シンプルなアコースティック楽器と主に肉声を用いたフォークミュージック(民謡または民俗音楽)から最新テクノロジーを駆使したEDM(Electronic Dance Music)まで、ひと言でポップミュージックといってもその姿はさまざまだ。
そしてEDMは今後、テクノロジーおよび人類のサイケデリックな感性の進化につれてより発展していくはずだが、だからといって、その分だけフォーキーなアコースティック音楽がこの世から消えていくわけでもない。
なぜならば、われわれホモサピエンスの身体のどこか奥のほうにある琴線は、世のテクノロジーがどう変わろうとも、四六時中ではないにせよ“それ”を求めるからだ。
だが自動車においては、EDM的なクルマ=電子制御満載のクルマがシェアを取っていく分だけ「フォーキーでアコースティックなクルマ」はこの世から消えていくだろう。もしくは、ごく一部のアンダーグラウンドでしか生き残れなくなるだろう。
音楽は人間の心と言われる部分に紐づくものであるのに対し、自動車というのは(基本的には)道具でしかないからだ。心は、いくら時代が移ろうともそう簡単には変わらない。だが道具は、時代とともにその成り立ちと機能を容易に変えるものだ。
だからわれわれは、ある程度急がなければならない。自動車界の「完全EDM化」が完了してしまう前に、まるでアコースティック弦楽器をポロロンとつま弾いているかのような気分にさせてくれるフォーキーなクルマに、乗らなければならないのだ。
いや「乗らなければならないのだ」ということもないとは思う。だが、乗ることで、ある種の感慨は確実に発生する。そしてその感慨は、まるで仕事をあえて放り出して突発的に海を見に行ってしまうある日のように、あなたの浮足立った心に重要な作用を及ぼすはずなのだ。
で、「まるでアコースティック弦楽器をつま弾いているかのような気分にさせてくれるクルマ」というのはいくつかあるはずだが、ひとつ思うのが、初代フォルクスワーゲン ゴルフをベースに作られたオープンモデル、「フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ1.8」またはその最終限定車「ゴルフ カブリオ クラシックライン」というクルマだ。
現在でこそ電子制御が多分に用いられた第7世代が販売されていて、2019年春頃にはさらにデジタル化が進んだ第8世代が登場する予定となっている、フォルクスワーゲン ゴルフという定番ハッチバック。だが1974年から1983年まで販売されたその初代モデルは、今にして思えばきわめて小振りかつプリミティブな「アコースティック系」だった。
故 徳大寺有恒さんという自動車評論界の巨匠が1976年に書いた『間違いだらけのクルマ選び』という名著のなかで、一つのベンチマークとしていたのも初代フォルクスワーゲン ゴルフである。
その初代ゴルフ、つまり固定の金属屋根を持つ初代のハッチバックを買って乗るのも悪くない。だがいかんせん古いクルマであるため残存数は少なく、買ったとしても整備はそれなり以上に大変だろう。
だが、ここで推奨しているオープンモデルは事情が異なる。
初期年式の残存数が少なく、あったとしてもメンテナンスが大変であるのは固定屋根のハッチバックと同じだ。だが初代ハッチバックが1983年までしか販売しなかったのに対して、カブリオのほうは1992年まで、つまり割と最近(?)まで作られていたのだ。
これは、初代ゴルフの後を受けて登場した2代目ゴルフにオープンモデルが設定されなかったから──という事情による。1990年代初頭に登場した3代目のゴルフにオープンモデルが追加されるまで、初代カブリオはそのままの形で(正確には2代目ゴルフのコンポーネントを混ぜて使いながら)製造し続けたのだ。
それゆえに、1970年代のプリミティブ感を十分残しながらも今なお普通に流通していて、なおかつメンテナンスも比較的ラクだという、1985年以降の「ゴルフ カブリオ1.8」または「ゴルフ カブリオ クラシックライン」という奇跡のアコースティック系絶版名車が生まれたのである。
両者が搭載するエンジンは排気量1.8リッターの直列4気筒SOHCで、それを制御するトランスミッションは3速ATという、思わず笑ってしまうほど古風な組み合わせ。ちなみに最近は小型車であっても「電子制御6速AT」とかになるのが一般的である。
写真を見てのとおりボディの四隅やウインドウ、ピラー(柱)などは非常に切り立っていて、なおかつ全長約3.9m×全幅約1.6mときわめて小振りであるため(ちなみに最新世代のゴルフ カブリオは全長約4.3m×全幅約1.8mだ)、ドライバーは運転中にボディの四隅を手で触れることができる、というのは嘘だが、そのぐらいの感覚ではある。
そして幌を巻き取ったうえで頭上を見上げれば、そこには大空しかない。……というと当たり前に聞こえるかもしれないが、最近のオープンカーはフロントウインドウの角度がかなり寝ているため「頭上を見上げても視界の半分は窓でした」なんてこともザラなのだ。
で、そのようなゴルフ カブリオ1.8またはクラシックラインを走らせてみると、これが思いのほか軽快だ。古風極まりないハードウェアのみが使われているというのに、その身のこなしはまるで20歳前後の運動部員のようである。あるいは、20歳前後の軽音楽部員たちが奏でる軽快なアイリッシュミュージックを聴いているかのようとでもいうべきか、これすなわち軽さと小ささの勝利である。
そんなカブリオを運転していると、忘れていた何かを思い出す──というのも陳腐な表現で恐縮だが、そうとしか言いようのない感慨を、おそらくあなたは運転中に感じ、もしかしたら涙するかもしれない。少なくとも筆者はゴルフ カブリオを運転するたびに泣いてしまう。
理由は自分でもわからない。程よく巻き込む風そのもののせいだろうか? あるいは風の音と古風なエンジン音とが織りなす風景を、どこか懐かしく感じるからだろうか?
わからないが、場合によってはセンチメンタルにもなる1985年式以降のゴルフ カブリオは、同時に「現実的なクルマ」でもある。
前述のとおり今なお普通に一定数以上の商品個体が流通していて、その車両価格はせいぜい70万円から130万円程度。シンプルな構造ゆえ故障もさほどせず、仮にどこかが壊れたとしても、その筋の専門店に任せればたちどころに修理してくれる。また同好の士も比較的多いため、趣味的なコミュニティを通じて情報を得ることもたやすいだろう。
そんなゴルフ カブリオもいずれはEDM的なるクルマに席巻され、この世から消える日がやって来る。
それはまだまだ先のことではあるはずだが(10年後か20年後?)、ある程度は急いでしかるべきなのではないかと、筆者は軽く危惧しているのだ。
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