従来どおりハンサムなスタイリング
2023年の欧州で最も売れたクルマが、プジョー208だった。その電気モーター版、e-208がフェイスリフトを受けた。登場から4年が経過したが、今でもクラストップといえる内容にあるだろうか。
【画像】ハンサムさは変わらず プジョーe-208 GT 競合の電動ハッチバック 新型5とミニも 全119枚
e-208は、充分な航続距離と急速充電能力、高級感あるインテリアなどを備え、バッテリーEVへ懐疑的な人の心を開く実力が評価されてきた。高価で特別なクルマではないという意識の普及へ、貢献してきた。
今回のフェイスリフトで、最もわかりやすい変化がフロントマスク。現行のプジョーらしく、「クロー」と呼ばれる縦に長いデイライトが特徴だが、後期型ではヘッドライトの下へ3本が並ぶ。
フロントグリルは、部分的にボディと同色に塗られ、放射状に広がるグラフィックを得た。アルミホイールには、新デザインが追加されている。
プロポーションが整い、ハンサムな印象は従来どおり。近年のプジョーでは、最もカッコいいコンパクト・ハッチバックだと思う。
e-208は、CMP(コンパクト・モジュラー・プラットフォーム)と呼ばれる構造を基礎骨格にしている。内燃エンジンにも対応しつつ、駆動用モーターと駆動用バッテリーにも対応する、汎用性の高いものだ。
エネルギー効率の良い、ヒートポンプ式エアコンは標準。車重は、内燃エンジン版と比較して約300kg重いが、重心が低くなるよう努力されている。急速充電能力は、最大100kWまで。BYDドルフィンより優秀だ。
高級感が滲み出る車内 癖のあるi-コクピット
駆動用モーターは、フロア部分へHのカタチに積まれ、容量は47kWhと50.8kWhの2種類。後者には高効率な駆動用モーターが組み合わされ、1度の充電で走れる距離に短くない差がある。
47kWhの方は発売当初から存在するユニットで、駆動用モーターは135ps。362kmの航続距離がうたわれる。対して、欧州ではトップグレードのGTのみとなる、50.8kWhの容量には156psのモーターが組まれ、最長399kmが主張される。
インテリアは、e-208のストロングポイント。ダッシュボードのデザインには、高級感が滲み出ている。
小径のステアリングホイールと高めのメーターパネルで構成される、i-コクピット・レイアウトは従来どおり。身長の高い人の場合、ステアリングホイールの位置がしっくりこない可能性が高い。もし購入をお考えなら、予め試乗することをオススメしたい。
インフォテインメント用タッチモニターは、10.0インチ。その下に、送風モードなどを選べる、鍵盤のようなハードボタンが並んでいる。ホーム画面と運転支援システムのショートカットキーは、タッチセンサー式だ。
内装は、手に触れる部分がソフトタッチ加工され、化粧パネルなどはグロスブラックとマットメタリック調でコーディネートされ、印象は良い。ただし、用いられる素材に高級感があるとはいいにくい。
リアシート側の空間は、このクラスとしては狭め。荷室は309Lと、平均的な容量がある。各所に設けられた小物入れや、USBポートは重宝するだろう。
動力性能に不満なし GTの乗り心地は硬め
確認はこのくらいにして、一般道へ出てみよう。最高出力135psのe-208でも、小さなボディを不満なく加速させる。紛らわしいことに、156psの方が0-100km/h加速は0.1秒だけ遅い。
とはいえ、どちらも動力性能に不満はなし。ホットハッチとは呼べないまでも、充分以上に活発に走る。
ノーマル・モード時は、アクセルペダルを一番奥へ踏み込むまで、出力が7割ほどに制限されている。普通に運転していれば気になる制御ではないが、特に意味があるようにも思えなかった。
スポーツ・モードを選ぶと、額面通りの最高出力を簡単に引き出せるように。エコ・モードでは明らかにパワーが絞られ、電気を食うエアコンがオフになる。
