この記事をまとめると
■ロータリーエンジンを搭載したマツダMX-30ロータリーEVに中谷明彦さんが試乗した
なんで待望のロータリー復活にMX-30が選ばれた? 売れ筋モデルに搭載しなかった理由とは
■電動モーターの駆動制御は極めてジェントルで扱いやすく調教されている
■今後はロータリーエンジンをハイブリッドの一部としたスポーティなモデルの登場に期待したい
復活したマツダのロータリー搭載モデルに乗った!
観音開きドアが特徴のMX-30にPHEV仕様が追加された。 当初、スカイアクティブXのエンジンを搭載し、2021年にはBEV(バッテリー電気自動車)モデルを登場させていたMX-30だが、今回はロータリーエンジンと組み合わせたPHEV仕様とすることで、 ロータリーエンジン復活! と大きな話題を引っ提げての登場となった。
「MX」のネーミングは、主に新しいクルマの形を提案するようなモデルにつけられるネーミングであり、そういう意味でMX-30はこれまでもスカイアクティブXやBEVなど未来志向のパワーユニットの搭載をするなどして、個性を際立たせていたとも言える。
そして、今回はPHEVシステムに組み合わされるロータリーエンジンが大きな話題となっているわけだ。ロータリーエンジンは、RX-8に搭載されたのを最後に、市販モデルからは姿を消していた。ただ、マツダの社内において、ロータリーエンジンの研究は絶えることなく進められていて、今回のPHEVに搭載されたエンジンにも、ロータリーエンジンに対する新技術や新しい試みが取り入れられている。
エンジンに注目してみると、 従来のロータリーエンジンは2ローターのモデルが多かったのだが、今回はシングルローターという、これまでの生産モデルにはないレイアウトを取っている。模型エンジンなどではシングルローターのロータリーエンジンも存在するが、普通自動車に採用されるものとしてはおそらく初めてと言えるだろう。
マツダが1991年にル・マン24時間レースで総合優勝を果たしたマツダ787Bは4ローターのエンジンを搭載しており、 このようにロータリーエンジンはワンローターから4ローター、あるいは6ローターといったような組み合わせが行えるのも特徴といえるだろう。
今回搭載されているロータリーエンジンは、吸排気にサイドポートのレイアウトを取り、またロータリーエンジンとして初めて直噴の燃料噴射装置を組み合わせて登場させられている。
筆者はずいぶん前にマツダにロータリーの直噴化を問い合わせたことがあるが、実際にこうして形として現れると、その可能性を信じたものとしてうれしい気分にも思える。
このシングルローター直噴エンジンの排気量は830ccだ。ロータリーエンジンは1回転するごとに1回の燃焼爆発工程を起こすので4サイクエンジンで考えれば1600cc並みのパワーが引き出せるということになる。直噴化にあたっては、ガソリンエンジンなどで開発されたインジェクターを改良し、またローターの燃焼面に特殊なくぼみ加工を施すなどスカイアクティブエンジンで研究した燃焼のさまざまなデータが生かされているのがわかる。
アペックスシールやローターハウジングなど専門技術の必要な部分は、かつてと同じサプライヤーから供給され、また生産技術も絶えることなく継続されていたことがうかがえるのだ。ローター、ローターハウジングや前後のパネルはアルミのキャストで構成され、エンジン自体の重量は70kg程度に抑えられているという。このエンジンに直結するようにジェネレーターモーターが同軸上に配置され、MX-30の駆動用モーターと並列にレイアウトされている。
MX-30のBEVモデルは2021年に登場しているが、そのときは エンジンフードを開けると向かって左側に駆動モーターやコンバーターなどが集約されてレイアウトされ、 エンジンルーム右側の部分は、ほぼ空洞のスカスカな状態で地面が見えてしまうほどだった。
そのときに、おそらくこれは何らかのレンジエクスタンテンダーとなるようなパワーユニットが搭載されるだろうと予測はしていたが、それがまさに今回、 ロータリーエンジンと組み合わせたジェネレーターモーターがすっぽりと収まって、PHEVとして成立させられたと言える。
