ボルボのワゴンはこの世界に必要な存在
ボルボのステーションワゴンは、この世界に必要な存在だと思う。実際に乗れる人は、限られるとしても。実に、70年以上という歴史を持つ。
【画像】この世界に必要なステーションワゴン! ボルボV60 B4 競合クラスのモデルと比較 全106枚
ボルボは戦後間もない1949年に、PV445というモデルを発表している。これは必要最低限の状態でも入手可能で、サルーンをベースに、コーチビルダーがリアを拡大したワゴンボディを提供していた。
しかし数年後、同社は自分たちで生産した方がベターだと判断。1953年に、ボルボ・デュエットが発売される。商用バンにリアウインドウを付けたようなクルマだったが、スウェーデン製ファミリーワゴンの原点が生まれた瞬間だった。
ところが近年の人々は、SUVへ強い関心を抱くようになった。当初、ボルボはそれをニッチなモデルだと考えていたが、気づけばSUVメーカーのような立場に。この人気と反比例するように、ステーションワゴンの支持率は低下していった。
事実、同国で2023年に売れたクルマの内、約60%はSUVだった。トヨタ・ランドクルーザーだけでなく、ヤリス・クロスやテスラ・モデルYなど、都会派なクロスオーバーも含まれるが。
2021年は約50%だったから、2年間で1割も増えたことになる。ヤリス・クロスや日産ジュークなどは、車高を持ち上げたハッチバックに近いものの、ステーションワゴンとは呼べない。
SUV人気の中、英国へ再導入が決まったV60
SUVの多くは全高が高く、前面投影面積が大きい。これは、エネルギー効率という点ではメリットがない。ボディの体積が増えるほど、使用する素材も増え、車重は重くなる。走行時の効率を落とすことになる。
内燃エンジンで走るモデルの場合、ガソリン代と税金額に影響が出る。バッテリーEVでは、航続距離が短くなり充電時間が増える。それを補うために駆動用バッテリーを大きくすると、さらに車重は増え、価格は上昇してしまう。
高速走行時のエネルギー効率に効く、空力特性を改善する手っ取り早い方法は、前面投影面積を小さくすること。2023年に、シトロエンのCEO、ヴィンセント・コビー氏は、電気自動車の時代にはSUVの次の流行が来ると話している。
もしかすると、トヨタ・アイゴXがそれなのかもしれない。内燃エンジンを積んでいるけれど。
ボルボはSUV人気へ押されるように、大切な存在といえたステーションワゴンを、2023年に英国市場から撤退させた。だが、その体制では不充分だと判断したのか、2024年後半に方針を撤回してくれた。英国人の気持ちが、届いたのかもしれない。
季節は丁度、冬の入口。北欧から届いた少し早いクリスマスプレゼントのようだと、筆者は勝手に感じている。お借りしたV60も、お祝いムードを高めるような、鮮やかなレッドだ。
新旧の丁度いいバランス クラス最大級の荷室
英国のディーラーへ再び並ぶことになったといっても、V60が新型というわけではない。2018年にモデルチェンジした、2代目ではある。かといって、それが残念なことだとは思わない。
近年のクルマは、モデルチェンジしても、必ずしもすべてが良くなるわけではない。V60には、ヘッドライトやラジオのボリュームなどに、実際に押せるボタンやダイヤルが残っている。タッチモニターも備わり、新旧の丁度良いバランスにある。
交通標識の読み取り機能は、ステアリングホイール上のボタンで、簡単にオン/オフを選べる。シートは大きくゆったりしていて、メーター用モニターの文字は読み取りやすい。現代的でありながら、すぐに馴染める。定番のスニーカーのようだ。
V60の大きさは、全長4761mm、全幅1850mm、全高1433mm。コンパクトではないが、上級モデルとして望ましいサイズ感だと思う。荷室はクラス最大級。後席の背もたれを起こした状態でも、奥行きは1020mmもある。容量は529Lだ。
その背もたれを畳めば、奥行きは1850mmに伸び、容量は1441Lへ広がる。床面には、荷物が転がるのを防ぐ仕切りが用意され、フックもある。床下には、スペアタイヤが入る空間もある。間仕切りのネットは、90ポンド(約1万8000円)のオプションだ。
走りは軽快 乗り心地は良好 2025年にも不満ナシ
英国仕様で選べるパワートレインは、2.0Lガソリンターボでマイルド・ハイブリッドのB4と、プラグイン・ハイブリッドのT6という2種類。今回の試乗車は、その前者だった。最高出力199psと、最大トルク30.4kg-mを発揮する。
トランスミッションは、7速デュアルクラッチ・オートマティックのみ。ステアリングホイール裏にパドルはなく、発進時のギアの選択は遅れ気味だが、走り出せば気にならない。走行中はエンジン音がほぼ聞こえず、車内は穏やかだ。
タイヤは19インチで、235/40というサイズだが、乗り心地は好ましい。車重は1734kgと、近年では軽い部類に入るため、相対的に走りは軽快。ちなみに、BMW i5より約700kgも軽量なことになる。
マイルドなハイブリッドで、燃費は14.0km/Lほど。驚くほどの数字ではないが、数年前のディーゼルターボのV60と同等。大きすぎず重すぎず、運転しやすく快適で、車内空間には余裕がある。2025年のファミリーカーとして、まったく不満はない。
ボルボのCEO、ジム・ローワン氏は、「MPVだけでなく、サルーンやステーションワゴンも弊社は提供しています。もちろん、SUVも。幅広いラインナップを擁し、有利なポジションにあるといえます」。と話している。
そう、彼が述べるラインナップには、落ち着いたV60とV90も含まれている。こんな控えめなステーションワゴンが、長く続くことを願っている。
ボルボV60 B4ウルトラ(英国仕様)のスペック
英国価格:4万8070ポンド(約937万円)
全長:4761mm
全幅:1850mm
全高:1433mm
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:7.6秒
燃費:14.5-15.9km/L
CO2排出量:158g/km
車両重量:1734kg
パワートレイン:直列4気筒1969cc ターボチャージャー+ISG
使用燃料:ガソリン
最高出力:199ps/4750-5250rpm
最大トルク:30.4kg-m/1500-4500rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック(前輪駆動)
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