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存在自体がやっぱり奇跡──新型トヨタGRスープラ試乗記

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存在自体がやっぱり奇跡──新型トヨタGRスープラ試乗記

一部改良を受けたトヨタの「GRスープラ」に今尾直樹が試乗した!

スパルタンな味わい

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トヨタGRスープラのRZの最新モデルに試乗した。この春に発表された一部改良が施された広報車が用意されたからで、改良の中身については後述する。いちばんの目玉はRZ、すなわち6気筒モデルに待望の6速マニュアル・トランスミッションが新設定されたことだけれど、あいにくご紹介するのは8速オートマチック仕様である。

走りはじめて一驚したのは乗り心地の硬さだった。あら、こんなに硬かったんだ。と、思った。タイヤを見れば、硬いはずだよ。前255/35ZR19、後275/35ZR19という前後異型の極太超扁平を装着している。35は薄くて硬い。

驚きの要因のひとつは、筆者にとってGRスープラで公道を走るのは今回が初めてだったのもある。これまで、袖ヶ浦フォレストレースウェイでプロトタイプにちょこっと乗っただけなのだ、じつは。

さらに試乗コースが内房の館山自動車道で、この高速道路、路面が荒れているわけではないけれど、洗濯板みたいに波打った箇所がある。もちろん、波打つ間隔は洗濯板よりははるかに広いけれど、ようするに高速巡航中、路面に段差があるとリアが若干跳ねるのだ

どんっ。という軽いショックを感じながら後輪が一瞬ジャンプし、着地して大地を蹴り出す感覚は、リアのサスペンションがリジッドの古典的な後輪駆動スポーツカーのようでもあり、スパルタンな味わいがある。

考えてみたら、いまどき生粋の直6ガソリンのターボ・エンジンを搭載する後輪駆動の2座スポーツ・クーペなんて絶滅危惧種であり、そもそもBMWのプラットフォームを持つトヨタ・スープラが存在していること自体、奇跡である。話はちょっと変わりますけど。

仮に私が1990年代にタイムスリップして、その頃の私に、「2019年にBMWベースのスープラがあらわれるぞ」と、告げたとする。疑い深い私が信じるだろうか。告げるひとが私だということもある。いい加減なことをいっているに決まっている。

しかし、これは現実なのである。100年に一度の大転換期ではなにが起きるか予想がつかない。

閑話休題。そういう絶滅危惧種がスパルタンな古典的スポーツカーに仕立てられている。そう考えると、痛快なことのように思えてきた。あるいは、悍馬を駆るというのは、こういう感覚かもしれない。そんな想像をめぐらせる。

ガソリン・エンジンはやっぱりよい。

長いフロント・ノーズにおさまるバイエルン製の6気筒、B58B30B型エンジンはボア×ストローク=82.0×94.6mmのロング・ストローク型で排気量2997cc。ダイレクト・インジェクションに可変バルブ機構を備え、ターボチャージャーの助けを借りて、最高出力387ps/5800rpmと最大トルク500Nm /1800~5000rpmを発揮する。プラットフォームを共有するBMW「Z4 M40i」ほか、名前に“M40i”とつくBMWの高性能モデルと共通のユニットである。

スープラRZの場合、100km/h巡航は8速トップで1500rpm程度に過ぎず、室内はいたって静か。ところが、センターコンソールのATセレクターのすぐ後ろにあるSPORTと書かれた長方形のスイッチを押すと、いわゆるドライブ・モードがノーマルからスポーツに切り替わり、8速ATは自動的にダウンシフト、B58B30B型6気筒の回転が2800rpmあたりに跳ね上がる。

液晶スクリーンに浮かび出ているタコメーターはイエローゾーンが6500rpmから、レッドゾーンは7000rpmから始まっており、法さえ許せば、そこを目指してスロットルを開けていくと、4000rpmを超えたあたりから排気音を含むエンジン音が俄然太くて大きいものに変化し、快音を発しながら回転をさらに積み上げていく……はずである。

ああ。ガソリン・エンジンはやっぱりよい。それも、完全バランスのストレート6は。

スポーツにすると乗り心地は俄然硬くもなり、スパルタンなスポーツカー気分はますます盛り上がる。と、思いきや、路面がいいところでは滑らかな乗り心地を披露して、おや? と、考えをあらためる。

リアが跳ねるのは路面と速度にもよるのだ。少なくともスムーズな路面だと、最新のGRスープラRZはリファインされた、クールなスポーツ・クーペという別の顔を見せる。よき路面に恵まれた都市内で、ノーマル・モードにしていれば、むしろこっちの顔に終始する。洗練されたこの乗り心地には、ミシュラン・パイロット・スーパー・スポーツも貢献していることだろう。

一般道に降りて、いつものワインディング・ロードに向かう。そこにいくまでのカントリー・ロードは一部、路面が荒れている。ところが、ここでも高速で感じたようなハーシュネスは、たとえスポーツ・モードにしていてもよく抑えられている。一般道レベルの速度だと、あるいは路面の荒れ方にもよるのか、リアの左右輪が同時に段差を越えるような状況でなければ、乗り心地の硬さはさほど気にならない。ストローク感はあまりないけれど、よく鍛えられた筋肉の如くにサスペンションが動き、強固なボディ剛性がこれを支える。試乗開始から30分。クルマの動きと自分の感覚がシンクロしてきたのもある。

