上質であること、満足できることなどといった「ラグジュアリー」の価値観を比較するのは、実は簡単ではない。とはいえ、多くの人々を納得させられることのできる表現があるということも、また事実だろう。SクラスとVクラスの上級グレードモデルを通じて、メルセデスベンツらしいラグジュアリーの捉え方を体感してみた。(Motor Magazine 2022年8月号より)
余裕あるクラスだからこそ、格段のコンフォートを実現
メルセデスEQの名で展開しているメルセデス・ベンツの電動化モデル・・・とりわけBEVへのシフトは、予想を超える速さで進んでいる。EQC、EQAに続いてEQBも発売間近となっているし、年内にはEQS、EQEというラグジュアリーサルーンも日本へ上陸予定だ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
まだ市場が追いついているとは言い難い部分もあるが、その勢いは止まらない。
また市場を見れば、近年のメルセデス・ベンツにおいてはコンパクトモデルの比率が上昇中だ。Aクラスは順調だし、GLBなどは飛ぶように売れている。CLAはクーペもシューティングブレークも本当にポピュラーな存在になった。もちろんBクラス、GLAも忘れてはいけない。ともあれ、1997年のAクラス導入から始まったこの流れ、いよいよ花開いたというところだろう。
そんなメルセデス・ベンツの近況からすれば、今回用意した2台は「じゃない方」のモデルとなるかもしれない。
1台は、昨年発売された新型Sクラスに遅ればせながらようやく追加されたV型8気筒エンジン搭載モデルである「S580 4マティック ロング」。そしてもう1台が、ここに来て再び注目度を高めているVクラスの受注生産車として用意される「V220dエクスクルーシブロング プラチナスイート」である。
登場時には賛否が分かれた新型Sクラスの大胆なスタイリング、今やすっかり受け入れられたと言っていいのではないだろうか。もはや先代が古く見えるとまでは言わないが、結局のところ美しいものは必ず認められるということだろう。ラインやエッジを削ぎ落とし、移ろう面の流れで魅せるその颯爽とした存在感は、路上で輝きを放っている。
キーフォブを持ってクルマに近づくとせり出してくるドアノブを引き、ドライバーズシートへ。スタートボタンを押してエンジンを始動させた瞬間、音量こそ控えめながら、しかし存在感に満ちた重々しいエンジンの咆哮が響いてきた。「これじゃなくちゃ」という人は、やっぱり多いのだろう。
外観と同様、このインテリアもラグジュアリーカーとしてはかなり攻めたものであることは間違いない。しかも試乗車の座席はカーマインレッドのフルナッパレザー仕様。オーセンティックな雰囲気ではない。
しかし使ってみれば大型タッチスクリーンは扱いやすく、大面積のARヘッドアップディスプレイ(オプション)も運転を確実にサポートしてくれる。そして何より細部まで徹底した作り込みによる上質感に、思わず背筋が伸びてしまうのだ。
動きはすべて緻密で滑らか。贅沢さという価値がわかる
走り出すと、まさにタイヤが転がり出すその瞬間から滑らかさが際立つ。この時点で機械としての精度の高さにうっとりさせられるのは、やはり紛れもないSクラスという印象である。
まず鮮烈なのが乗り心地。驚くほどソフトなのに姿勢はグラついたりせず、高速域に至るまで安定しきっている。コーナリングも軽快で、もはやSクラスはドライバーズカーだと言いたくなる。
4L V型8気筒ツインターボエンジンは回転の粒が細かく、何の抵抗も感じさせることなくシューンと吹き上がっていく。しかも単にスムーズというだけでなく、その一瞬一瞬にトルクが密度高く詰まっている。豊潤という言葉を使いたくなるフィーリングだ。
3L直列6気筒ターボエンジンを積むS500でも、こうした日常域の力感に不満を感じる人などいないだろう。だから、これは本当の贅沢と言っていい。しかも、まだ先がある。トップエンド近くまで回していくと、獰猛と評してもいいほどに豪快に、パワーを炸裂させるのだ。上質というだけには留まらない。これもV型8気筒の魅力である。
電気モーター駆動のBEVは、メルセデスの目指してきた質の高い走りの世界を、内燃エンジンよりも容易に実現できるものであるのかもしれない。しかし、本来静かで滑らかなものが期待どおりに静かで滑らかなのは、実は案外味気ないものなのだ。
本音のラグジュアリー。自動運転させるのがもったいない
この、今や贅沢の極みと言えるV8というマルチシリンダーユニットを唄わせていると、筒内で燃料と空気を混ぜて圧縮して燃焼させる内燃エンジンがこの滑らかさを実現しているからこそ価値があるのだと、まざまざと実感させられるのである。
試乗中、助手席の担当編集者が「自動運転させるのはもったいないですね」と言うのを聞いて、至極納得という思いだった。メルセデス・ベンツの本音のラグジュアリーカーは、こういうものなのかもしれない。
とは言え、それだけでは済まないので今度は後席へ。前席もいいが、後席もとても快適なクルマだということは改めて言うまでもないだろう。サイドウインドウのシェードは上げて、一方で大開口のサンルーフは開けていくというのが気に入った。
最近ではVIP送迎用としてもVクラスのようなミニバンがもてはやされているが、このエクスクルーシブ感はやはり他には代え難いものがある。後席の居心地も素晴らしいが、しかし時には、いやおそらくはもっと高い頻度で自らハンドルを握って走りを楽しみたくなる。
いまのラグジュアリーカーらしく、そんな欲求にもS580 4マティックロングはしっかり応える1台に仕上がっていると感じられた。