ボンネットフードを開けると、スカイアクティブR(ロータリー)というエンブレムが誇らしげに表示されているが、実際にロータリーエンジンのハウジングを直接見ることはなかなか難しい。電動モーター自体もコンバーターの下に隠れていて、おそらく一般の人にはどれが何の役目を果たすものか判別がつかないだろう。
また、一般的にエンジフードを開けることも頻度として少ないはずである。このロータリーエンジンはクーラントによる水冷だが、 駆動用モーターは専用のオイルによる油冷式が採用されている。また、これらのユニットで前輪のみを駆動するFFモデルとして登場させられているのだ。
駆動用バッテリーは17.8kWで、これはMX-30 EV(BEV)のバッテリーユニットを半分に分割して流用しているという。残りのスペースは、リヤアクスル上、リヤシート下に50リッターの燃料タンクが収められ、これらにより、EVモードの後続距離はWLTCモードでおよそ107km。ガソリン駆動のロータリーエンジンをまわして発電しながらの航続距離は770kmほどとなり、トータルで900kmに迫る。
その実力からすれば、いわゆるレンジエクステンダーというよりも、完全なPHEVとして、 三菱のアウトランダーやトヨタのRAV4などと肩を並べる航続距離になっていると言えるだろう。
MX-30の基本的なパッケージや装備の構成は変わっておらず、PHEVにはBEV仕様で採用されていたCHAdeMO(チャデモ)対応の急速充電器と200Vの普通充電機能を備えている。そういう意味でも外観的な目新しさはない。
今後のロータリーエンジンの動向に注目
早速、クルマに乗り込みスタート&ストップボタンを押し、システムを起動してみる。
バッテリーがチャージしていればエンジンが直ちに始動することはなく、必要条件が揃わないとロータリーエンジンのサウンドを聴くことはできない。ちなみにメンテナンスモードでエンジンを始動させれば、停止状態でもエンジンをかけられるが、エンジンフードを開けて聞こえるエンジン音は、 かつてのロータリーエンジンのような個性的なものではなく、ややメカニカルノイズを伴う音質であった。これはシングルローターで1回転あたり1度の爆発による音なので、いわゆる個性的なハーモニカのようなロータリーサウンドとはなっていないようだ。
試乗車はバッテリーが十分に充電されているので、そのまま走り出す。基本的にはシリーズハイブリッドとなっているので、ロータリーエンジンの駆動力が直接車輪に伝わることはない。エンジンと車軸は完全に切り離されていて、ロータリーエンジンが稼働するのはジェネレーターモーターをまわすときだけに限られる。また、ジェネレーターモーターを利用してエンジンを始動させることができるので、一般的なセルモーターは持たず、 エンジンの始動は極めて静かにドライバーが気づかないうちに行われている。
電動モーターの駆動制御は極めてジェントルで、FF前輪駆動ということもあり扱いやすい特性にうまく調教されている。モーター自体はBEVのMX-30 EVとは異なる仕様であるようで、パワースペックは最高出力170馬力/9000rpm、最大トル260Nmは0-4481rpmで引き出されるようになっている。
一方で、ロータリーエンジンの最高出力は72馬力/4500rpm、最大トルクは112Nm/4500rpmで始動要求に応じ2300回転から始動し、4500回転までの回転を行き来して稼働していて、それ以上まわることはない。 かつて7000回転までストレスなくまわったロータリーエンジンとは一線を画す仕様となっているのだ。スポーツカー用のエンジンとしてのポジションから、今回は発電機を回すことに特化した中低速のみでまわる効率的なエンジンとして生まれ変わっているのである。
MX-30 EVのパワートレインレイアウトでは、 エンジンルームの左右重量バランスが悪く、タイヤの接地荷重が左右でアンバランスだったためトルクステアなどが感じられたが、今回ロータリーエンジンとジェネレーターユニットが組み込まれたことで、左右ウエイトバランスが向上している。
また、車両重量としては駆動バッテリーが半分になったものの、燃料タンクの追加や排気管などの取りまわしなどでトータルでは130kgほどの重量増となっているようだが、 それによって動力性能が大幅に劣るようなことはもちろんない。
