新型エクストレイルのデザインについて、プログラム・デザイン・ダイレクターを務める入江慎一郎氏に伺った。同氏は商品本部の担当者といっしょになってデザインの方針を決めたキーパーソンである。
■原点回帰に加えて上質さをプラス
意外に多い「あおり運転から逃げたらオービスに!」との主張…裁判官はどう退ける?
私の個人的な意見かもしれないですけれども、先代の3代目エクストレイルはどちらかというとSUVというよりはクロスオーバー寄りな、都会的な走りを想起させるスタイリングでした。やはりエクストレイルとしてのタフギアみたいなところが若干弱く感じていたので、そこはちょっと戻したいなと。ただ、単純に初代・2代目の“タフギア”として原点回帰するだけだと、新型の価格アップ分に対して、お客様はけっこうセンシティブ(敏感)に見ている。カッコよくなったからといって、ポンとお金を払ってくれるほど、世の中は甘くはありません。
また、特に全世界、同じデザインで売っていくという“グローバル ワンフェイス”という考え方で作っていますので、市場はアメリカもあれば日本、中国もある。というところで、いかにまんべんなく偏りなく、デザインできるかというところが勝負でしたね。それをタフさだけではなくて、上質さをもってデザインするというところが、1つキーポイントになっています。それがあったからこそ、グローバルで同じデザインでありながら、まんべんなくデザインの評判がいいということにつながっているのだと思います。
■上質というキーワードは世界共通?
そうですね。アメリカ人であろうが、中国人であろうが、日本人であろうが、上質なものを嫌いな人はいない。逆に上質さがないと、あと一歩で手が届くかどうかという時に、パッと買ってしまうか、もうちょっと考えようとなってしまうか、そこの“差”みたいな部分だと私は思うんですよ。実際、私もそういうところがあって、例えばスーツであれば、やはり細かい造り込みのよさみたいなところで、たぶんお金がかかっているんだろうなと思うぐらいの上質さを感じるから、パッと見ただけでも、何か違いを感じる。そこが上質さのエッセンスだと思います。
昨今、日産自動車のデザインは、“これ見よがし”的なプレミアムネスみたいなものはやらないんですよ。サクラとかノート オーラを見ていただければわかると思いますが、ほとんどクロームメッキがないんです。サクラは、多くのお客様から、軽自動車なのにすごく上質さを感じる、プレミアム感があると。それを感じていただいているからこそ、値段よりもさらに高いものを買ったような満足感を得られるという声をいただいています。日産はある時期から、方向転換して、しつらえのよさ、シンプルながら造り込みを極限まで頑張っているがゆえに得られる、無意識のなかで感じるプレミアム感をくみ取っていただいているのが、すごくうれしいですね。
日本人の美意識は“足し算”ではなくて“引き算”ですね。足していって豪華に見せるのではなくて、要らないものを引いていって、本質だけを残す。私はそこが究極の贅沢だし、プレミアム感だと思うんですね。そこを今、一生懸命デザインしています。だから、クロームを付ければいい、というのとは真逆なんです。
■海外仕様との大きな違いはVモーショングリル
今回、そういう意味で特徴的なのが、エクストレイルの北米版であるローグとの違いです。ローグの雰囲気は、エクストレイルのオーテック系グレードにその名残がありますが、それはグリルの内側にあるVモーションの太いバー。日本ではその部分を黒で隠しているんですけれども、北米だとクロームなんです。でも、日本に持って来たときに、やはりそういう美意識とか、e-POWERの静粛性から来る、これ見よがしではない上質さみたいなものを演出したかったので、内側のクロームをブラックアウト。外側のピンストライプのVモーションだけを残したのです。それがまさに“引き算の美学”。要は日本市場にとって要らないものを剥ぎ取って、本来必要なものだけを残したというような代表例みたいなアイテムですね。このようにVモーションのブラックアウトは海外仕様との大きな識別点になっています。
■グリルの組み木模様は日本からインスピレーション
新型エクストレイルのラジエターグリルは、日本の伝統工芸の「組み木」からインスパイアされて、現代風にアレンジを加えながら、デザインの一部として取り込んでいます。昨今の日産の“タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム”というアリアの少し前からあったボキャブラリー、共通の言語を取り入れています。そのなかの“ジャパニーズ”の部分、“タイムレス”も少しかかっているんですけれども、そういった伝統工芸からインスピレーションがわいて、現代風にアレンジする。昔からずっと愛されてきている工芸品やその手法を取り込めば、その先もずっと愛してくれるだろう、今でいう“タイムレス”です。そんなタイムレスなデザイン、飽きのこないデザイン。さらにそのモチーフの元となっているのが日本の伝統工芸という“ジャパニーズ”です。ただし、それだけだと古臭いデザインになってしまうので、ちゃんと“フューチャリズム”といって、現代的な解釈を加えながらデザインをしています。そういうものがいろいろな所にちりばめられています。
例えばリヤコンビランプのなかに、今回無垢のインナーレンズを使っているんですけれども、そこにパターンが施されていいます。それも江戸切子からインスパイアしてデザインしている。海外仕様も同じデザインを使っていて、日本的な要素として海外でもウケています。私は日本の伝統工芸の作品は、グローバルで通用するものが多いと思うんですよね。もっともっと広めていったらいいなと。私たちはそこからインスパイアされて、こうやってグローバルに売っていくプロダクトのなかに、ちょっとずつ折り込みながら、日本のメーカーとして日本を少しずつ宣伝しているみたいなところもあります。
サクラでは室内に桜の花びらのモチーフがあったり、水引のように縦横に交差したラインがエクステリア(ホイール)にあります。スピーカーは通常、パンチングが空いていたりするんですけれども、アリアではそこをあえて格子にして日本的な縦横のパターンを取り入れたりとか、いろいろなことをやっています。
海外の方はこうした日本のオリジナリティあふれるデザインに関心を寄せてきますよ。例えばフェアレディZのルーフ左右両端にあるシルバーのモールディングは社内的には“刀”と呼んでいて、まさに刀の切っ先をイメージして作ったんですね。ああいうのも日本刀からインスピレーションがわいて、デザインしたんだよと海外の方にいうと、すごくウケています。あと、そういう裏話というか、デザインのもとになっている意味を、きちんと日本のメーカーとして作っているという点をすごくポジティブに捉えてくれています。やっぱり国籍がわからないというよりは、Zだったら日本のスポーツカーとして売っているんですよというのに共鳴してくれる人はいっぱいいます。
〈文=ドライバーWeb編集部〉
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