交通規制された道路を、白バイに先導されながら黒塗りの警察車両たちが一気に駆け抜ける。キビキビとした動き、統率のとれたフォーメーション。物々しい雰囲気もさることながら、高い練度を感じさせるその動きに、きっと目を奪われるに違いない。
そう、要人警護のワンシーンだ。なかでも海外からVIPが来日した時の警護車列は見応えバツグンである。アメリカ大統領の車列ともなれば、随行車も含めて数十台のクルマが連なり、まるで映画のワンシーンのようでもある。
今回は、マニアでなくともハマる人が続出中の警護車列の魅力とウォッチ術をお届けする。なお、警護車のさまざまな車種については『平成~令和新時代 パトカー30年史』も参考にご覧頂きたい。
『平成~令和新時代 パトカー30年史』はこちら
文・写真/外江彩
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■要人警護は大きくわけて3パターンある
要人警護のなかでも、もっとも警戒厳重となるのが、海外からのVIP来日である。アメリカやロシアのように自国から専用車を持ち込むパターンは車列の規模も大きくなりがちで、随行車の多彩さなど、見どころも多い。ただし、こうした外国要人の来日は頻繁にあるわけではなく、見学できる機会は非常に限られてしまう。
白バイに日産フーガ警護車、米大統領専用車(通称ビースト)が連なる
国内の要人でハイレベルの警護といえば、やはり総理大臣だ。総理大臣用には専用車があり、移動中は警察の警護車がガードする。その緊張感あふれる車列は一見の価値ありだが、見学の機会をとらえるのにはコツが必要だ。
要人警護のなかでも、やや異色なのが、天皇陛下の車列だろう。厳重な警備が敷かれつつも、国民とのふれあいにも配慮がなされており、上記の2つに比べると見学がしやすい。車列の迫力は、上記2つには及ばないが、ウォッチのしやすさから初心者にオススメといえる。
さて、このように海外の要人や総理大臣、天皇陛下などの安全を確保するのが「警護課(警衛課)」(※皇族方の場合は「警衛」と呼ばれる)という部署だ。警護課は、出発地や目的地の警備だけでなく、移動中の警備も行う。とりわけ、クルマで移動する際には、前後に「警護車」と呼ばれる警護専用の車両を付け、警護対象車をガードする。その車列は、関係者も含めると数台~十数台になることもあるのだ。
■要人の盾となる警護車とは?
要人を守る警護車とは、どういうクルマなのだろうか。
警護車は、警護課員が運用する警察車両のことだ。その多くは黒塗りの覆面パトカーで、反転式警光灯、前面警光灯、ナビミラーを備え、緊急走行が可能である。また、警備系の無線を多チャンネル用いるため、アンテナを多数装備している車両が多い。中には防弾装備となっている車両もあり、緊急時には警護対象車(者)の盾となる。
要人が乗車する車両は、通常、高級車が用いられるため、警護車も車列として品格を保てるよう、高級車が用いられる傾向にある。また車列の機敏な動きにも対応できるよう、大パワーも求められる。
近年ではレクサスLSや日産フーガなどが導入されている。かつてはトヨタ・セルシオや日産シーマなども用いられてきた。こうした高級車ベースの黒塗りの警護車が要人の周りをガッチリ固めて車列となって走行するわけだ。
メルセデス・ベンツS600警護車。警護車列の品格を高めるため、このような高級車が用いられる。警護車としては珍しくマグネット式の警光灯を採用する
乗車しているのは警護専任の警察官(いわゆるSP)で、移動中に不審な車両が近づくのを阻止したり、車列通過時に歩行者が妨げにならないよう注意を払う。また、要人が車両に乗り降りする際には、先に下車して周囲をガードし、安全を確保する仕事も担う。
警護車列で一番の見どころは、「ハコ乗り」シーンだろう。高速道路の合流時や、交差点通過時には、警護課員が窓から身を乗り出し、他の交通を制止し、警護対象車をガードする。猛暑の日も厳寒の日も、そして土砂降りの天気も関係なし。つねに窓全開で行われるこの動きには、プロとしての強い意思が感じられ、マニアならずとも目を奪われる。
高速道路の合流部でのいわゆる「ハコ乗り」。身を乗り出して、後方の一般車両に対して減速、制止を行う
■マニアだけが知っている! 警護車列ウォッチ術
では警護車列を生で見るにはどうすればいいのかだろうか。残念ながら、警護車列はいつどこを走行するか、事前に公表されるものではない。そこで、警護車ファンたちが使うテクニックを参考に、ウォッチ術を紹介しよう。
