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ルノー新SUV「アルカナ」搭載の新型HVシステムその名も「E-TECH」の実力と得意分野

掲載 更新 9
ルノー新SUV「アルカナ」搭載の新型HVシステムその名も「E-TECH」の実力と得意分野

 ルノーが独自に開発したハイブリッドシステムである「E-TECHハイブリッド」。ルノーは、今春登場するクーペクロスオーバー、新型アルカナを皮切りに、この「E-TECHハイブリッド」を搭載したモデルを、順次日本市場に導入することを発表しました。

 この「E-TECHハイブリッド」は、ルノーが得意とするF1のハイブリッド技術をベースにしたシリーズ・パラレル式ハイブリッドであり、ルノーとアライアンス関係にある日産のe-POWERとはまったくの別物。E-TECHハイブリッドとはどのようなシステムなのか、その構成と特徴について考察します。

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文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:ルノー、イラスト:著者作成

電動化技術とF1技術との融合

 ルノーは、欧州メーカーの中では最もバッテリーEV(BEV)に積極的に取り組み、一方でF1についても輝かしい実績を残しているメーカーです。すでに欧州市場では、2020年より「E-TECH」を搭載した「クリオ」や「キャプチャー」が投入されており、冒頭で触れたように、日本にも今春のアルカナを皮切りに、順次導入するとしています。

 E-TECHハイブリッドは、発電用モーターと駆動用モーターの2つのモーターと、F1で採用されているユニークなドグトランスミッション、大容量のリチウムイオン電池で構成されるシステムで、トヨタのTHS-IIやホンダのe:HEVと同じ、シリーズ・パラレル(以降、シリパラ)方式です。

 シリーズ方式とパラレル方式を融合させたシリパラ方式は、エンジンの出力を発電用と駆動用に使い分け、エンジンとモーターの駆動力を合成して走行します。効率は高いですが、システムが複雑で高コストなのが課題です。ちなみに日産のe-POWERは、エンジンを発電専用として、充電したバッテリーの電力でモーター走行するシリーズ方式です。

ルノーのシリパラハイブリッド「E-TECH」と、日産のシリーズハイブリッド「e-POWER」のシステム比較(イラスト:著者作成)

F1のハイブリッド技術を活用して、エネルギーの回生と分配を最適化

 このE-TECHハイブリッドの特徴は、F1で採用されている「MGU-K(運動エネルギー回生)」とドグトランスミッションです。

 MGU-Kは、トヨタTHS-IIやホンダe:HEVといったハイブリッドでも採用している、減速エネルギー回生システムと同じ働きをするもの。エンジンと連動するM/G(モーター/発電機)を搭載して、ブレーキ時や減速時に発電し、その電力をつかって加速時などにモーターアシストするシステムです。

 他メーカーのハイブリッドシステムと同じように、E-TECHも、エンジンを極力起動せずにスタートします。走行後は、減速時にエンジンで発電しながらバッテリーを充電しつつ、その電力を使って広い運転領域でモーター走行しますので、走行感覚はバッテリーEVに近いフィーリングだと考えられます。

 一方、強い加速では、エンジンは発電でなく駆動力として使用してモーターでパワーアシスト、高速運転では基本的にエンジンが力強い走りを実現します。通常の市街地走行の80%程度はバッテリーの電力のみでモーター走行するように制御され、WLTP市街地サイクルではガソリン車に比べて燃費が40%も向上するとされています。

 もうひとつの特徴であるドラッグトランスミッションの詳細については後述しますが、同じシリパラ方式のハイブリッドであるトヨタTHS-IIとホンダe:HEVは、トランスミッションを搭載していません。このトランスミッション搭載の有無が、ルノーとトヨタ、ホンダのハイブリッドコンセプトの大きな違いとなっています。

今春に日本市場初となるE-TECHを搭載して登場する、ルノー「アルカナ」。エンジンとモーターの間にドグトランスミッションを挟み込みこむことで、すべての運転条件で燃費と出力を最適化する

