本物の装いを備えた最後のモデル
——さて、今月は松本さんが創刊時からヒエラルキーが少なくて、カッコ良く、しかも購入しやすいって言っていたモデルにしたんですよ。
松本 なんとなくわかるよ。ラングラーじゃない?
——正解です。意外にもこの連載でやってなかったんですよ。
松本 価格がそれほど高くないのは素晴らしいけど、逆に落ちすぎると買い得感は増す分、コンディションがあまり良くない個体が増えるからね。今回のはどうなの?
——びっくりするような状態の物件があったんですよ。2000kmしか走ってない極上モノ、こちらの車両ですね。
松本 これはまたいい個体だね。この年代は飾り気も少ないし、やっぱりいいよね。
——松本さんってジープみたいな車もお好きなんですか? あまり詳しいイメージないですけど。
松本 ずいぶん馬鹿にするねぇ。ジープは所有したことはなかったけど、各年代ごとにしっかり試乗もしてきたよ。ラングラー系の祖先のような車にCJ-3ってのがあってね。ローフードと言ってボンネットが低くてヘッドライトがやけに大きく見えるモデルなんだけど、知り合いが所有していてさ。簡素で本格的、機能的で若いながらもあこがれたなぁ。
——ラングラーってかなり最近までかなりハード志向でしたよね?
松本 そうだね。いま話したCJシリーズが徐々に進化してお洒落と実用がじわじわと合体し始めたんだよ。そしてCJシリーズを進化させたのが今のラングラーだね。
——どんな車でも新しくなれば快適になるけど、その分個性や味は薄くなるから、好みがハッキリ分かれますよね。
松本 そうなんだよね。でも、本格的で世相に媚びなかった最終モデルっていう意味でも、今回のTJ型は素晴らしい1台だよ。
——生産は1996年から2006年までですね。
松本 シンプルで無骨な作りだからこそ、時間が経っても古さを感じさせないって、当時もEDGEで書いた記憶があるなぁ。この車が新車で販売されていた2000年代前後から日本でもラングラーの人気がうなぎ上りになったね。
——ちょうど4ドアのアンリミテッドを発売した頃でしたね。
松本 そうだね。デザインや乗り心地、装備など近代架装したJKシリーズ(2007~2017)からだね。
——その直前であるこのTJ型はどうなんですか?
松本 このモデルは「往年の雰囲気」を持った最後の世代なんだよね。わかりやすいのが平面ガラス。これって先代のGクラスもそうだったけど性能よりも実用的、価格も抑えられて、いざという時でもガラスの代替が可能なんだ。
——なんかユーザー側に立って作られてる感じがしますね。
松本 そうでしょ? 僕が20代の時、アメリカに滞在していて驚いたのが、ホームセンターのようなところでTJ型のテールランプが汎用品として売ってたんだよ。CJからTJまでOKって書いてあった。
——それはまたすごい話ですね。
松本 これって30年間ラングラーはほぼ同じテールランプを使ってたっていうことなんだよね。今じゃ汎用性が高いエクステリアパーツってないでしょ? こういうところが個人的にとても素敵だと思うんだ。
——エンジンはどうなんですか? なんかやたら古いエンジンを常に積んでるイメージがありますけど。
松本 このTJ型のエンジンは21世紀になっても直列6気筒のOHVだったんだ。それはOHVだとエンジンを低くできるからなんだよ。カムシャフトがエンジンブロックに取り付けられているからシリンダーヘッドがコンパクトにできる。ジープがフードを低くできるのはこれも要因なんだ。
——ラングラーって結構長くOHVエンジンを使ってますよね?
松本 3代目のJK型もV型6気筒だけどOHVを採用していたね。OHVはメンテナンス性がいいんだ。ラングラーはかなり特殊なシチュエーションで使われることが多いからね。ちなみにTJ型まではAMCというジープを継承した自動車メーカーが作った直列6気筒が搭載されていたんだよ。
——ふむふむ。
松本 それと、ラングラーには右ハンドル仕様がアメリカにもあったんだよ。ジープってアメリカの郵便関係の車にも使われていてね。それは右ハンドルなんだよ。郵便ポストに入れるときに右側通行だから左ハンドルだと入れにくいでしょ? そこで右ハンドルを作っていたっていうわけなんだよ。
——そう聞くと日本で買えるラングラーの右ハンドルもより魅力的ですよね。
松本 そうだね。このTJ型って年式は?
——2005年ですね。
松本 そりゃますますいいね。なぜかというと電子制御の4速AT仕様になってからのタイプだからね。それ以前は3速ATで、試乗したことあるけどかなりノスタルジーを感じたよ(笑)。
—— 今の時代に3速はちょっと厳しいかもしれないですね……。
松本 2004年から4速のロックアップ制御になってるんだ。この4速ATも過酷な使用を想定したトランスミッションなんだ。とにかくいたるところが、ゆとりのある設計になってる。それが極限でも耐えられる耐久性の要因になってるんだよ。
——昔運転して、乗り心地がかなりハードだなって思った記憶がありますね。
松本 ちょうど、この年式ぐらいから乗り心地も良くなっていたね。強靭なラダーフレームでソフトな乗り心地を作るのはアメリカ車は一日の長があるからね。
——なんか今ラングラーの人気があるの、わかる気がしますね。
松本 そうだね。ジープのスタイルを確立し、そのDNAを純粋に継承したモデル。しかも洒落っ気のない本物の装いだからね。こういう車は少ないし、最後のモデルなのかもしれないね。中古車としても本当にオススメできるよ。
——そういえば姉妹誌の女性メンバーにもTJ型を買わせてましたよね……。
松本 女性が乗っているとさらにこの手の車は魅力的に見えるからね(笑)!
ジープ ラングラー
軍用車両のウィルスMBを始祖とし、オフローダーを代表するジープブランドのアイコンモデル。1997年登場のTJ 型はジープらしいスタイルを継承しつつ、コイルサスペンションの採用などで乗り心地を向上させた。撮影車両はソフトトップのスポーツ。ライトカーキメタリックは05年モデルで導入された外板色であった。ジープ ラングラー(TJ型)の中古車を探す▼検索条件ジープ ラングラー(TJ型)×全国※カーセンサーEDGE 2022年4月号(2022年2月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています文/松本英雄、写真/岡村昌宏
【取材協力】アドバンスグループ グライド アメ車専門店カーセンサーEDGE.netはこちら
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