●天皇陛下・総理大臣臨席のイベントで見る
例えば、国会の開会式には天皇陛下が臨席されるため、車列による移動が行われる。他にも、終戦記念日の戦没者追悼式典や、天皇陛下の地方行幸(日程は宮内庁ホームページなどで調べることができる)でも車列が組まれる。特に、天皇陛下の地方行幸では、地元の奉迎者がたくさんいるため、現地に行けば奉迎場所などが用意されていることが多く、確実に車列を見ることが可能だ。
同様に総理大臣の場合も、記念行事などはスケジュールが把握しやすいため、ウォッチのチャンスを高めることができる。
●外国要人の場合は、報道から大体のスケジュールを考える
海外の首脳レベルの来日の場合、来日中の主要な行事が報道される(○日は首相と首脳会談、など)。到着時のニュースや、滞在日程などの情報と報道されている内容を組み合わせ、だいたいのスケジュールを考える。複数のニュースサイトをよく調べるほか、交通規制の情報など細かな情報を拾っていくと、意外とおおよそのスケジュールが判明してくる。ウォッチポイントが決まれば、あとはそこへ行って入待ち、出待ちをするだけ。サミットなど複数の首脳が集まるイベントでは、一度にたくさんの車列を見ることができるため、おトク感がある。
●通りやすいポイント
そうは言っても、思っていたのとは違うルートで出入りするなど、スカを喰らうことも多い。以下では、車列が通ることが多い定番ポイントをいくつか紹介したい。
(1)首相官邸前
首脳会談が首相官邸で行われる場合、官邸の門を通過することは間違いない。ただし、首脳会談が迎賓館で行われる場合もあるので、注意したい。
(2)首都高霞が関出口
首相や大臣・国会議員らと面会する場合、官邸や議員会館で行われることが多いため、首都高霞が関出口が用いられる。内回り・外回りの出口が極めて近いため、どちらの方面から来ても出会えるという点でも確率が高い。
(3)迎賓館
公式の晩餐会が行われる場合には、赤坂の迎賓館が用いられる。迎賓館の立派な建物を背に正門から出てくる様子は、非常に見応えがある。ただし、極めて稀であるが、正門以外の門から出入りした例があり、周辺の状況をよく見て判断したい。
(4)皇居正門
天皇陛下との面会が予定されている場合は、皇居でおこなわれるのが通常だ。皇居には多くの門があるが、公式の面会の場合、正門(または桜田門経由で正門)から入ることが多い。退出については、交通の利便性が高い乾門や桔梗門、桜田門など様々である。
(5)その国の大使館
外国要人が来日した場合、駐日大使と面会することが通例となっている。そのためにその国の大使館へ出入りする。ただし、主要国の大使館周辺は普段から厳重な警備が敷かれているため、車列通過時は歩行者も近づけない場合もある。
夕暮れの東京駅前を通って皇居に向かうレクサスLS警護車。車列は皇居や首相官邸付近を通ることが多いので、絵になる撮影スポットを探しておきたい
以上、通りやすいポイントを紹介したが、それとて絶対ではなく、詳細なルートや通過時間を事前に把握するのは難しい。刑事の言葉に「現場百遍」があるが、警護車のウォッチも同様だろう。とにかく現地に行かなければ始まらない。明らかに警備が強固なエリアと手薄なエリア、報道陣やウォッチャーが集まっている場所、警備の雰囲気(今にも来そうか、時間待ちな雰囲気か)等々、現地に行けば得られる情報は多い。続けていれば、マニア同士で情報交換ができたり、たまに警察官から情報を得られることもある。
■よきウォッチャーであるために
要人警護車列の一番の目的は、要人を安全に移動させることである。そのため、沿道の通行が規制されたり、待っていた場所から移動することを要請されることもある。警備の都合上、1箇所に集まっての見物を要請されることも多い。長い間待機していたのに直前になって移動させられるのは理不尽に感じるだろうが、今後のことを考えれば、我慢も必要になる。実際、トラブルとなって近づけなくなった撮影ポイントも存在する。あくまで警備第一であってこその車列見物とわきまえたい。
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もっとパトカーについて知りたい方は『平成~令和新時代 パトカー30年史』もご覧ください。『平成~令和新時代 パトカー30年史』はこちら
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