■安価でホンモノのスポーツカーを目指した「ヨーロッパ」
ロータス「ヨーロッパ」が、いまだに「スーパーカー」として認められているのは、ひとえに、スーパーカーブームのきっかけとなった漫画『サーキットの狼』で主人公のパートナーだったからにほかならない。
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もっというと、原作者である池沢早人師氏自身がヨーロッパを駆って体験したスポーツカー仲間たちとの交流が、原作のアイデアの源泉になっていたから、である。
それゆえ、スーパーカーとしてのヨーロッパは、最終モデル、すなわちビッグバルブの1.6リッターDOHCを積む「スペシャル」の、それも左ハンドル仕様=当時のアトランティック正規輸入モデルで北米仕様(今回撮影したような個体)に限られるといっても過言ではない。なぜなら、それこそが、池沢先生=風吹裕矢が乗っていた仕様だったからだ(さらに大きなリアウィングを付けていた)。
それ以外のヨーロッパ、「S1」、「S2」といったブレッドバンタイプのモデルは、ロータス製ツインカムエンジンではなくルノー製パワートレインを積んでいたこともあってか、「ツインカム」や「スペシャル」ほどには、スーパーカー小僧の注目を集めることも、またなかった。
そして、面白いことに、マニアの注目を集めるのは、逆に、ロータスの創始者であるコーリン・チャップマンが描いた理想像に近い初期の2モデル、つまりロータス「タイプ46=S1」、「タイプ54=S2」、そしてレーシングの「タイプ47」、「タイプ62」であり、「タイプ74」以降ではない場合が多い。
ヨーロッパというクルマに対する、大いなる誤解はそこから生まれた。
ヨーロッパが本質的にスーパーカーなどでなかったことは、ロータスファンなら誰でも知っていることだ。
1960年代に、マトラ、ランボルギーニと並んでミドシップを採用した先鋭さと、名門ロータスからリリースされたという事実、そして漫画のヒーローによる無敵のパートナーイメージなどが結びついて、1960年代のイギリスを代表するスポーツカーのように考えられている。
けれども、実際はそうではなく、あの時代のロータスにおけるスポーツカーといえばあくまでもFRのエランであり、ヨーロッパとはその名の通りあくまでも大陸において売り出す、安価で楽しいスポーツカーの新提案でしかなかった。
ミドシップも、ランボルギーニのようにそれがロードカーとして最先端だったから採用したのではなく、地産地消の非力だがメンテナンス性に優れたパワートレインを使って本格スポーツカーを成立させるための手段でしかなかった。
コーリン・チャップマンにとって、ミドシップなどはレースカーで使い慣れたレイアウトでしかなく、それを売りにする高価なスポーツカーを作るなどという考えなど、ハナからなかったはずだ。
だから、ヨーロッパは、エランの後継では決してない。値段も、半額とはいわないまでも、かなり安かった。
あえていえば、ヨーロッパは、ロータス・セブンの後継であった。誰もが乗って楽しめる、安価でホンモノのスポーツカーを目指していた。
だからこそ、ルノーのパワートレインを積み、まずはフランスだけで発売されたのだった。
■旧世代のスーパーカーに共通する特徴とは?
実をいうと、漫画『サーキットの狼』をしっかり読み込んでみれば、池沢先生自身も、ヨーロッパをスーパーカーとして捉えていたわけでは決してなかったことが、分かるはずだ。読者であるボクたちが、フェラーリやランボルギーニに目を奪われていたなかで、勝手に一緒くたにしてしまった。
もっとも、当時の日本車事情を考えれば、ロータス・ヨーロッパも憧れのガイシャ、高価なスポーツカーであったことには違いないのだが。
漫画のコンセプトは、勧善懲悪型のスポコン育成物語である。つまり、庶民派のヒーローが、手にしうる最高のパートナーでもって、強敵(お金持ちや最新マシン)に立ち向かい、幾多の困難を乗り越えて、最終的に頂点に立つ。そのプロセスに、読者は自分の成長を重ね合わせて夢中になる。
サーキットの狼の場合、たまたま、その倒すべき強敵の役どころとして、当時最新のスーパーカーたちに白羽の矢が立ったわけで、決して、スーパーカーが主人公の物語ではなかった。スーパーカーはむしろ悪役。スーパーカーブームとは、ウルトラマンにおける怪獣ブーム、仮面ライダーにおける怪人ブームのようなものだったのだ。
旧世代と新世代の激しい戦いも存在した。主人公側の仲間たちが乗っていたのは、池沢氏のまわりに実在したオーナーたちが楽しんでいた旧世代、つまりは1960年代の名車たち、ヨーロッパや「ディノ」、「ミウラ」、「ナローポルシェ」であったのに対して、敵となる人物が駆ったのは、新参でパワーもあって高価なクルマたちであった。それが、スーパーカーというものなのである。
昔、丸い目玉がむき出しになったクルマが嫌いだった。リトラクタブルライトのスーパーカーに憧れた世代にとって、丸いヘッドライトがそのまま見えるという事実は、旧世代であることの証拠であったからだ。リトラクタブルライトブームと並行して、乗用車の世界では角目や異形が主流になっていくから、丸目は、やはり古いクルマであることの象徴となった。
クラシックカー好きとなった今となっては、画一的な丸目でありながら表情豊かな旧世代に、ひどく憧れる。歳を取ったのかもしれない。けれん味たっぷりの最新空力モダンな顔には、もはや嫌悪感さえ覚えることがある。リトラクタブルライトにしても、開けてみれば丸目である。時代は変わった。
そういうわけで、ロータス・ヨーロッパは、勧善懲悪のヒーローであったことからも分かるように、決して、絶対性能に優れた高級車ではなかった。否、ロータスが作ったスポーツカーだったから、造りは多少雑であっても、一流のハンドリングマシンであったし、1960年代のスポーツカーのなかでは秀でたドライビングファンを持っていたのだろう。
そして、その理想をもっともよく表現しているのが、やはり初代のS1であるという事実が、近年、S1、もしくはS2前期に憧れるマニアが多いという事実からも伺える。
1966年末に登場したルノー製82psエンジンを積むS1を、イメージ的にはスーパーカーとなったアメリカ仕様左ハンドルのストロンバーグキャブヘッド搭載ビッグバルブ・スペシャルが追い抜くことは、恐らく不可能だ。
そこが、誤解を紐解く鍵でもある。
* * *
●LOTUS EUROPA SPECIAL
ロータス・ヨーロッパ スペシャル
・生産年:1972-1975年
・年式:1972年
・総排気量:1558cc
・トランスミッション:5速MT
・最高速度:200km/h
・全長×全幅×全高:4000×1635×1080mm
・エンジン:直列4気筒DOHC 16バルブ
・最高出力:126ps/6000rpm
・最大トルク:15.6kgm/5500rpm
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みんなのコメント
人生の方向を示してくれた車ですね。
数年前まで自営で車関連の仕事ささて貰いました。
この世界に連れてきてくれたロータスヨーロッパでした。