■85歳以上のドライバーが死亡事故を起こす確率は高いが、前年比では28.6%も減っている
高齢ドライバーの運転ミスに起因する交通事故が急増している……昨今のメディア報道からそんな風に思ってはいないだろうか。たしかに、80歳を超える高齢ドライバーは明らかに事故を起こしやすいという統計データがあるのは有名な話だ。では、最新データでも高齢ドライバーの交通事故は増えているのか、警察庁が発表している『交通事故統計月報』の最新バージョンである令和元年5月末版でのデータから確認してみると、報道のイメージとはまったく異なる数字が見えてくる。
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結論からいえば、交通死亡事故についていえば高齢ドライバーの起こした事故は減っている。それも前年比で20%以上というレベルの激減なのである。
■高齢ドライバーの起こす死亡事故は激減していた
ここでは「原付以上運転者(第1当事者)の年齢層別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数の推移」というデータに注目してみよう。少々長い題名の表組だが、人口当たりではなく免許保有者10万人当たりの数字であることがポイント。免許の保有率が低い年齢層でもドライバーの事故率が想像できる数字といえる。
さて、本年累計で5月末段階での交通死亡事故件数は1,186件(前年比-149件・-11.2%)となっており、死者数は1,212人(前年比-156人・-11.4%)となっている。基本的に死亡事故は減っているのだ。では、統計データでもっとも年齢の高い85歳以上の数字がどうなっているのかといえば、10万人当たりの死亡事故発生件数は4.72ポイントで、前年比-28.6%となっている。全年齢での10万人当たり死亡事故件数は1.27ポイントなので、85歳以上のドライバーが第1当事者(≒事故の主たる原因となった運転手)として死亡事故を起こす確率は高いといえるが、前年比で3割近く減っているというのは紛れもない事実。つまり高齢ドライバーの事故が急増しているというのは報道イメージであって、実際には高齢ドライバーの起こす死亡事故は激減している。
■死亡事故を増やしているのは55~59歳
さらに、別の数字を見てみよう。70歳以上のドライバーが第1当事者となった死亡事故は、10万人当たりで1.94ポイント。こちらも前年比では-27.2%と大幅減になっている。むしろ、10万人当たりの死亡事故件数が前年比で増えているのは少数派。55~59歳の年齢層の11.1%(1.31ポイント)と60~64歳の6.2%(1.43ポイント)くらいで、他の年齢層では軒並み減っている。その中でも65歳以上になるといずれも20%以上も減っているのだ。どう考えても高齢ドライバーの事故が急増しているという風には読み取れない。
もちろん、高齢ドライバーが確率でいうと交通事故を起こしやすいというのは統計からも明らかであり、なんらかの対策をすべきであることを否定はしない。だが、今年に入ってから増えているという事実はない。事実はないのに、その対策を求めるというのはナンセンスといえる。報道で目立っているというのは、メディアのバイアスがかかった情報であり、統計サンプルとしては有効といえない。対策を考えるのであれば、しっかりとした統計情報をもとに議論をすべきであって、イメージだけでは適切な結論を導けないだろう。前述したように前年比で大きく死亡事故を増やしているのは55~59歳の年齢層なのだ。
■単純に年齢だけで判断するのはミスリード
なお、交通死亡事故について前年比でもっとも減らしているのは30~34歳の世代で、なんと-40.0%の0.66ポイントとなっている。この10万人当たりの事故件数は過去10年でも見たことがないほど小さな数値である。ちなみに、10万人当たりの事故件数が1.00ポイントを切っているのは、この30~34歳のほかに、35~39歳(0.91ポイント)、50~54歳(0.98ポイント)といった世代グループが達成している。単純に年齢だけで事故リスクを判断するというのはミスリードになるだろう。
興味深いのは、現在の30~34歳のグループが25~29歳の多くを占めていたであろう5年前のデータを見ると、その際にも前年比で20%以上も事故の発生率を減らしていること。偶然かもしれないが、交通事故の対策において単純に年齢だけでみるのではなく、世代による違いも考慮していく必要がありそうだ。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
出典:警視庁 交通事故統計月報(令和元年5月末)
写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート
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