■イタルデザイン・ジウジアーロが提案した「イエローキャブ」用の革新的タクシー
街を行き交うクルマの多くが、ミニバンやSUVになった現代。1980年代前半に入って日本の日産「プレーリー」、アメリカのダッヂ「キャラバン」、欧州のルノー「エスパス」など、市販ミニバンの嚆矢と呼べるクルマが登場しましたが、それより以前では、1BOX車やクロスカントリー4WD車などの一部を除き、背が高いクルマはほとんど見られませんでした。
【画像】超カッコイイ! アルファロメオの「斬新タクシー」を画像で見る(16枚)
そんな中、1970年代に早くも「トールボーイ・コンセプト」と称した背が高いクルマを提案していた人物がいます。それが、ジョルジェット・ジウジアーロ氏と、氏が設立したデザインオフィス「イタルデザイン・ジウジアーロ」です。
イタルデザイン・ジウジアーロは、デザインだけでなく、時代の一歩先をゆくアイデアやコンセプトを世に出し続けて来たことでも知られています。限られた車体の大きさで、いかに広い車内を実現するかを模索した「トールボーイ・コンセプト」も、その一つでした。
そして、このコンセプトのベースになったのが、1976年にニューヨーク近代美術館が主催した「ザ・タクシープロジェクト~現代の現実的な解答」に出品された「アルファロメオ・ニューヨークタクシー」でした。
アルファロメオといえばイタリアのスポーティなクルマを作るメーカー。アメリカやニューヨークのイメージと縁がないように感じられます。しかしこのプロジェクトでは、アルファロメオ自体が参加を決め、イタルデザイン・ジウジアーロにデザインが託された経緯があるようです。
ニューヨークのタクシーは「イエローキャブ」と呼ばれていますが、イエローキャブといえばチェッカー社の「タクシーキャブ」をはじめとしたアメリカ製のフルサイズセダンがメイン。全長は5mを超え、エンジンも5リッターオーバーの巨大なV8を搭載していました。
そこでイタルデザイン・ジウジアーロは、未来の都市交通にふさわしい、コンパクトで効率的なイエローキャブを提案。全高1770mmの1BOXスタイルを取り入れることで、全長わずか4065mmのコンパクトな車体に乗客5名と荷物を載せることを可能としました。
従来のフルサイズセダンと比べると、車体が道路に占める面積は約30%も減少。しかし車内は大幅に広くなっていました。全高が高いため、乗り降りの際に大きく屈む必要も少なくなりました。
エッジで構成されたデザインは斬新で、アルファロメオの象徴である「盾」を、実体ではなく視覚的に浮き上がらせて見せるアイデアは秀逸です。
【小見出し:車いすのまま乗降も可能!? 現代でも通用するコンセプトに脱帽】
前輪駆動の採用で生まれた低くてフラットな床面の上には、長さ1410mm、高さ1420mmの客室を確保。
車内には、後ろ向きに座る跳ね上げ式の2列目シート2脚と、3人が横に座る3列目シートを設けていました。
荷物は2列目シートを跳ね上げた場所に置くか、3列目シートの下には収めることもできました。
ルーフには大きなガラス製サンルーフを装着していましたが、これは、のちにイエローキャブに採用された日産「NV200」でも見られた装備です。
リアドアはスライド式として乗降性を向上。床下に格納したスロープを展開すれば、車いすの乗客やベビーカーも歩道から乗降することが可能でした。
前席は完全にドライバー用スペースで、客室との間には透明な隔壁を設置。ドライバーとの会話はインターフォン、料金収受は隔壁に開けた小さな窓口を介して行うことを想定していました。ドライバーズシート周辺は快適性と業務のしやすさを考慮しており、広い視界もそれをアシストしました。
なおアルファロメオ・ニューヨークタクシーは、同社の商用車「F12」をベースに製作されていました。
F12はアルファロメオ伝統の1.3リッターDOHCエンジンを積んだ前輪駆動のバン・トラックで、低い床と良好な乗り心地を提供する独立懸架式サスペンションは、このコンセプトカーに最適といえました。
そして1978年、イタルデザイン・ジウジアーロは、トールボーイ・コンセプトの第一弾となるコンセプトカー「メガガンマ」を発表。通常の3ボックスセダンであるランチア「ガンマ」をベースにミニバン風の車体を載せたモデルで、各メーカーに大きな影響を与えました。
※ ※ ※
背が高い車体で広い室内を実現し、車いすに乗ったままでも乗降が可能……と聞くと、日本でも近年導入が進むトヨタ「ジャパンタクシー」が思い浮かびます。しかしそれよりもはるか以前に、イタルデザイン・ジウジアーロはアルファロメオ・ニューヨークタクシーでそれを実現していたことになります。その発想力と革新性には驚きを隠せません。
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