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「ホンダF1"初”の参戦復帰」1983年、スピリット・ホンダの真実。信頼性に難あり……しかしそのポテンシャルには誰もが期待した

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「ホンダF1"初”の参戦復帰」1983年、スピリット・ホンダの真実。信頼性に難あり……しかしそのポテンシャルには誰もが期待した

 今から約40年前、ひとつの自動車メーカーがF1への復帰を果たした。ホンダである。

 ホンダは1964年にチームとしてF1参戦。しかし1968年限りで撤退することになった。しかし1983年、スピリットと手を組み、F1への再参戦を開始。これがホンダにとって最初の”F1復帰”であり、この第2期活動はウイリアムズやマクラーレンと組んで大成功を収めた。

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 しかしスピリットと組んでの参戦となった当初は、非常に小さな、コンパクトな参戦体制で臨んだ。同チームのドライバーを務めていたステファン・ヨハンソンが、当時のことを振り返った。

 73年にも及ぶ長いF1の歴史を通じて、テクノロジーの進歩と世界最速のマシンでレースをするという前提が複雑に絡み合い、状況は何度も変わってきた。フェラーリのような象徴的なブランドを除けば、多くの自動車メーカーがF1には出たり入ったりしてきた……そこには、市場のトレンドや資金不足など、様々な要因があった。

 ホンダもそのひとつである。2023年の段階でホンダとF1の状況は、実に奇妙かもしれない。ホンダは2021年限りでF1を撤退したはずだが、実際には今もレッドブルとアルファタウリが、ホンダの子会社であるホンダ・レーシング(HRC)が製造したパワーユニット(PU)を使い続け、2チームのマシンのカウルには、ホンダのロゴが躍っている。そしてPUの新レギュレーションが導入される2026年から、ホンダは正式に復帰を果たす。有り体に申し上げて、ホンダは今もF1に参戦しているのか、あるいはしていないのか、判断に困るところである。

 そんなホンダが最初にF1復帰を果たしたのは、今から40年前……1983年のことである。それ以前のホンダは、欧州のF2で圧倒的な成功を誇り、それがF1への復帰へとつながった。

 ホンダはそのために、F1用の1.5リッターV6ターボエンジンを開発。第1期の時のようにチームとして参戦するのではなく、スピリットをパートナーとして参戦をスタートすることになった。

 このスピリットは、マーチの元チームマネージャーであるジョン・ウィッカムと、マクラーレンでM23やインディ500で3勝を誇るM16を手がけたデザイナーのゴードン・コパックによって立ち上げられた。ホンダもこれに出資していた。

 両者による共闘は、1982年からスタート。F2に参戦し、ティエリー・ブーツェンが3勝を記録する活躍を見せた。

 そしてこのF2に参戦していた時のシャシー”201”がF1用に改修され、そこにホンダF1エンジンが搭載されることになった。ただこのホンダのF1エンジンは事実上、F2エンジンを改造し、ショートストローク化したモノだった。

 F1用のスピリット201は、ホンダが必要とするデータを確実に取得できるように、当時のF1のレギュレーションに準拠する形で開発された。1983年からはF1でグラウンド・エフェクトカーが使えなくなったため、フラットボトム化。リヤウイングのサイズを大きくし、箱状のサイドポンツーンも付け加えられた。

 ドライバーを務めたのは、1982年にブーツェンと共にスピリットのマシンを駆り、F2に参戦していたヨハンソン。ヨハンソンはブランズハッチで行なわれたF1の非世界選手権戦であるレース・オブ・チャンピオンズに、スピリット・ホンダのマシンで参戦したのだ。

 予選タイムは、ポールポジションのケケ・ロズベルグ(ウイリアムズ)から19.734秒遅れの12番手。決勝もエンジントラブルによってリタイアに終わった。

「良い思い出がたくさんあるよ。あれは僕にとって、本当に最初の意味でのF1でのチャンスだったからね」

 ヨハンソンはAutosport.comのインタビューにそう答えた。

「それは前年のF2プログラムからの発展系だった。当時は基本的には開拓期だったけど、このプロジェクトはその中でも特に開拓という意味に近いモノだった」

「予選でマシンに問題が発生し、適切な走りができなかった。プラクティスでも凍えるような寒さだった。ブランズハッチには雪も降りそうだった」

「僕らのマシンは、少なくとも他よりも100kgほど重かった。そんなコンディションで、タイヤが熱くなってしまったのは僕らだけだった。他のチームは温度を上げるのにも苦労していた。一番柔らかいタイヤでは、ブリスターさえできそうになった。実際、プラクティスの初日には、僕らは最速だったと思う」

