■レースに勝つために生まれた「GTA」という称号
2020年3月、デビュー5年目のアルファ ロメオ「ジュリア」の最上級・最高性能モデルとして、世界限定500台のみ生産される「ジュリアGTA/ジュリアGTAm」が、往年の傑作の名跡を継承したスポーツモデルであることをご存じの向きも多いだろう。
この「GTA」および「GTAm」の名跡は、いかにして歴代のジュリア、ひいてはアルファ ロメオのアイコンとなったのだろうか。今回は、初めてGTAの名を冠したレジェンドを筆頭に、3世代のGTAをご紹介しよう。
●ジュリア・スプリントGTAとそのファミリー(1965年)
世界中のアルフィスタの間で、現在もなお伝説的な存在となっている元祖「ジュリアGTA」シリーズは、当時のヨーロッパにて大人気を博していた「ETC(ヨーロッパ・ツーリングカー・チャレンジ)」選手権の制覇を最大の目的として、1965年にデビューしたFIAホモロゲート用ベースモデルである。
「軽量化を施した」ことを意味するイタリア語「Alleggerita(アレジェリータ)」のイニシャル「A」に相応しく、フェンダーやドア、ボンネット、トランクリッドなどをアルミに置き換えたことで、「スプリントGT」で950kgあった車重は、レース用のホモロゲート仕様では745kgまでシェイプアップされていたという。
また、アルファツインカムにはツインイグニッション化された新設計のヘッドが与えられ、もちろんツインで装着されるウェーバーキャブレターもΦ40mmからΦ45mmに大径化。
ストラダーレのパワーは、「スプリントGTV」の109psからわずか6psアップの115psに過ぎないが、この時期アルファ ロメオのモータースポーツ活動を一手に引き受けていた「アウトデルタ」がモータースポーツ用に仕立てた「GTAコルサ」では170ps以上を発生したとされている。
そして、アウトデルタによってエントリーされた「GTAコルサ」は、アルファ ロメオの目論見どおり1966年シーズンからETCに参戦。1969年までETCにて4連覇を果たしたうえに、北米のツーリングカーレース「SCCA」選手権でも大活躍を見せたのだ。
一方1968年には、その2年後となる1970年シーズンからETC選手権に1300ccクラスが設立されることを見越した縮小版「GTA1300ジュニア」も登場。ツインプラグ化されたエンジンは、GT1300ジュニアの改良版ではなく「1600GTA」から発展した別物で、ボア×ストロークはオーバースクエアとされていた。
このGTA1300ジュニアも、もちろんFIAグループ2にホモロゲート。ETC選手権をはじめとする1300ccのツーリングカークラスでは常勝を誇ったのだが、とくにETCではそのあまりの強さが逆に災いして、わずか3シーズンで1300ccクラスを閉鎖させてしまうことになる。1300GTAジュニアは、まさに「カテゴリーキラー」だったのだ。
一方、新生ジュリアGTAmのネーミングの元ネタとなった「1750/2000GTAm」は、ジュリア・スプリントGTVの後継車、「1750GTV」をベースとしたFIAグループ2ツーリングカーレーサーであった。
1971年からの新レギュレーションで最上位カテゴリーとなる「ディヴィジョン3(1600cc以上)」に対応した、アルファ ロメオとアウトデルタの新兵器だった。
この新レギュレーションにより、ジュリアGTA以来のアルミボディが使用不可能になったため、ボディシェルは市販型1750GTVのそれを流用。FRP製のフレアフェンダーやエンジンフードを組み合わせた920kgの車体に、より効率の高い狭角ヘッドを採用したツインカムエンジンを搭載していた。
そして車名GTAmの「Am」とは、想像されるような「Alleggerita Modificata(モディファイされたアレジェリータ)」の略ではなく、1750GTV北米仕様と同じスピカ製インジェクションを備えることから「America」の略とされる。
あるいは大排気量を意味する「Maggiorata」の「m」をGTAに追加したとする説もあるが、その真偽のほどは明らかにされていない。
いずれにしても「1750GTAm」、そして市販モデルが「2000GTV」となったことで改名された「2000GTAm」も、ともにETC選手権では向かうところ敵なしの常勝マシンとなったことから、新しい「ジュリアGTAm」でもその栄光のネーミングが継承されることになったことには疑う余地もあるまい。
■ヒット作「156」にもあった「GTA」とは、どんなクルマ?