ドグトランスミッションによる俊敏な変速で、出力調整が可能に

 E-TECHで採用しているドグトランスミッションの構造は、基本的にはMT(マニュアルトランスミッション)と同じですが、クラッチを使わずに変速するのが特徴です。変速時間が短縮できることが大きなメリットなので、F1のほか、かつてはスポーツカーでも採用されていました。

 一般的なMTの機構は、シンクロスリーブの移動でギアとアウトプットシャフトを選択段だけ結合する方式です。変速の時は、まずクラッチを切り、選択されたギア段のアウトプットシャフトとギア連結して変速が完了します。この時、シンクロメッシュという機構によって、ギアの回転をアウトプットシャフトの回転に同期させ、スムーズに連結させます。

 一方のドグトランスミッションは、クラッチで断続することなく、ギア同士を直接ギア側面のドグ歯(凹凸)の噛み合いで連結します。ギア同士の回転数をうまく合わせないと、変速ショックが発生しますが、車速やエンジン回転などのパラメータをうまく調整すれば、自動で俊敏な変速ができます。変速時のロスを解消できるので、その分燃費の向上が見込めます。

 つまり、E-TECHにおいてドグトランスミッションは、エンジンとM/Gの回転数、出力を変速段によって調整するという、重要な役割を担っているのです。

F1でも採用しているドグトランスミッションは、クラッチを断続することなく、直接ドグギアで変速。変速ロスがなく、俊敏な変速ができるので燃費向上にもつながる(イラスト:著者作成)

欧州市場では、トランスミッションを搭載したシリパラが最適解

 最後に、2つの疑問について考えてみましょう。

 まずは、なぜルノーはすでに実績のある日産のe-POWERを使わないのか、です。ルノー・日産・三菱のアライアンスグループでハイブリッドシステムを共通化できれば、それだけ開発費やシステムコストを低減できるはずです。

 もうひとつは、なぜコストのかかるトランスミッションを採用しているのかです。システムが似通っているホンダのe:HEVは、トランスミッションを搭載せず、高速運転に適した減速比に固定されています。

 これらは、日本市場重視か、欧州市場重視かの違いによるものです。

 シリーズハイブリッドの日産e-POWERは、長時間高速運転をすると、エンジンは発電しっぱなしの状態になり、しかも高速ではモーターの効率も下がってくるため、発電用エンジンの燃費悪化が顕著になります。

 またトヨタTHS-IIやホンダe:HEVのようなシリパラハイブリッドでは、高速運転はエンジン走行になりますが、最高速度が比較的低めの日本の道路事情では、ギア比固定でも大きな問題にはなりません。しかし、高速運転の頻度の高い欧州市場では、エンジン回転やモーター回転を最適化できるトランスミッションと組み合わせることが、高速燃費の向上に有効なのです。

 ※参考:ドイツを除くヨーロッパ各国の高速道路での制限速度は、概ね110km/h~140km/h。ドイツのアウトバーンでは、全体の約70%が速度無制限となっていますが、常時工事や規制などが入り、稼働は50%程度のようです。

2020年にフランスで発売を開始した新型クリオ(日本名:ルーテシア)。E-TECHハイブリッドを搭載した最初のモデルで、現在人気を博している

◆     ◆     ◆

 ルノーが欧州市場での高速燃費を重視して、日産のe-POWERを使わずに独自開発したE-TECHを採用したのと同じように、日産や三菱が、同社のモデルへE-TECHを展開する可能性もないと思われます。日本市場では、E-TECHは過剰なスペックで高コストになるためです。

 アライアンスによる共通化とはいっても、やはり市場それぞれの事情を考慮しなければ、ユーザーの求めるクルマを提供することはできないのです。

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みんなのコメント

9件
  • クラッチを使わない所が、面白い。モーターがエンジンと回転を合わせるのは、そんなに難しくないと思う。
  • >ルノーとアライアンス関係にある日産

    日産は純粋に単なるルノーの子会社。
    その主従関係を、あたかも対等かのような「アライアンス」って言葉で誤魔化すの、いい加減に止めませんか?

       
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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