ゼロベースのエンジン開発は10年先を見極める必要がある
日産自動車がエンジン開発を(将来的に)凍結するというニュースに自動車業界がザワついています。ネットのコメントには「e-POWER(ノートやセレナが採用する日産のシリーズハイブリッド)はまだまだ主力だから、日産がエンジンを捨てることはあり得ない」といった自動車ファンの声もありますが、これこそミスリードな批判ではないでしょうか。
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エンジン開発/改良/生産というのは、それぞれ別のフェイズであって、シリーズハイブリッドが主力商品だからといってエンジン開発が必要とは言い切れません。
狭義の「エンジン開発」というのは、ゼロベースで基本設計から行なうフェイズ。エンジンの商品ライフというのは非常に長くなりますから、開発のスタート地点では、少なくとも市場の10年先までのニーズを見極める必要があるでしょう。
世界の主要市場は2030年頃にはエンジンが不要になってくる
では、現時点で10年先の市場ニーズを考えると、どんな結論が出るでしょうか?
ご想像された人も多いと思いますが、欧米中など主要市場では排出ガス規制がどんどん厳しくなるので、2030年頃には“エンジンは不要になる”未来が見えてくるはずです。大手自動車メーカーであれば、新規のエンジン開発にリソースを割くのではなく、エンジン開発を凍結するのが当然の判断のはずです。
そもそも日産自動車は「2050年度までに製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを実現する」という目標を掲げています。カーボンニュートラル燃料の普及でもない限り、2050年の時点でハイブリッドを含めたエンジン搭載車がゼロになっているロードマップを描いているわけで、今から高性能・高効率なエンジンを開発するメリットがありません。
すぐにエンジン車ががゼロになる、というのは非現実的
むしろ「エンジン」に関する領域を持っていることがレガシー企業としてのネガと判断され、投資を鈍らせてしまうことが懸念されます。負の遺産を早めに解消しておくという経営判断は、投資筋には好感されるかもしれません。
このアドバルーン的な報道に投資家が反応して、日産の株価は上昇するのでしょうか? 何でもかんでも電動化を謳っておけば株価がポジティブに動く時代ではないとは思いますが、株価を上げるのが経営者の務めだとすれば、その点からも注目といえます。
その一方、日産が2030年に向けてe-POWERをブランドの軸として展開するのであれば、エンジンの改良はまだまだ続くでしょうし、エンジンの生産設備もCO2排出量とコストを削減するようにブラッシュアップしていく必要はあります。エンジン開発凍結=すぐさまエンジン車ゼロというのもまたリアリティのない憶測です。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
※写真:日産自動車・内田誠CEO
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