ワインディングで楽しいのは、なんといっても6発の奏でるサウンドである。ドライブ・モードをスポーツにしていると、ブレーキングで自動的にブリッピングしながらダウンシフトし、レーシング・カーを思わせるバックファイアのような爆裂音を発したりもする。

低重心で、前後重量配分50:50、ホイールベースとトレッドの黄金比であるとか、もちろんサスペンションだとかステアリングのギア比だとか、これらこだわりの要素の総合によって、ロング・ノーズを感じさせることなく鼻先がスムーズにコーナーに入っていく。このときドライバーとGRスープラは一体化し、私はスープラになる。

頭のなかが空っぽになり、ことばが浮かんでこない。その一方、エンジンの咆哮を楽しみつつも、スープラの動きを一所懸命観察しようとしている私もいる。その私は、なんにもことばが浮かんでこない。と、嘆いている。ことばが出てこなかったのは、きっと私がスープラになっていたからなのだ……。

改良ポイント

2019年5月、17年ぶりに復活したGRスープラは、トヨタとBMWとの共同開発によって生まれたプロダクトの第1弾である。前にも書いたけれど、プラットフォームはZ4と共有しており、2470mmのホイールベースと、前1595/後1590mmのトレッドはまったく同一だ。ちなみにホイールベース・トレッド比は1.55。

ちなみに、「ファン・トゥ・ドライブを定義する」を、テーマに掲げたフェラーリ「296GTB」のホイールベース・トレッド比は1.56、ホンダ「NSXタイプS」は1.58となる。フロント・エンジンとリア・ミドシップという違いはあれど、開発責任者をつとめた多田哲哉氏が主張するスポーツカーの黄金比、1.6近辺に近い数値に最新のスポーツカーもおさまっている。

生産はオーストリアにあるマグナ・シュタイヤーのグラーツ工場で、海路はるばる日本まで運ばれる。4月に一部改良の概要が発表された時点で、商談受付は夏頃から、納車は秋頃から、とされていたのは物理的な距離があるためもある。

で、肝心の一部改良の中身はというと、スポーツカーらしく、「ステアリング、足まわりの改良によるハンドリング性能、乗り心地性の向上(全グレード共通)」ということをトヨタのプレスリリースは最初にあげている。

もうちょっと具体的には、以下、リリースのコピペです。

・AVS(Adaptive Variable Suspension:いわゆる可変ダンパー)の制御、アブソーバーの減衰特性チューニングにより、ロールバランス、乗り心地性を向上

・スタビライザーブッシュの特性変更により、操舵初期の応答性を向上

・シャシー制御系(AVS、EPS、VSC)の見直しにより、操舵フィーリング、限界域でのコントロール性を向上

出典:スープラ、一部改良の概要(2022年4月28日)

ホントにコピペしてしまいました。ペコリ。なお、EPSとはElectric Power Steering、電動パワステ、VSCとはVehicle Stability Control、横滑り抑制機能を指す。

このほか、RZのみ、新デザインの19インチ鍛造ホイールを採用している。試乗車が履いていたのがそれで、1本あたり1.2kgの軽量化を実現しているというから乗り心地に貢献してもいる。

外観ではボディ色に新色が3種類加わり、内装ではRZ限定でタンがオプションで選べるようになった。装備面では「JBLプレミアムサウンドシステム」のチューニングによって音質を向上させているという。

“擬古典主義”

このような細かいあれやこれやの改良ポイントからわかるのは、デビューから丸3年を経たいまも、GRスープラは地道な開発が続けられているということだ。スポーツカーとは感覚の乗り物なのだからして、そのフィーリングを磨くというのはとても大切である。

感性の話だから、まことにマニアックな世界である。好き者同士が、あーでもない、こーでもない、と楽しく語り合う場がなければ、スポーツカーの開発なんてできない。と、筆者は想像する。

同時にオシャレのための乗り物、流行商品でもあるから、新色だの限定色だの限定仕様だの特別仕様だの、と話題を提供し続けることもまた、おなじくらいたいせつなわけである。

正直に申しあげると、筆者はBMWのプラットフォームにトヨタのバッヂをつけたGRスープラにいかほどの価値があるのか、と、思っていた。スポーツカーというのは、そのメーカーのプライドをかけたシンボルである。そのシンボルが他社のエンジンとプラットフォームでできている。なんてことでは、いくら開発はトヨタによるものだ、と、主張したところで、ふ~ん。それで? ということになりはしないか。

しかし、である。現にGRスープラというのは存在しており、ファンは日本にもいらっしゃるし、アメリカにはもっといらっしゃる。

最新のGRスープラは、運転すれば、ドライバーとますます精緻な一体感を感じさせ、真横から見るとトヨタ「2000GT」みたいなルックスで、フロントのナンバー・プレートの位置はもうちょっと下げたほうが特徴的なF1ノーズがもっとよくわかるのに……とは思うけれど、擬古典主義とでも呼びたくなるカッコよさを持っている。それのどこがいけないのか?

GRスープラは、スバルと共同開発した86と同様、21世紀初頭にトヨタが実現した新しい運動の所産であり、こんなとんでもない奇跡が起こせたのは、もちろん、トヨタの現社長が創業家出身のカーガイだからである。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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