車の最新技術 [2022.12.16 UP]
軽自動車が地球を救う【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●日産
自動運転、AI…モビリティの「今」と最新中古車情報を一挙解説
欧州のエネルギー危機や、中国のロックダウンを受けた原材料不足により、日々混乱の度を深めているカーボンニュートラル対策だが、筆者はこれまでもその解決を全てBEVだけで行うのは不可能だし、もっと多様なアプローチを探るべきという話をしてきた。それがバッテリーの原材料不足と需要の急成長によって、いよいよ現実化してきたとも言える。
長期で見れば、水素や合成燃料など、様々な技術に可能性がある。ただし、そうした次世代技術の中で、現時点で最も完成に近いものがBEVであることも事実である。しかしながら、繰り返してきた通り、最も完成に近いと言いながらも、BEVもまたまだ課題を残す技術であり、主に原材料調達を含むバッテリーの価格、性能、生産、リサイクルあたりにもう一段の進歩が必要だ。
それでもBEVは、使い方をある程度絞れば、現在でも十分実用に耐えるところまで来ている。ただし残念ながら、従来の内燃機関車と全く同一のユーザビリティを求めるのは時期尚早であることもまた事実である。
日産 サクラは用途を近距離移動に絞り込むことで航続距離とバッテリーのバランスをとった
では、古典的なガソリンやディーゼルに対して、カーボンニュートラルを目指しつつ、一切のハンデなしで戦えるシステムはないのかと問われれば、それこそがハイブリッドと軽自動車だと筆者は答える。ただし、これらはご存じの通り、カーボンニュートラルの面では満点が取れない。次善の策であることには留意せねばなるまい。
しかしながら、特に軽自動車は、この先LCA(ライフサイクルアセスメント)の算定方法が徐々に明確化するに連れ、評価は上がっていくはずだ。
LCA基準になるとBEVの絶対優位が消える。ゼロエミッションという立ち位置を失うからだ。生産時の環境負荷が高い走行用バッテリーがある限り、BEVはLCAではゼロエミッションではなくなる。
それはつまり、ハイブリッドや軽自動車は、「ローエミッションであって、ゼロエミッションではない」という文脈で否定することができなくなるということだ。最大の弱点が実質的に消える。そこに一切の瑕疵を持たずに満点を取れるシステムがなくなるからだ。
日産 デイズはサクラと同時に開発され、車体の基本骨格などを共有する
クルマがモビリティである以上、小さく軽い方がエネルギー効率が良いのは自明の理である。しかも、生産過程でも金属も樹脂も使用量が少ない。それは、生産時だけでなくリサイクル時にも圧倒的に効いてくるはずだ。
LCAというトータル効率が見られる世界において、こういう素養を持つ軽自動車に勝つのは極めて難しいことになるだろう。化石燃料時代のことを思い出せば当たり前の話である。小さいクルマは燃費が良い。
ということで、今筆者が心配しているのは、世の中一般に「内燃機関撤廃」を既定路線にして行こうとする動きがあることである。これまで述べてきた通り、軽自動車は、カーボンニュートラルのアプローチとして、極めて有用かつ優秀なシステムであり、これに無理やり電動化を義務付けることが、真の意味で、カーボンニュートラルの促進になるかどうかについては疑義があるのだ。
個人的にはAセグメントとBセグメントには純内燃機関モデルを認めるべきだと思う。商品的に価格の吸収力が低く、電動化は小型化と軽量化にネガティブであることを考えれば、そのクラスに一律に電動化を押し付けるよりも、燃費規制をしっかり課して、むしろ運転パターンによって燃費が大きく変化しやすいターボモデルを廃止にする方が色んな意味でバランスが良いと思うのだ。
図は自工会が作成したCO2削減の実績値である。2001年から2019年までの約20年間でマイナス23%という、世界的に見て類例なく傑出した結果を出している。しかも、これは保有全体の実績値であり、今この瞬間も積み上がっているのだ。この成果を成し遂げたのは明らかに軽を中心としたダウンサイジングと、ハイブリッドの爆発的普及である。それは効果が実証されているのである。
軽自動車の中でも、特にスズキのアルトや、ダイハツのミラは、徹底して小さく軽い。世界的に見ればAセグメントに近い。庶民の移動の道具として、最も廉価なモビリティである。もちろん超小型モビリティや、中国の新興メーカーのAセグの存在はあるのだが、富める者にも貧しき者にも、等しく安全性を備えるべしという考え方に沿えば、アルトやミラなどのアンチロックブレーキや6エアバッグを備えて90万円前後の製品は際立って見える。むしろ日本の軽自動車の歴史は、小さく軽く安い庶民のアシに一定の安全性を持たせるためのバランスをずっと探ってきた歴史でもある。
豊かな先進国の富裕層は、BEVに積極的に投資しながら、よりBEVの完成度を高めていくことに貢献すべきだと思うが、一方で途上国の人々や、先進国の貧しい人々のモビリティを維持しつつ、カーボンニュートラルを推進して行こうとすれば、日本が築き上げてきた軽自動車のテクノロジーは極めて大きな意味を持つはずであり、世界を救う技術として重要な役割を持つはずなのだ。
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そして軽自動車を持つ日本のメーカーならAセグメントにも応用が効くだろう。