「なんで予選で失敗したのかは分からない。でもペースを発揮できなかった。マシンが出来上がったばかりだったし、すごく重かった。そういうのが理由になって、色々なことが起きた。最大の問題は信頼性だったんだ」

 F1世界選手権のレースに挑戦したのは、それから3ヵ月後、イギリスGPのことだった。舞台はシルバーストン・サーキットである。

 この間、スピリットとホンダは、信頼性の問題に協力して取り組んだ。ヨハンソン曰く、ホンダのエンジニアの何人かは、スピリットのファクトリー近くに家を借り、そこに住んで作業を進めていたようだ。

 ただ信頼性の問題は続き、特にターボのブースト圧を引き上げた時には、その兆候が強まったという。

「僕らは非常に密接に連絡を取り合っていた」

 そうヨハンソンは振り返る。

「当時ホンダの偉い人だった川本さん(川本信彦/当時ホンダ常務。のちのホンダ社長)とは直接仕事をしていたし、プロジェクトマネージャーのハギさんとも、一緒に仕事をした」

「ほぼ毎日、一緒に働いたよ。その頃は、どんなチームで働いていたとしても、本当に1日中働いていた。ずっと何かを考えたり、開発すべき様々なことや自分が考えていることについて話をしていた。それはとても親密な関係だった」

「僕らには信頼性の大きな問題があったけど、当時のターボエンジンはほとんどが同じような状況にあった。レースでのリタイア率はかなり高かったしね。でもホンダのエンジンにはポテンシャルがあったと思うし、エンジンを動かして見ると、かなりパワーがあった。当時は電気系なんてなかったから、グリッド上で身を寄せて、ブーストをもう1段階上げたりした様子を覚えている。当時はそれが、どんなことを意味するのか、僕らには分からなかった。まさに『もう少し頑張れー!』というような感じだった」

「その後、5周も走ると爆発することになった。でも、良い時代だったよ。ホンダのスタッフの人数も、そんなに多くはなかった。おそらく、5人か6人くらいだったかな。彼らはスラウ(スピリットのファクトリーの近く)に家を借り、文字通りキッチンでエンジンを組み立て直していたんだ!」

「当時は、レースのためにトレーニングする必要はないって、よく冗談を言ったものだよ。セッションごとに走ってピットに戻り、セッションが終わる前にスペアカーに乗らなきゃいけなかったからね。それで結局、金曜日の朝に2kmダッシュして、土曜日にも1kmダッシュしていたようなモノだったから」

 1983年の7月16日、スピリット・ホンダはF1正式デビューを果たした。ヨハンソンはこのイギリスGP予選で14番手。シャシーは限界ギリギリであるにも関わらず、ニキ・ラウダが乗るフォードエンジン搭載のマクラーレンや、ナイジェル・マンセルがドライブするルノーエンジン搭載のロータスを打ち破って見せたのだ。

 ただ信頼性の問題は相変わらずで、5周を走ったところでマシントラブルによりリタイア。それでも、実戦テストという意味では大いに役に立った。続くドイツGPでは予選13番手となり、決勝でも9番手までポジションを上げたところで、リタイアに終わった。

「とても興奮したよ。最初のレースでの予選は、満足以上の結果だった」

 そうヨハンソンは振り返る。

「ポテンシャルがあったし、文字通り僕らは、F2マシンにボルトでF1エンジンを取り付けた。マシンの形状や空力特性を見ると、ただの四角い箱みたいだった。でも、誰もが興奮していた。初めての正式なレースなのに、パフォーマンスには勇気づけられたと思うからね。誰もがそのポテンシャルを理解することができたんだ」

 スピリット・ホンダとヨハンソンは、それから1週間後のエステルライヒリング(今のレッドブルリンク)で初の完走を果たした。16番グリッドからスタートしたヨハンソンは12位でフィニッシュ。続くザントフールトでは7位フィニッシュを果たしたが、6位となったティレルのミケーレ・アルボレートから1周遅れだった。

 ホンダとスピリットは、F1に参戦するために多大なリソースを費やした。そのうちホンダは特に、大きな野望を抱いていた。1982年の段階から、ウイリアムズとワークスエンジン契約を締結することについて話し合いを行なっていたのだ。

 ウイリアムズはこの時点ですでに、チャンピオンを獲得した経験を持っていた。しかしそれは、市販のコスワースDFVエンジンを使ってのモノ。ただ当時はターボエンジンを使うチームが年々力を増している時期であり、自然級気のコスワースDFVに頼るだけでは、戦闘力を維持できないことを知っていたのだ。

