」と「4WD」のイメージ、そして技術的ノウハウの形成に大きく貢献したのは、1992年から2016年まで24年間販売され、WRC(世界ラリー選手権)などのモータースポーツでも活躍した「ランサー・エボリューション」シリーズであることは間違いない。
ハイテク武装で「峠」でも最強! 速さのみを追求した戦闘機「ランエボ1~3」の衝撃
そんなランエボの歴史を初回は1~3までの第1世代、第2回目は4~6までの第2世代と見てきたが、今回はエボ7~9までの第3世代(CT9A/CT9W型)について振り返ってみたい。
【ランサー・エボリューション7】CT9A | 2001年1月発表
ベース車のランサーが2000年5月にフルモデルチェンジし7代目「ランサー・セディア」となったことで、ランエボもこの7から第3世代へ移行した。
また、この頃より三菱ワークスのWRC(世界ラリー選手権)参戦マシンがグループAから、より改造自由度の高いWRカー規定へと移行し、直接のホモロゲーションモデルがランサー・セディアとなったため、ランエボは国内モータースポーツを視野に入れつつ独自の進化を歩んでいくことになった。
ベースモデルの世代交代により全長が105mm延長され、全高は45mmアップしたことで、全長×全幅×全高=4455×1770×1450mmとなり、ホイールベースは115mm長い2625mmへ。トレッドもフロントが5mm、リヤが10mm拡大され前後とも1515mmとなり、タイヤサイズも1サイズ幅広の235/45R17となった(いずれもGSR)。
こうした大型化によるボディ剛性の低下を補うべく、サスペンション取付部周辺を中心とした板厚アップや補強パーツ追加、前後ドア開口部スポット溶接の追加(ランサーセディア比+約200点)などにより、ねじり剛性をランエボ6と同等としつつ曲げ剛性を同1.5倍にアップ。一方でボンネットおよびフロントフェンダーのアルミ化(前者は従来どおり)や、ルーフパネルおよび前後ドアガラスの薄板化などで、重量増を抑えている。
そして、従来のビスカスカップリング式センターデフから、このランエボ7で初めて、電子制御油圧多板クラッチ式のACD(Active Center Differencial)を採用。従来より3倍以上の差動制限力を確保しつつ、センターデフの差動制限力を走行状況に応じてフリーから直結まで制御可能なこのシステムは、「TARMAC」(舗装路)、「GRAVEL」(未舗装路)、「SNOW」(雪道)の3モードを備えており、ドライバーは好みに応じて走行モードを選べるようになった。
これに、メカニズムが改良されたAYC(Active Yaw Control)を組み合わせて統合制御することで、電子制御で曲がる4WDとしての性格をより一層強めている。
エンジンは4G63型2.0L直4ターボエンジンが踏襲されるも、ターボチャージャーの改良、インタークーラーの大型化、吸気系の配管取り回し変更、3ノズルインタークーラースプレー(手動切替機構付)の採用などにより、 最高出力280ps/6500rpmを維持しながら最大トルクを1kgm大きい39.0kgm/3500rpmにアップ。そのうえで2750~5500rpmにおいて35.6kgm超のトルクを発生する、扱いやすい特性を兼ね備えた。
その一方で5速MTは1速のギヤ比を2.785から2.928(GSRのみ)、5速を0.761から0.720(GSR、RSとも)へと変更することでレシオカバレッジを拡大。加速性能アップと燃費改善を図っている。
エクステリアは一枚翼に戻されたリヤウィングが目を引くものの、ブリスター化された前後フェンダーをはじめとして、再び洗練されたデザインに回帰。インテリアも同様にモダナイズされ、レカロ製セミバケットシートやMOMO製ステアリングも、よりモダンかつ機能的なものに一新された。
【ランサー・エボリューション7 GT-A】CT9A | 2002年1月発表