前世紀末に誕生、デビュー年には欧州COTYにも輝いた「156」は、アルファ ロメオのみならず、同時代のスポーツサルーンのなかでも随一の魅力を誇るモデルであった。
とくに2002年に追加された最上級スポーツ版の「156GTA/156スポーツワゴンGTA」は、「かつての名作ジュリア・スプリントGTAの誕生から36年の時を経て誕生した新世代のGTA」とアルファ ロメオ社が自ら謳ったように、156のスポーツ性をさらに増進させたモデルといえるだろう。
●156GTA/147GTA(2002年)
車両重量はベルリーナ(セダン)の156GTAで1420kg、スポーツワゴンGTAでは1510kg。
156ベルリーナ同士で比較すれば、2.5リッターV6モデルに対して60kgアップと、決して「アレジェリータ(軽量化した)」ではなかったものの、サスペンションやブレーキには高度なチューンが施されるとともに、ボディワークもスポーティかつ官能的なデザインのエアロパーツで武装された。
また、設計者ジュゼッペ・ブッソ技師の名前から「ブッソーネV6」と呼ばれるアルファ ロメオの至宝V6ユニットは、3.2リッターまで排気量アップするとともに、吸排気系および専用ECUなどのチューンが施されて250ps/6200rpmのパワーと、30.6kgm/4800rpmの最大トルクを発生。
胸のすくようなパフォーマンスに加えて、魅惑的なエキゾーストサウンドまで両立したことから、当時のエンスージアストを狂喜させることになった。
くわえて、イタリア国内選手権「スーペルトゥリズモ」や「FIA-ETCC」選手権などのツーリングカーレースでは、現在のアバルトの前身である「Nテクノロジー」社が仕立てた、完全レース仕様の「156GTAスーパー2000」が大活躍。
こちらはレギュレーションの関係から直列4気筒2リッターエンジンが搭載されたが、当時「Cuore Sportiva(スポーツスピリット)」を社是としていたアルファ ロメオ市販車すべてのイメージアップにも、大いに貢献したといえるだろう。
一方、156GTAの誕生からほどなくデビューした「147GTA」は、コンパクトな3ドアハッチの147に156GTAと同じく250psを発生するV6エンジンを詰め込んだモンスター。
ハイパワーFFゆえのじゃじゃ馬的な走りっぷりと、156GTAと同様にワイルドかつ官能美溢れるアピアランスに惹かれるファンは、現在でも数多く存在する。
●MiTo GTA Concept(2009年)
新時代のGTAを模索するため、2009年春のジュネーヴ・ショーにて発表されたコンセプトカーが、「MiTo GTA Concept」だ。
アルファ ロメオでは史上初となった、セグメントBコンパクトハッチの「MiTo」をベースとする超辛口なホットハッチである。
「GTA」、つまり軽量スペシャルの伝統を体現するため2シーター化を施したほか、ルーフやリアスポイラー、ドアミラーなどにカーボンファイバー素材を使用。
サスペンションにブレーキ、シャシの一部などがアルミ化されるなど、かなりドラスティックな「アレジェリータ化」を施したとアピールしていたのだが、正確な車両重量のスペックは未公表だった。
一方シャシについては、前後サスペンションのジオメトリー見直しや、車高を20mmローダウンさせるコイルスプリングの採用により、大幅な低重心化に成功したと謳われた。
また、フロントバンパーやサイドシルスカート、リアスポイラーといったエアロパーツ類に加え、ボンネットや前後フェンダーまでも、新たにデザインされた専用パーツに置き換えられ、空力特性も向上。獰猛なアピアランスを醸し出すことにも成功していた。
パワーユニットについては、スタンダードのMiToが1.4リッター「マルチエア」に限定されていた(のちに本国/EU仕様では直列2気筒875ccの「ツインエア」エンジンも搭載)のに対して、3代目「ジュリエッタQV」や「4C」と基本を同じくする、直列4気筒直噴ターボ1750TBi・240psエンジンを搭載すると伝えられた。
MiTo GTAについては、当時の国内外のスクープ系メディアでは「2009年中には生産型が発売される」という噂も流布されていたのだが、残念ながら正式リリースに至ることはなく、さらにMiToシリーズ自体も2019年初頭をもって生産を終えてしまった。
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とにかく大好き ジュリアGTA