自己紹介
吾輩はトヨタ・クラウンである。名前はあるといえばあるし、ないといえばない。ある朝、なにか気がかりな夢から眼をさますと、吾輩が寝床の中でクラウンに変わっているのに気づいた。元は人間だったが、気づけば日本を代表する高級車ファミリーの一員として、日本の道路を走っている。今回は吾輩の視点から、クラウンの家系について話をしていこうと思う。
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これは新たな車両評論のスタイルである。“マジガチ”のコメントはくれぐれもお控えください。
※ ※ ※
吾輩は、クラウンの家系図によると16代目にあたる。人間でいえば、京都にある室町時代からつづく蕎麦屋の現在の当主が16代目であるように、自動車族のなかではなかなかの古さだ。
初代クラウンは、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)による統治が終えた3年後、1960年代からはじまる高度経済成長に向けてこれからという1955(昭和30)年に純国産の高級車として誕生した。
常に先進的な技術が採り入れられ、また圧倒的な存在感とデザイン、そして秀逸なキャッチコピーにより、トヨタのトップブランドとして君臨してきた。まさに、初代から戴冠してきたエンブレムがその象徴といっていい。
自慢1「トップブランドとしての系譜」
どのご先祖様も、トヨタのトップブランドとして
・静粛性
・信頼性
・安全性
・デザイン性
どれをとっても最先端を走ってきた。「日本初の技術は、いつもクラウンから搭載される」ともいわれるゆえんである。2代目(1962年)では、国産初のオールアルミ製V型8気筒エンジンやAT車のさきがけとなるトヨグライド(2速半自動AT)を搭載。5代目(1974年)では、世界初のオーバードライブ付4速AT、日本初の車速感応型パワーステアリング。7代目(1983年)になると、エンジンと4速ATをマイコンで総合制御するシステムが日本で初めて採用された。
1983(昭和58)年といえばファミリーコンピュータが発売された時期であり、何かしらの縁を感じるのは吾輩だけだろうか。以降も、11代目(1999年)に世界初となるマイルドハイブリッドシステム、13代目では運転者の顔の向きや状態も把握して安全を確保するドライバーモニター付プリクラッシュセーフティシステムが搭載されるなど確実に進化してきた。
自慢2「圧倒的な存在感とデザイン」
クラウン一族は、日本国内において圧倒的な存在感を示してきた。また、フロントグリルは、エンブレムとともに圧倒的な存在感の象徴として、「クラウンとは」を語ってきたといっていい。
インパクトのあるフロントグリルは2代目(1962年)からはじまり、車両全体のデザインと相まって大きさや形を変えてきたが、14代目(2012年)で極みまでたどり着いた。14代目のアグレッシブな思い切ったデザインは、発売当時は賛否両論が渦巻いた(どちらかといえば、批判的な意見が多かったような……)。
しかし、今になって冷静に振り返ってみると、14代目もしっかりとクラウンを体現していたように思える。ちょっと残念なのは、16代目の吾輩が、確かに現代的であるがインパクトに欠けるところだ。車にあまり興味のない人が見ると、カローラをひと回り大きくしただけに感じるのではないだろうか。
また、レクサスのフロントグリルをみると、お家芸を奪われた気がしてならない。
自慢3「世間を魅了したキャッチコピー」
また、技術や車両デザインだけでなく、キャッチコピーで世間を魅了してきたのも、クラウン一族の自慢だ。
3代目(1967年)の「白いクラウンは幸せなハイライフの象徴」は、1968(昭和43)年に国民総生産(GDP)が世界2位となり、「1億総中流」という言葉が出てきた時代背景のなかで、消費者のマインドをつかんだ名作だろう。
7代目(1983年)の「いつかはクラウン」も、3代目に負けず劣らず評価の高いコピーだ。なかには、12代目(2003年)の「ZERO CROWN」のような決意表明じみたコピーもあり、14代目(2012年)の「新たなる革新への挑戦 CROWN ReBORN」もまさにそうだろう。
14代目は、キャッチコピーやデザインもさることながら、ピンクのクラウンもなかなかだった。街中で見かけたときに「おおお!」となった人も多いのではないだろうか。しかも14代目は、登場した2012年の販売台数約3万台から、翌年は約8.3万台と、右肩下がりの傾向にあるなかで大きく数字を伸ばしたのだ。14代目の革新への挑戦は成功したといっていいと思う。
クラウン一族再び世界へ
日本の高級車として君臨してきたクラウン一族であるが、レクサスの登場で
「立ち位置が微妙になった」
ような気がしてならない。レクサスは、トヨタとは別ブランドであり、あくまでもトヨタの最高級ブランドはクラウンだといっても、何かが引っかかっている。
また、国内の販売台数(乗用車)でいえば、1990(平成元)年の約20.5万台をピークに減少しつづけ、2023年は約4万台に激減。このままでは「クラウン? 知らない子ですね」といわれかねない。
ジリ貧の国内販売は、日本を代表する高級車として世界に飛躍するチャンスといっていい。初代も1958(昭和33)年に米国に輸出されたものの、技術的に米国での使用に耐えるものではなく、輸出が打ち切られた経緯がある。
以降、クラウンの輸出は微々たるものだったが、2022年7月の豊田章男社長(当時)の
「クラウンは、日本の豊かさ、ジャパンプライドの象徴。(中略)だからこそもう一度世界に挑戦する」
を反撃ののろしに。16代目の吾輩で本腰を入れて海外展開を開始したところだ。ご先祖様のリベンジではないが、世界各地でのクラウンの奮闘に期待していただきたい。
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