経営権はシトロエンからデ・トマソへ
マセラティ・シャマルは、至ってハンサム。しかしインターネット上には、悩めるオーナーの体験談が少なくない。果たして、中身の伴わない伊達男だったのだろうか。
【画像】マセラティ・シャマル ベースとなったビトゥルボ 最新スーパーカーMC20も 全57枚
シャマルのベースになったのは、1981年に発表されたマセラティ・ビトゥルボへさかのぼる。ショッピングカートのように、手に負えないコーナリング特性を持つといわれた、2ドアクーペだ。
その先代より、ホイールベースが短い。AUTOCARの読者ならご存知かと思うが、一般的にホイールベースは長い方が安定性は増す。さらにツインターボで加給される、V型8気筒エンジンをフロントに搭載している。
その動的能力に、必ずしもポジティブな評価が与えられることはなかった。耐久性でも。
では、2022年に乗るシャマルはどうだろう。現代基準でも充分に速い、洗練されたグランドツアラーであることが見えてくる。
重箱の隅は突かない方が良い。ネガティブな個性が現れるのは限られた条件でのみ。さほど恐れる必要はない。筆者には、過小評価なクラシックカーに思える。その理由も、わからなくはないけれど。
1980年代から1990年代にかけてのマセラティは、苦難の時代にあった。シャマルも、そんな時代に生まれた。その中心にあったのが、デ・トマソ社だ。
時間を1970年代まで巻き戻すと、モデナに創業した歴史あるブランドは長く混迷していた。シトロエンからマセラティの経営を引き継いだイタリアの持株会社、GEPI社は、事態を打開すべく、1975年8月にアレッサンドロ・デ・トマソ氏と提携を結んだ。
多売のモデルが目指されたビトゥルボ
他者の資金で、悩める企業を買収するというビジネス・スタイルに長けていたアルゼンチン生まれのアレッサンドロは、イタリア政府の支援でマセラティの株式の11.25%を取得。経営権を握ることになった。
彼がマセラティのために事前に支払った金額は、当時で64ポンドに過ぎなかったという。既に、労働力の半分が失われていたが。
マセラティの完全な所有権も保証されていたアレッサンドロは、ブランド再建に取り組んだ。そこで誕生したのが、上級4ドアサルーンのクアトロポルテIIIと、2ドアクーペのキャラミだった。
といっても、クアトロポルテIIIはデ・トマソ・ドーヴィル、キャラミはロンシャンの兄弟モデルといえる内容。販売は伸びず、多売なエントリー・モデルが必要だと判断された。
そこで設計されたのが、新しい2ドアクーペだ。モノコック構造は、デ・トマソ社のイタリア・イノセンティ工場で製造。オールアルミ製のV6ツインターボ・エンジンとランニングギアは、モデナのマセラティ工場で作られた。
完成したシャシーとドライブトレインは、ミラノ郊外のランブレッタ工場で結合。ビトゥルボという名前で、1981年に発表された。生産は1982年12月に始まっている。
複数のモデル展開を望んだアレッサンドロへ応えるように、4ドアサルーンも1983年に追加。ホイールベースが伸ばされ、425というモデル名が与えられた。カロッツエリアのザガート社が製造を請け負った、スパイダーも発売された。
ブランドを象徴する後光が輝くモデル
デ・トマソ時代を飾ったビトゥルボは、決して悪いクルマではなかった。だが、素晴らしいクルマでもなかった。
足を引っ張ったのが、アレッサンドロが進めた無秩序ともいえるグレード展開。1980年代には、3種類のエンジンと5種類のボディスタイルが市場へ投入され、50種もの組み合わせが選択可能になっていた。
BMW 3シリーズのライバルとして想定されていたビトゥルボ。しかし多種展開がコスト増を招き、価格へと反映していた。
製造品質や操縦性の向上も、モデルライフの途中で施されている。だが、基本的なパッケージングは不変。値段の張るオプションが追加されても、販売の上方修正には結びつかなかった。
ビトゥルボのスタイリングを担当したのは、マセラティのデザイナー、ピエランジェロ・アンドレアーニ氏。1987年から1989年式にかけては、巨匠、マルチェロ・ガンディーニ氏がフェイスリフトを施した。
それでもビトゥルボの販売は好転せず、新モデルの必要性に迫られた。ブランドを象徴するような機能を持ち、ポジティブな後光が輝くモデルを。既にビトゥルボは発売から数年が経過し、出来得る限りのことは尽くしていた。
マセラティの経営も、安定していなかった。そんななかでシャマルというアイデアは、現実への道を歩み始めた。デザインを任されたのは、再びガンディーニ。マーケティング的には、強く後押しする名前といえた。
330psを発揮するV8ツインターボ
ハンサムなボディの内側にあったのは、基本的にはビトゥルボのアーキテクチャ。1988年にそれと並行して投入された、ショート・ホイールベース版のクーペ、カリフとの共用が求められた。
同時期には、アルファ・ロメオSZなど型破りなエキゾチックも登場していたが、結果的に与えられたスタイリングは、ガンディーニとしては控え目。リアのホイールアーチが、彼のランボルギーニ・カウンタックのように傾斜している程度だ。
美しくエレガントではある。だがそれが、パフォーマンスへの議論を過度に高めてしまったと思う。
エンジンは、3127ccのV型8気筒。先代のV型6気筒をベースにクワッドカム化し、日本のIHI社製ターボを2基載せ、ブースト圧を均一化させる制御システムが与えられた。
圧縮された空気は、ラジエター前方の2基のインタークーラーで冷却。ECU制御の点火システムと、ウェーバー・マレリ社製の燃料インジェクションも採用している。その結果、最高出力330ps/6600rpmを達成。最大トルクは44.4kg-m/2800rpmを誇った。
トランスミッションは6速マニュアル。クワイフ社製のLSDを介して、リアタイヤを駆動した。
サスペンションは、フロントがマックファーソンストラット式。ラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリングと併せて、後期型ビトゥルボからの派生版となる。そのかわり、リアのトレーリングアーム式サスは新設計だ。
ホイールは、7スポークのOZ社製を登用。インテリアでは、ダッシュボードがビトゥルボの流用だったものの、シートはシャマルのために新調された。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
1995年頃のギブリ高速で走っても素晴らしい忘れられない、
普通の911より早いルームランプ落ちてきたリするけど
シャマル330馬力ギブリ280馬力ぐらいと思いますがバランスはギブリですね。