 そのためウイリアムズは、ホンダがF1用ターボエンジンを開発していることを知るや、交渉に入った。そして1984年の最終戦に、ホンダのV6ターボエンジンを搭載した新型のFW09をデビューさせた。一方でスピリットはエンジンを失うことになったため、この最終戦には出場できなかった。

「それはちょっとした驚きだったね。その時何が起きたのかは、正確には分からない」

 当時のことを、ヨハンソンはそう振り返る。

「でも、政治的な話があったのは明らかだったと思う。誰もが少し驚いたし、僕のキャリアを後退させることにもなった。ようやくF1に参戦することができたと思ったんだけど、僕のキャリアは一歩後退してしまったんだ」

「そして日本に行ったら、ホンダが日本のF2に参戦する手配をしてくれた」

「1984年は日本でF2を走り、その後には手に入るチャンスには何でも飛びついた。それが劇的に状況を好転させることになった。だって翌年には、フェラーリに乗ることができたんだからね。最終的には、そのことが僕にとっては良い方向に向いたんだ」

 ホンダはスピリットに対して、1984年シーズンにハート製ターボエンジンを使えるように手配した。そして多くの資金を持ち込んだマウロ・バルディがシートを手にしたため、ヨハンソンはチームを去ることになった。

 一方のウイリアムズは、ケケ・ロズベルグのドライブにより1984年のダラスGPで優勝。これが、ホンダF1第2期最初の勝利となった。この年は、FW09はねじれの大きいシャシーであり、ホンダV6のエンジンブロックにもねじれが生じた。またターボラグも大きく、ドライブするのは難しいマシンだったと言われる。

 しかし、ウイリアムズとホンダのプロジェクトは軌道に乗り、1986年にはコンストラクターズタイトルを獲得、翌1987年にはダブルタイトルを獲得することに成功した。

 ただ1988年からはホンダのパートナーはマクラーレンに移行(1987年からはロータスにも並行してエンジンを供給)。4年連続でダブルタイトルを獲得するという黄金期を築いた。

 ただホンダとマクラーレンの関係も、1992年をもって終了することになる。ホンダが、再びF1から撤退したのだ。

 その後ホンダは、無限ホンダを通じてF1との関わりを続けたが、2000年を前にフルワークス体制での復帰を目指した。

 2000年からの”ホンダ”としてのF1参戦を目指し、ティレルやフェラーリで手腕を振るったパーベイ・ポスルズウェイトを招聘して、1998年からテストマシン”RA099”を走らせた。このマシンはホンダが実戦にデビューする前から公式テストにも参加。周囲が驚くような速さを見せつけた。

 しかしホンダは、急遽フルワークス体制での参戦計画を終了。BARをパートナーとして、2000年からF1に復帰したのだ。これがホンダF1第3期である。この第3期は、1年目からジャック・ビルヌーブが表彰台を獲得するなどしたものの、なかなか上位に進出することはできず。2004年にはジェンソン・バトンと佐藤琢磨のコンビでコンストラクターズランキング2位になるも、勝利には手が届かなかった。

 結局ホンダはBARを買収し、2006年からはフルワークス体制”ホンダ”として参戦し、ハンガリーGPで勝利を手にした。しかしこの第3期活動での勝利は1勝のみ。リーマンショックの煽りを受け、2008年限りで突如撤退……しかしそのホンダが2009年用に開発していたRA109……後のブラウンGP BGP001は、メルセデスエンジンを搭載して無類の強さを発揮し、チャンピオンに輝いた。

 そしてホンダは2015年から、かつて黄金時代を築いたマクラーレンをパートナーにF1復帰。ただこのコンビはうまくいかず、2018年からはトロロッソにパワーユニット供給先を変更し、ここでのパフォーマンスが認められる形で翌年からレッドブルにもPUを供給。その先は皆さんご存じの通り、2021年のドライバーズタイトルを獲得すると、2022年にはダブルタイトルを獲得。2023年も前半戦全勝という圧倒的な強さを発揮している。

 しかし正式には、ホンダは2021年限りで撤退。現在はホンダの子会社であるHRC(ホンダ・レーシング)を介しての”サポート”という体制だ。

 そのホンダは、2026年からアストンマーチンをパートナーに迎え、F1に正式復帰を果たす。この2026年は、PUのレギュレーションが大きく変わるまさに新時代。そこでのホンダは、”F1復帰”の新たな歴史を築くというだけではなく、ふたたび黄金期を迎えることができるのだろうか?

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