一般道、市街地、それから高速道路の流入などで駆動用モーターが引き出す力は必要十分以上にあり、パワー不足を感じることはもちろんない。
ドライブモードはEVモード、ノーマルモード、チャージモードは100%から 10%刻みでSOC(充電率)を設定することができる。たとえば、バッテリーを50%ほど使用したあとにチャージモードでSOC70%に設定すれば、バッテリー充電量が70%になるまでロータリーエンジンが稼働し、充電されるということになる。
一方、ノーマルモードではハイブリッドモードとして、効率の良い制御が行われるわけだが、基本的にはSOCでバッテリー残量を45%にプレ設定されていて、その前後で電気を使い、また充電するという動作を繰り返してハイブリッド走行をすることになる
EVモードでは約100kmまで走行することができ、 バッテリーが完全に放電された状態になると、表示はEVモードのままだが、レンジエクステンダーとしてエンジンが稼働し、その発電力によって駆動用モーターが稼動させられるという仕組みだ。
MX-30PHEVはV2HやV2Lにも対応しており、V2Lでは1500Wまでの電源コンセントとして機能させることができる。V2Hでは、満充電時であれば一般家庭でおよそ1日分の電力を供給することができ、ロータリーエンジンの発電機能を使い、50リッターのタンク容量でガソリン満タンの場合、約9日間の一般家庭への給電が可能となる。こうした機能は災害時など緊急の予備電源車としても大いに役に立ことで、徐々にその重要さが注目されているのである。
また、こうした機能を持つことで国や自治体の補助金なども得られ、非常に購入しやすい 環境設定がなされてきている。
乗り味や走り心地に関して言うと、やや路面変化に対してロードノイズが大きく感じる部分がある。
観音開きドアは側突対応するためドア自体が非常に重く、またその重いドアを取り付けるためヒンジ類や車体側も強化され、重さを感じさせられるのだ。遮音材などはなるべく省略化され、コストダウンと軽量化が図られているとも言える。
ロードノイズに対しては、かなり耳障りな状況が多々感じられた。観音開きドアの利便性については非常に有益だと考えているが、ただ、後席から降りようとした際には、前席ドアを後席乗員が自分で開けなければならない。本来であれば後席寄りの部分にドアオープンのハンドルをもうひとつ追加で設けるべきだが、それが実現されていないので、 後席からの降車時に苦労させられてしまうのは相変わらずである。
ロータリーエンジンのサウンドは充電モードでしか聞くことができず、またアクセル全開の加速を試みるとエンジンも稼働して最大出力を維持しようとするが、 そのときのサウンドはなかなか官能的で、心の琴線に触れるものであったが、通常のEVモードで聞こえるエンジン音は、音質や音色に対しての作り込みがなされているとは言えないものだった。
車外にいてもロータリーエンジンの音はほぼ聞こえず、エンジン音が気になるような場面はないのだが、逆に言うとロータリーエンジン復活を喜ぶユーザーにとっては物足りなく残念に感じるところだろう。
今後はロータリーエンジンを発電用としてだけでなく、ハイブリッドの一部としてフロントに2~3ローターと駆動用モーターを直結して縦置きし、後輪駆動とするようなスポーティモデルへの進化を期待したいとこだ。日本モビリティショーに参考出品展示されていたマツダの新型コンセプトカー「アイコニックSP」のような組み合わせも可能となることを考えずにはいられなかった。
いずれにしても、ロータリーエンジンの長年の実績と技術、エンジニアリングを絶やすことなく今後も継続させていく取り組みはマツダにしかできないので、ぜひともこのMX-30PHEVを、またロータリーエンジンを大切に育てていってもらいたいと思っている。
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スカイXは3とCX-30に搭載です。
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