フォーカスは2列目シート。熟成の結晶と秀逸な実用性
続いて、V220dエクスクルーシブロング プラチナスイートに乗り換える。受注生産だというこのモデル、ずいぶん大げさなモデル名だが、実際に2列目シートを見れば、それも納得。スライドドアを開けた先には、柔らかなヘッドレストを備えた、ナッパレザー張りの大型キャプテンシートが2脚、鎮座しているのだ。
とりあえずはドライバーズシートへ乗り込む。これも専用装備のレザーARTICOダッシュボード、アルミニウムインテリアトリムのおかげで、雰囲気は上々だ。一方で、エンジンの始動と停止は差し込んだキーを回すスタイルで、アップデートを重ねて今に至るとは言え、当初はビアノの名でデビューしたのが2003年のことだと改めて意識させられた。
発進させると、2L直列4気筒ディーゼルターボエンジンはそれなりに音も振動も発するが、それが実際のトルクの厚みと相まって、力強い印象を倍加させているのは面白いところと言える。
ロングボディ、しかもAMGGラインということで全長は5155mmとかなりの大柄。しかしメルセデスらしくハンドルはよく切れるし、全方位に優れた視界が確保されているので、狭い道でバックを強いられたような時でも、実は想像するほど難儀することはない。
このあたりは、やはりとても実直。商用車ベースのモデルだということもあるが、メルセデス・ベンツの本質は究極の実用車なんだなと改めて実感させられる。
BEVではまだ到達できないブランドの本質的な価値
正直なところ、とくに街中での走りにはさほど面白みはない。細かな振動、騒音は気になるし、実際以上に大きなクルマを動かしているかのような感じもする。
そんな印象がじわり変化してくるのが速度を上げていった時だ。低速トルクの豊かなディーゼルエンジンとハイギアードな9速ATの組み合わせは息の長い加速感を味わわせてくれて、これがなかなか気持ちいい。そして乗り心地である。低速域では路面のアンジュレーションに煽られて落ち着かないのに、速度が高まってくるとピターッと安定してくるのだ。
後席に座っていてもそうで、低速域では正直、アルファードの方がよほど快適と思ったりもするのだが、速度が上がってくると、さすがメルセデスという思いがこみ上げてくる。長距離で疲れないのは断然、Vクラスである。
EQSそしてEQBと、同様の世界観を志向したBEVもすでに世に出ている。またこれらの高い完成度もすでに確認済みである。
しかしながら電動ではなくコンパクトでもない、その意味では「昔ながらの」と評することができるのかもしれないこのSクラスとVクラスから今回、メルセデス・ベンツの「らしさ」、言うなればクルマづくりの本音のようなものを強く感じることができたのも、これまた事実なのだ。(文:島下泰久/写真:村西一海、井上雅行)
メルセデスベンツの最新動向:まもなくEQBが、そしてAMG C43も上陸
着々と充実するEQシリーズとAMGシリーズによる両面展開。
これから、日本でもBEVのEQシリーズが続々と登場する予定である。いちばん早いデビューが見込まれているのはコンパクトクラスのEQBで、Bクラスの電気自動車版モデルといえる。さらにEクラスやSクラスのBEV版モデルに相当するEQEやEQSの導入もスケジュールには組まれている。また、新型Cクラスに待望のAMGモデルが加わることも確定している。2L直4電動ターボエンジン仕様のAMG C43 4マティックの登場は楽しみだ。
メルセデス・ベンツS580 4マティック ロング主要諸元
●全長×全幅×全高:5290×1930×1505mm*1
●ホイールベース:3215mm
●車両重量:2220kg*2
●エンジン:V8DOHCツインターボ+モーター
●総排気量:3982cc
●最高出力:370kW(503ps)/5500rpm
●最大トルク:700Nm/2000-4500rpm
●モーター最高出力:15kW(20ps)
●モーター最大トルク:208Nm
●トランスミッション:9速AT 機
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・76L
●WLTCモード燃費:8.7km/L
●タイヤサイズ:前255/45R19、後285/40R19*3
●車両価格(税込):1978万円
*1:取材車はオプションのAMGライン装着車のため全長5320mm
*2:取材車はオプションのAMGラインとEアクティブボディコントロール装着のため車重2310kg
*3:取材車はオプションのAMGライン装着車のため、前255/40R20、後285/35R20
メルセデス・ベンツV220dエクスクルーシブロング プラチナスイート主要諸元
●全長×全幅×全高:5155×1930×1930mm
●ホイールベース:3200mm
●車両重量:2540kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量:1949cc
●最高出力:120kW(163ps)/3800-4400rpm
●最大トルク:380Nm/1600-2400rpm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量: 軽油・70L
●WLTCモード燃費:12.9km/L
●タイヤサイズ:245/45R19
●車両価格(税込):1218万円
[ アルバム : メルセデス・ベンツ S580 4マティック ロング×V220dエクスクルーシブロング プラチナスイート はオリジナルサイトでご覧ください ]
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