ランエボがこの世に生を受けてから約10年。初の2ペダル車は、このランエボ7をベースとした「GT-A」だった。「Grand Touring」に、「その第一歩」と「AT」という二つの意味を込めて「GT-A」と名付けられたこのクルマは、単にトランスミッションを5速ATとするに留まらず、ランエボらしい高性能とあらゆる場面での扱いやすさを両立するための変更点が数多く盛り込まれている。
エクステリアはリヤウィングが小型化(レスオプション、MT車の大型ウィングも設定あり)されるとともに、ボンネット上の開口部が廃止され、フロントバンパーも中央上部の冷気導入用エアインレットがなくなりライセンスプレートも中央配置となるなど、レーシーな装いは影を潜めている。
インテリアも、レカロ製セミバケットシートがオプション扱いとなる一方で、本革シートがランエボで初めてオプション設定され、かつこの本革シートのみヒップポイントがランサー・セディアと同じにされるなど、快適性と質感を重視した設計になっている。
4G63型2.0L直4ターボエンジンは低・中回転域でのレスポンスを重視して、ターボチャージャーのタービンノズル径断面積を縮小するとともに、コンプレッサーを小型化。272ps/6500rpmに35.0kgm/3000rpmという最高出力・最大トルクは、MT車より8psと3kgm低いものの充分にハイスペックだ。
また、サスペンションはワインディングでの扱いやすさと乗り心地のフラット感、ストローク感を高めたセッティングにしつつ、ボディには補強や遮音材を追加。ACD+AYC+スポーツABSも、安定性を重視した制御に変更している。
【ランサー・エボリューション8】CT9A | 2003年1月発表
2000年に発覚したリコール隠しに端を発し、ダイムラークライスラー傘下となった三菱は、その再建策の一環として、デザインアイデンティティの統一によるブランドイメージ向上を図っていた。その戦略を主導していたのは、2001年にダイムラークライスラーよりデザイン部門のトップとして招聘されたフランス人デザイナー、オリビエ・ブーレイ氏だ。
かつてスバル・レガシィ(2代目)やマイバッハのデザインも手掛けた彼が提唱したのは、アッパーグリルの中央を富士山型とするフロントマスクだが、これがベース車のランサー・セディアと同様、ランエボ8にも採用されることとなった。
これによる空力および冷却面での不利を補うべく、フロントバンパー中央部の開口部面積を10%拡大したほか、左右下部の開口部をダクト形状に変更。アンダーカバーもダウンフォースを増大させつつトランスミッションとトランスファー、ブレーキに冷却風を導く形状に改めている。さらにリヤスポイラーの水平翼と垂直翼をCFRP(炭素繊維強化樹脂)製とした。
メカニズム面では、GSRとRSの17インチタイヤ仕様に標準装備された6速MTが大きなトピック。4G63型エンジンは過給圧のアップにより最大トルクが40.0kgm/3500rpmの大台に乗った。また、デファレンシャル機構をベベルギヤ式から遊星ギヤ式に変更された「スーパーAYC」が新たに採用され、後輪左右のトルク移動量が従来の約2倍にアップしている。
この世代より北米にも輸出されることになったため、メーターパネルが270km/hスケールに共通化。燃料タンクがGSRで7L大きい55L、RSで2L大きい50Lに拡大された。
【ランサー・エボリューション8 MR】CT9A | 2004年2月発表
ランエボ8の一部改良版と言うべきこのMRだが、その変更点は少なくない。
外装ではアルミ製ルーフパネルを採用したほか、ルーフ後端に縦渦を発生させ空気抵抗を低減しつつリヤウィングのダウンフォースを増大させる「ボルテックスジェネレーター」をディーラーオプション設定した。
メカニズム面では、ターボチャージャーのタービンノズル径を拡大し、カムシャフトのプロファイルを変更するなど、4G63型エンジンを細部にわたり改良することで、最大トルクを0.8kgmアップ(→40.8kgm/3500rpm)。
