「5ナンバーサイズミニバン」という人気ジャンルで、ガチンコライバルの関係にある、トヨタ「シエンタ」とホンダ「フリード」。長年にわたって、一進一退を繰り返す熾烈な販売競争を繰り広げている両モデルだが、現在は、2022年8月に3代目へとフルモデルチェンジした、シエンタの販売が好調で、直近の2022年11月のデータを見てみると、フリード5,118台に対してシエンタは10,167台と約2倍の差がついている。
フリードはモデル末期(今年モデルチェンジが予想されている)であるし、依然として半導体をはじめとした部品供給不足の影響が続く現在は、単純に販売台数を比較することはフェアではない。ただ、シエンタが新型となったいま、次期型フリードに求められることは、見えてくるはず。次期型フリードに必要なことを考えてみよう。
次期フリード今年登場!! 最強王者シエンタを倒すために必要なのは…「お得感」と「??」
文:立花義人、エムスリープロダクション
写真:TOYOTA、HONDA、ベストカー編集部
「モビリオ」時代から安定した人気のフリード
ホンダ「フリード」は、2001年に登場した、「モビリオ」の後継モデルだ。コンパクトミニバンとして初めて3列シート7人乗りを実現したモビリオは、5ナンバーサイズながら高い室内高や多彩なシートアレンジ、両側スライドドアなど、ミドルクラスミニバンと同等の使い勝手を実現、人気車種となった。
その後2008年にフリードが登場。直線的で広いガラスエリアが特徴のモビリオから一転、走りの良さを表現したスタイリッシュなデザインとなった。シャープでワイドな形状のヘッドライトが精悍な表情を演出し、男性にも受け入れられやすいエクステリアだ。現行型のフリードは2016年にモデルチェンジした3代目。基本的にはキープコンセプトながら、高剛性プラットフォームや新しいメカニズムのパワートレインを採用するなど熟成を遂げ、ファミリー層を中心に安定した人気を得ている。
今年の秋でデビューから7年を迎えること、そして現在の半導体不足による生産体制の混乱を考慮すると、前述の販売台数はむしろ健闘しているともいえるのだが、新型シエンタの勢いを見ると、次期型フリードの開発もなかなかハードルが高いだろうと推察される。
2001年登場のモビリオ(画像はマイナーチェンジ版)。5ナンバーサイズながらロングホイールベースと高い室内高、両側スライドドアでファミリーカーとして高い使い勝手を実現した
2代目の奇抜なデザインが功を奏した、シエンタ
一方のシエンタは、初代モデルは2003年に登場。デザインは丸型ヘッドライトで優しい表情、プレーンなパネル構成というシンプルなデザインで、モビリオに比べると個性は薄い印象だった。2011年のマイナーチェンジ時にはアグレッシブなヘッドライトとエアロパーツが装着された「DICE」も追加されたが、その頃にはフリードが登場していたため、それほどのインパクトはなかった。
ところが、2代目シエンタでは、「トレッキングシューズ」をイメージしたというスポーティで躍動感のあるデザインや、「エアーイエロー」など鮮烈なボディカラーにブルーメタリックのアクセントを入れた個性的なコーディネート、「一筆書き」をモチーフにしたグラフィック効果など、非常にインパクトのあるエクステリアに。これによって、単に多人数乗車を求める層だけでなく、アウトドアレジャーを好む独身の若者や、スライドドアでコンパクトなモデルが欲しいシニア世代などからも支持されるようになった。
その後、2022年8月に3代目となる現行シエンタが登場。2代目のテイストを上手く残しながら、おしゃれなフランス車のようなテイストも取り込んだ。ボディサイドの大きなサイドプロテクションモールや縦型のリアコンビネーションランプ、ベルトラインを水平にした大きなキャビンスペースなど、機能と個性が上手に両立しているデザインだ。
2015年登場の2代目シエンタ。斬新なデザインに個性的なカラーコーディネートも可能。熟成のトヨタハイブリッドシステムももちろん用意
次期フリードに求められるのは、低いフロア地上高と個性あるデザイン、そして「お得感」
では、新型シエンタの好調からみえる、次期型フリードに必要なことを考えてみよう。シエンタで好評の装備(仕様)のひとつが、「330mmの極めて低いフロア地上高」(先代モデルから継承)だ。現行型フリードも390mmと、こちらも決して高くはない(一般的なミニバンレベルと同等)のだが、この60mmの差は、高齢者や小さな子供にとっては意外と大きな差。せっかく5ナンバーサイズのミニバンなのだから、このあたりはシエンタと同レベルにまで持っていきたいところだ。
つぎに考えられるのは、やはりデザインだろう。現行型フリードはスタイリッシュではあるものの、シエンタのような個性は感じられない。もちろんあまりにも個性的だと好き嫌いが分かれてしまうし、ユーザーの選択肢を狭めてしまうことにもなりかねないのだが、無難すぎても全く所有欲が満たされない。このあたり新型シエンタは非常にバランスが良いと思う。
ホンダでいえば、現行型フィットのデザインに不満の声が多く挙がっている。カッコいい系から、目がぱっちりとしたカワイイ系へと変更したことが裏目に出たとされているが、現行フリードは、どちらかというとカッコいい系であり、フィットの流れを汲むと、カワイイ系へ変更となる可能性が高い。次期型フリードは、このあたりしっかりユーザーの声を聞きながら、デザインを仕上げて欲しいと思う。
そしてもうひとつは、「高い質感を実現することによるお得感」だ。これはデザインとも関係があることなのだが、コンパクトSUVのヴェゼルがモデルチェンジした際、前評判では「ダサい」と不評だったものの、フタを開けてみると「実車を見るとカッコいい」と概ね好評であった。これは、車格以上に感じられた内外装の質感の高さも手伝っているのだと思うが、細かな造りの良さが「お得感」を生み出すため、このクラスのミニバンには特に求められる要素なのだと思う。
現行フリードのインテリアも、車両価格の割には質感が高いと評判であるため、この辺りは現行フリードを超える質感を目指すのが王道だろう。次期型フリードでは、こうした要素を妥協せずに織り込み、絶対的な価格ではトヨタに敵わないとしても、いかに「お得感」や「プラスアルファの価値」を出していけるかが、勝負どころになるのではないだろうか。
2023年にはフルモデルチェンジが予想されているフリード(画像はベストカーによる予想CG)。一体どんな進化を遂げてくれるのだろうか
◆ ◆ ◆
コンパクトミニバンの市場自体はかなり熟成されたものであるため、「画期的な装備」やあっと驚くようなメカニズムでもなければ、基本的な市場規模に大きな変化はないだろう。次期フリードがしっかり造りこんで、さらに魅力の高いモデルをリリースし、シエンタと販売合戦を繰り広げてくれることを期待したい。
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みんなのコメント
モデル末期でハイブリッドシステムもクセのあるi-DCD、見た目も特に華があるわけではないフリードがいまだにシエンタと人気を二分しているのは、フリードがシエンタにない良さを持っているからでしょう。
プラス2のトールハッチであるシエンタとマイクロミニバンのフリードは、似ている様で方向性は違うしそれが良い具合にお互いの足りない部分を補完している。あまりシエンタを意識し過ぎてもキャラがブレて魅力が薄れるだけだと思うな。