回生ブレーキは、通常のDモードでは穏やか。Bモードを選ぶと、シフトダウンしてエンジンブレーキを効かせたように、強く減速する。ブレーキペダルを踏まずに済む、ワンペダル・モードはない。スルスルと進む、惰性走行もできない。
ブレーキペダルは柔らかめの踏み応えながら、よく効く。制動力の強さも調整しやすいと感じた。
乗り心地や操縦性は、2020年に試乗したe-208のアリュール・グレードでは感心するほど優れていた。姿勢制御は引き締まり、キビキビと回頭していく様子が好ましかった。
他方、2024年に試乗した50.8kWhのGTラインは、サスペンションが硬め。郊外の道のうねりなどは良くいなすものの、市街地のツギハギが多い路面などでは、少し不快な衝撃が車内へ届く。舗装の剥がれた穴を通過すると、タイヤが振動する音も聞こえた。
長距離も快適な静寂性 電費はe-308より悪い
タイヤは、幅が205あるミシュラン・プライマシー4。グリップ力は高く、粘り強くコーナーへ食らいつく。とはいえ、シャシーバランスは安全志向で、かつてのGTiのように快活な走りは楽しめない。
アクセルオフでフロントノーズをイン側へ巻き込んでいけるが、リアは落ち着いたまま。ステアリングホイールの感触も、積極的に運転したいと思わせるほど、フィードバックが濃いわけではない。上下がフラットな形状は、扱いやすいとは感じなかった。
トラクション/スタビリティ・コントロールの介入は、適正と呼べるだろう。アクセルペダルを目一杯踏んでも、ホイールスピンはしない。きついコーナーでは、僅かなトルクステアを感じる。
バッテリーEVだから、車内は静か。長距離移動も快適にこなせるはず。ただし、GTグレードを選ばない限り、腰部分のランバーサポートは調整できない。i-コクピットの運転姿勢に慣れない人は、むしろ疲れてしまうかも。
電費は、50.8kWhで平均5.6km/kWhだった。現実的な航続距離は、285km程度と考えていいだろう。この電費は、ひと回り大きいe-308より悪い。バッテリーEVでは、車重以上に空力特性が重要だという事実を示している。
英国価格は、エントリーグレードのアクティブで3万1600ポンド(約607万円)から。内燃エンジンの208より、約1万ポンド(約192万円)高い。GTグレードで50.8kWhの駆動用バッテリーを選ぶと、3万6250ポンド(約696万円) へ上昇する。
実力は低くない だが検討候補は多数ある
小さなバッテリーEVとして、e-208の実力は今でも低くない。好印象な見た目や内装に加えて、充分な動力性能と航続距離、軽快な操縦性など、多くの人へ訴求できる特徴を備えている。
ただし、技術を共有するコルサ・エレクトリックの方が英国価格は若干安く、運転姿勢は一般的なもの。英国にはMG 4 EVという、更に安価で実用性が高く、航続距離の長い選択肢も存在する。中国ブランドの新モデルも、検討候補に加える価値はあるだろう。
ルノー5やミニ・クーパーE、フォルクスワーゲンID.2など、強敵も近々に控えている。今後のプジョーの戦いは、楽ではなさそうだ。
◯:実用に不足ない航続距離 快適で印象の良いインテリア 充分な動力性能と扱いやすさ
△:高めの価格 癖のある運転姿勢 狭めのリアシート 硬めの乗り心地
プジョーe-208 51kWh GT(英国仕様)のスペック
英国価格:3万6250ポンド(約696万円)
全長:4055mm
全幅:1745mm
全高:1430mm
最高速度:149km/h
0-100km/h加速:8.2秒
航続距離:399km
電費:6.4km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:1455kg
パワートレイン:永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:50.8kWh(実容量)
急速充電能力:100kW(DC)
最高出力:156ps
最大トルク:27.4kg-m
ギアボックス:1速リダクション(前輪駆動)
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