スーパーAYCのクラッチケースをスチール製からアルミ製に変更するとともにクラッチディスクの肉厚を見直すことで約0.8kg軽量化したほか、デファレンシャルのハイポイドギアを高強度鋼に変更して、疲労強度を約1.2倍に高めている。
同時にACD+AYC+スポーツABSの制御を改め、高ミュー路でスポーツABS作動時にもACD+スーパーAYCの制御を通常通り持続させることで、ターンイン時の回頭性とトレース性を向上させた。ビルシュタイン製単筒式ダンパーの採用も、このモデルからとなる。
【ランサーエボリューション9】CT9A | 2005年3月発表
ランエボ8で不評だった“ブーレイ顔”は早くも廃止され、フロント開口部が再び拡大されるとともに、バンパー下部にインタークーラーパイプ冷却用のダクトを新設。リヤバンパーも下部をディフューザー形状とした新デザインとなり、操縦安定性が向上するとともに外観上の迫力もさらにアップした。
4G63型エンジンはさらに進化し、MIVEC(連続可変バルブタイミング機構)が採用されたことで、GSRで最大トルク40.8kgmを3000~4500rpmの広範囲で発生。
さらにRSと、GSRの快適性にRSの走りの装備を兼ね備えた新グレード「GT」には、トルク容量が大きい5速MTとの組み合わせで、コンプレッサーホイールの材質をアルミニウム合金からマグネシウム合金に変更したターボチャージャーを採用することで、最大トルクを41.5kgmにまで高めている。
【ランサー・エボリューション・ワゴン】CT9W | 2005年9月発表
ランエボ9にランサー・ワゴンのボディサイドパネルやルーフパネルなどを結合させ、リヤまわりを重点的に補強した、究極のスポーツワゴン「ランサー・エボリューション・ワゴン」が、2005年末までの期間限定かつ2500台限定で発売された。
グレードは6速MTを搭載する「GT」と、5速ATを搭載する「GT-A」の2種類で、スペックは前者が9のGSR、後者は7のGT-Aと共通。なお後者は、フロントバンパー左下の開口部にATオイルクーラーを配しており、その冷却のためにライセンスプレートを中央に移設している。
大径タイヤを収めるホイールハウスの張り出しにより、荷室の容量はベース車より約10%少ない530Lとなっているが、6:4分割可倒式シートバックやロール式トノカバー、3分割式のラゲッジアンダーボックス、ラゲッジフックなどを備えることで、使い勝手を高めている。
【ランサー・エボリューション9 MR/ワゴンMR】CT9A/CT9W | 2006年8月発表
第3世代最後のランエボとなる9 MRおよびワゴンMRは同時に発売され、9 MRはGSRとRSの2グレード構成に戻される一方、ワゴンMRは従来通りGTとGT-Aの2グレード体制が維持された。
9 MRおよびワゴンGT用の4G63型エンジンはMIVECの制御を変更したほか、ターボチャージャーのタービンホイール材質をインコネル(ニッケルクロム系合金)からチタンアルミ合金に変更。コンプレッサーホイール入口径の縮小と合わせ、レスポンスを向上させた。その一方で、チタンアルミ合金製タービンホイールとマグネシウム合金製コンプレッサーホイールを組み合わせたターボチャージャーは、GSR、RSともメーカーオプション設定となっている。
また、アイバッハ製スプリングを初めて採用するとともに車高を従来より10mmローダウンし、さらにスーパーAYCの制御をよりスポーティな方向にチューニング。左右後輪の駆動力制御量を約10%増大させることで、舗装路での旋回性能を高めている。
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みんなのコメント
でも本心は本当に羨ましく妬んでました
確実に峠では無敵だったしこの型は自分にはカッコ良く思えてた事をこの記事見て思い出しました
一回、乗ってみたかったな、この型のランエボ
また頑張って新車で欲しくなるくらい魅力があった。
俺はこの時代に生きて良かったと思っている。