日産「901運動」はR32スカイラインGT-Rなどの名車を生んだ。この活動から30年近く経ったいまでも人気を博している。そこで今回は、技術の日産が生んだ名車たちとともに901運動を振り返る。
文/吉川賢一、写真/NISSAN、ベストカー編集部
ゴルフ超えのP10プリメーラ! R32GT-Rも!! 日産901運動で生まれた名車が今見ても感涙モノだった
■日産901運動によって誕生した名車は今でも愛され続けている
R32スカイラインGT-Rは、生産終了から30年近く経ったいまでも根強い人気を持つ。「901活動」とよばれる運動によって誕生した
生産終了から30年近くが経ったいまでも根強い人気があり、昔の国内レースで残した偉業や映画、マンガやアニメでの活躍によって海外にも多くのファンがいる、日産の「R32型スカイラインGT-R」。
このR32スカイラインGT-Rは、日産が1980年代に掲げた「1990年代までに運動性能で世界一になり、技術の日産復活させる」という目標のもと始まった「901活動」とよばれる運動によって開発されたモデルだ。
1980年代当時、欧州車と比較して、日本車は走りの性能が低く、海外にも販路を拡大させていくには、開発技術の向上が必須だとして始まった。
そして、1990年代までに、新車デビューする全車種を対象に、シャシー、エンジン、サスペンションを更新し、ハンドリングや品質向上の技術開発を行うとした。
901活動によって開発されたモデル、そして901活動で日産が得たものと、失ったものについても触れていこう。
■ニュル北コースでポルシェを超えた!! R32型スカイラインGT-R
R32スカイラインGT-R(1989年~1994年/全長4545×全幅1755 ×全高1340 mm)
901活動の代表作といえば、冒頭でも触れた「R32スカイラインGT-R」だ。
日産の走りの理念である「意図しない動きはなく、ドライバーの意のままにクルマが動くこと。
ドライバーへのインフォメーションを増やし、人馬一体感(ファントウドライブ)を得る」を達成するため、車体剛性が徹底的に高められ、フロントサスには短いアッパーアームとサードリンクを用いたダブルウィッシュボーンを採用。
リアには、マルチリンクサスペンションを採用し、さらにはスーパーHICASという後輪操舵機構も進化させた。
901活動には「catch the GTi and 944」という宣言があった。「GTi」はFF界の王者ことフォルクスワーゲンのゴルフ、「944」はFR界のの王者、ポルシェ944ターボのことだ。この2台をパーツ単位まで完全分解し、そこから対策案を考えていったそうだ。
当時「世界一ハンドリングの優れたクルマ」とされていたポルシェ944は、ドイツのニュルブルクリンク北コースを8分40~45秒で走っていた。
R32スカイラインGT-Rもベンチマークのため、走行実験はこのニュルブルクリンク北コースで実施。
GT-Rチームは、開発当初は一周走るごとに足回りを分解し、耐久性をチェックするところから始めたことで、他社メーカーからは、「2週目が走れないクルマ」として、指をさされて笑われたというが、開発後半には、8分24秒という、当時の量産車世界最速タイムをアッサリと超えてみせた。
まさに944を「catch」キャッチしてみせた瞬間だ。その後は、他メーカーのプロドライバー達が、GT-Rのテストカーに道を開け始めたそうだ。
それを見た開発チームは「求めるGT-Rに近づいた!!」と実感できたそう。901の原点にして最高傑作といってよいだろう。
■「ゴルフのハンドリングを超えた」と評されたP10型プリメーラ
P10型プリメーラ(1990年~1995年/全長4400×全幅1695×全高1385 mm)
国内向けだったR32スカイラインGT-Rに対し、901活動において、主に欧州市場投入を目的に開発されたのが「P10型プリメーラ」だ。
フロントマルチリンクサスペンションが採用され、ボディサイズ、スタイリング、動性能、実用性、パッケージングなど、欧州車を強く意識して開発されたプリメーラは、当時「(乗り心地を度外視すれば)欧州車のハンドリングを超えた」とまで評価された。
このP10プリメーラは、欧州市場で好調な販売台数を持続、日本市場でも販売は好調な結果となり、「技術の日産」のイメージを定着させることにも成功した、まさに901活動を象徴するモデルだ。
■「ワイド&ローの新コンセプトをつくったZ32型フェアレディZ
Z32型フェアレディZ(1989年~2000年/全長4310×全幅1790×全高1245 mm)
そして、北米市場向けのスポーツカー「Z32型フェアレディZ」も、901活動で進化したモデルだ。
Z32では、歴代モデルの特徴であったロングノーズ・ショートデッキを改め、「ワイド&ロー」といった新しいデザインコンセプトを採用した。
そして3.0L V6ツインターボのVG30DETT(280PS)と電子制御式4ホイールステア(4WS)のスーパーHICAS(ハイキャス)も搭載された。
豪華にしたぶん、車両価格は上昇したが、Z32はポルシェに対抗できるジャパニーズスポーツカー(しかもはるかに安い)として、従来からの根強いZ Car(米国での呼び方「ヅィーカー」)ファンに支持され、大いにヒットをした。
■901活動は日産エンジニアたちを成長させた一方で…
901運動で誕生したY31セドリック(1987年~1991年/全長4690×全幅1695×全高1400mm)
901活動では、いい商品をつくり、ジャーナリストや日産外のプロドライバーにも認めてもらうことのほか、特許や論文を多く残すなど、開発エンジニアたちが技術の面で自信を取り戻せるような土壌づくりも行われたそう。
これらは筆者が日産に開発エンジニアとして入社する10年以上も前の話だが、当時の現場を知る諸先輩方のエネルギッシュさは、901を通して得た自信からくるものだったのだろう。
901運動で一定の成功を経験した日産だが、90年代後半には売り上げが落ちこみ、再び倒産の危機まで迫ってしまった。
R32以降も、スポーティかつ贅沢なクルマを(採算度外視で)つくり続けるなど、「技術の日産」に日産自身が酔っていたのだろう。この点は901による負の遺産だったのかもしれない。
もうこの901活動のような集中的な活動はできないかもしれないが(当時は残業続きで、毎日午前様だったそうだ)、901で日産が成し遂げた成果は、今後も語り継がれていくことだろう。
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R32スカイラインの前サスは「ダブルウィッシュボーン」ではなくマルチリンクでしょう。