クルマの進化に新技術は必要不可欠。世界をあっと驚かせる画期的な技術が続々と登場するが、そのどれもが普及するわけではない。ここでは普及しなかったエンジン技術にスポットを当て、普及しなかった理由、現状について考察する。
※本稿は2023年9月のものです
文/鈴木直也、写真/ベストカー編集部、日産、三菱自動車、マツダ
初出:『ベストカー』2023年10月10日号
日産はターボとスーパーチャージャーの「ダブル過給」!! マツダのロータリーも……超画期的でも普及しなかったエンジン技術6選
■マツダ ミラーサイクルエンジン
ミレーニアに搭載されたミラーサイクルエンジン(主な搭載車:ユーノス800)
・こんな技術
ミラーサイクル(アトキンソンサイクル)の原理は、「小さく圧縮して大きく膨張させる」というもの。可変バルタイ技術を応用し、吸気行程を短くして実現。これにより熱効率を向上させている。
・普及しなかった理由&現状
原理そのものは古くから知られていたが、量産車として初めてミラーサイクルを採用したのが、ユーノス800(後のミレーニア)だった。
ミラーサイクルは吸気行程が短くなるため、熱効率は向上するが排気量あたり出力はダウンする。これを補うため、トヨタはハイブリッドと組み合わせて電動モーターでトルクをアシストしている。今ではハイブリッドに不可欠。
しかし、そんな技術のなかった当時のユーノス800は、高効率のリショルムコンプレッサーによる過給を採用。パワーフィールは素晴らしかったのだが、残念ながら燃費メリットはほとんど実感できなかったのでした。
■三菱 気筒休止エンジン
気筒休止エンジンはドライバビリティに違和感があるのが難点(主な搭載車:初代ミラージュ)
・こんな技術
内燃機関はアクセル開度が小さい時に「ポンプ損失」というロスが発生する。ゆえに、低負荷時は一部のシリンダーを休止し、稼働シリンダーを高負荷で使ったほうが有利。これが気筒休止の目的だ。
・普及しなかった理由&現状
一部のシリンダーだけバルブの作動を止めることで、実用領域の燃費が向上するのが気筒休止のメリット。初採用が1982年のミラージュということでもわかるとおり、それほど難しい技術ではない。
ただし、運転しているドライバーに違和感を与えないようにするには、それなりにデリケートなチューニングが必須。初期の気筒休止は、そのへんが克服できず、あまり普及しなかった。
最近のモデルではドライバビリティの違和感は払拭されているが、皮肉なことに全体の技術水準が向上したことで、気筒休止のメリットが薄れた。
■マツダ ロータリーエンジン
ロータリーは世界でマツダだけが実用化(主な搭載車:コスモスポーツ、RX-7など)
・こんな技術
内燃機関の出力を上げるには、許容回転数を上げるのが王道。ところが、それを阻むのが、往復運動するピストンと複雑なバルブ回りだ。REは、そういうボトルネックをすべてなくした夢のエンジンだったんだよねぇ。
・普及しなかった理由&現状
馬力こそ正義という1960年代に生まれたロータリーエンジン
ロータリーエンジン(RE)が生まれた1960年代は、馬力こそ正義という時代。そこに颯爽と登場したREは、7000回転以上までストレスなく吹け上がるパワフルさで、当時のレシプロを圧倒した。
が、1973年の第一次石油ショックで暗転。ガソリン価格高騰で燃費の悪さが敬遠され、以後はスポーツカー専用エンジンとして生き残りを模索するも、2012年で生産が終了したのはご存知のとおりだ。
発電専用としてロータリーエンジンがMX-30で復活
そのREがシリーズハイブリッドの発電専用エンジンとして復活するという。コンパクトでスムーズというREのもうひとつの魅力に光が当たったということですね。
■三菱 5バルブエンジン
三菱 5バルブエンジン(主な搭載車:ミニカダンガン)
どれだけ効率よく空気を吸い込めるかで、エンジンの性能はだいたい決まる。吸気1、排気1の2バルブより、それを2個ずつにした4バルブが有利なのは自明の理。要は合計バルブ面積をいかに大きくするかが勝負なのだ。
4バルブから5バルブは、2バルブから4バルブほどの効果は得られなかった
それをさらに進めて吸気3バルブとしたのが5バルブ。日本ではヤマハが熱心で、その影響でトヨタや三菱が量産化。2→4は大進歩だったが、4→5は費用対効果の面で微妙で、普及しなかった。
■日産 ツインチャージャー
日産 ツインチャージャー(主な搭載車:マーチスーパーターボ)
アクセルを踏んでもすぐ反応しないのが“ターボラグ”だが、ツインチャージャーはその対策として生まれた技術だ。レスポンスに優れるベルト駆動スーパーチャージャー(S/C)を追加し、低速域はS/C、中高速域はターボと役割分担。全域でフラットなトルクと優れたレスポンスを実現。
マーチスーパーターボは930ccでありながらツインチャージャーにより最高出力110ps、トルクは13.3kgmを発揮するMA09ERTエンジンを搭載
1988年のマーチスーパーターボが日本唯一の実用例だが、最近は燃費改善技術としてVWやメルセデスなどが採用。高コストながら魅力的。
■マツダ プレッシャーウェーブスーパーチャージャー
マツダのみが実用化したプレッシャーウェーブスーパーチャージャー(主な搭載車:5代目カペラ、クロノス)
原理の説明がめちゃくちゃ難しい過給器が、プレッシャーウェーブスーパーチャージャー(PWS)だ。
無理を承知でざっくり解説するなら、ターボと機械駆動スーパーチャージャーのいいとこ取り。排気エネルギーを圧力波(プレッシャーウェーブ)のカタチで利用し、吸気圧力を高めてシリンダーに送り込む。
ただし、理論は優れているのだが……の典型。バルブのメンテも大変で実用例はマツダのみ(笑)
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みんなのコメント
これで記者やって行けるのか