自律自動運転の最新情報と、そもそも自動運転とはどんなもので、どのような世界を目指しているか、をお届けする連載企画の第2回、今回はそのものずばり、「自動運転とは何か」をお届けします。
文/西村直人 写真/Adobe Stock、メルセデスベンツ、ホンダ、日産
自動運転技術での「日本」の現在地 【自律自動運転の未来 第1回】
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■日本において「自動運転」とはレベル3以上
「もっと便利に、快適に」
進化を続ける自動車は、自動運転技術を得ることで新たな役割を担います。これまで人(ドライバー)主体で行ってきた運転操作を部分的、もしくは大部分をシステムが代わって行うからです。
自動運転の世界は1950年代から、主に北米の自動車メーカーを中心に将来の技術として開発が進められてきました。当初は「人の操作をそっくりそのまま自動化することが自動運転である」という発想が大半を占め、ボタン一つで目的地へ運んでくれる、いわばロボットカー的な要素も見受けられました。
多くの人がイメージする「自動運転車両」とは、たとえば電車やバスのように、乗員がまったく操作せずに目的地まで到着する車両(AdobeStock@freehand)
一方、自動車が単体で自律的な自動走行を行うことは、技術的にも安全性の面からも難しいことから、道路に設置された端末と通信を行ったり、管制システムとのやりとりを行ったりすることが必要であるとする声も当時からありました。
なにが自動運転で、なにが自動運転ではないのか? 本格的な自動運転社会の到来を前に、これらの定義をしっかり理解することが大切です。
現在、日本においては、国土交通省が「主要なASV技術の概要及び自動運転関連用語の概説」(2020年12月11日~)のなかで、「SAE自動化レベルのうち、レベル3以上の技術を“自動運転”と呼ぶ」と定義付けを行なっています。
さらにレベルごとの呼び名も示され、レベル3を「条件付自動運転車(限定領域)」、レベル4を「自動運転車」(限定領域)、レベル5を「完全自動運転車」とそれぞれ定義し、レベル1とレベル2は従来通り、運転支援車であることが改めて伝えられています。
国土交通省が作成した、自動運転の「レベル1」から「レベル5」までの定義と責任範囲の最新資料最新(2020年12月)(クリックで拡大します)
■「誰が責任者か」は状況によって変わる
自動運転技術の理解において大切な側面に、運転操作の主体、つまり誰が最終的な責任者であるのかという課題があります。
2020年12月には、この定義がこれまで以上に細分化されました。レベル2まではドライバー責任で、レベル4~5は自動運転システム責任となる、ここに変更はありません。
違いはレベル3にあります。ここでは具体的にどんな状態で、誰に責任が課せられるのかなど一歩踏み込んだ定義付けがなされました。
原文によると、「特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。ただし、自動運行装置の作動中、自動運行装置が正常に作動しないおそれがある場合においては、運転操作を促す警報が発せられるので、適切に応答しなければならない」とあります。
表現が難しいので筆者なりに要約をしてみました。
「高速道路や自動車専用道路の本線を走行中、システムが正しく機能している場合に限り、手と足と眼、すべてのサポートが部分的に受けられます」。
「ただし、本線から出口車線へと向かう場合や道路工事などシステム設計にはない状況に遭遇した場合などには、システムから“もうすぐサポートできなくなります。運転操作を代ってください”とディスプレイ表示や警報ブザー、ステアリングの振動やシートベルトも巻き上げ機能などを通じて伝えてきます」。
「ドライバーはシステムからの呼びかけ、つまり運転操作のドライバーによる再開依頼に従って運転操作を行なってください。」
「また、システムの操作があやしいとドライバーが感じた場合には、ドライバーが運転操作を行なってください」。
このような解釈が成り立ちます。
■実際にはレベル2でも「自動運転」だと思っている状況
ここまで話を整理すると、レベル1~レベル2までは運転支援、レベル3以上が自動運転となったわけですが、世間ではレベル2までの技術であっても「自動運転である」と思い違いをされている方が相当数おられます。
2019年、日産スカイラインに搭載された「プロパイロット2.0」。世界最先端技術のひとつではあるが、これも「レベル2」であり、国土交通省の規定によると「自動運転技術」とはいえない
筆者はここ10年以上、自動運転技術や先進安全技術を紹介する講演会での講師を拝命しつつ、全国の高等学校において自動運転をテーマした課外授業を担当しています。
その経験からすると、運転経験の長く、運転操作に自信があるドライバーほど、運転支援技術を自動運転技術であると誤解される傾向が強いようです。たとえばレベル1に相当するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)機能がついているから自動運転車だ、といった具合です。
具体的に、ACC機能の物理的な限界点を考えてみます。一般的にACCのシステムは、車載センサーであるミリ波レーダーや光学式カメラから得られる限られた認識範囲からの情報をもとに前走車への追従走行を行なっています。よって、隣車線からの割り込みなど突発的な事象には十分対応できない場合があります。現時点、ACCの使用が高速道路や自動車専用道路でのみ許されている理由は、歩行者や自転車などの急な飛び出しがないからです。
確かに、自動運転技術は運転支援技術の精度が高まることで実現することから、誤解を招いてしまうのかもしれません。
しかし、運転支援技術と自動運転技術の間には、求められる車載センサーの精度やシステムの冗長性(≒複数経路による確実な実行が期待できる能力)に簡単には超えられない、とても高いハードルがあります。
大まかにいえば、レベル3ではレベル2の能力の10~100倍の精度や能力が求められ、このことはWP29(自動車基準調和世界フォーラム)の枠組みでも定められているのです。
こうした技術への正しい理解は、ベテランドライバーよりはむしろ、これから交通社会に羽ばたいていく高等学校の生徒さんのほうが柔軟です。こちらから技術のできること/できないことを動画や表組みを交えてしっかり伝えると素直に受け止めてくれます。
■完全自動運転はいつ実現するの?
ところで、自動化レベルの定義付けではレベル5の段階でもっとも高度な自動走行ができると示されています。そうなると気になるのが、「いつ、レベル5が実現するのか?」。
最初に結論ですが、すでにレベル4以上の技術を実装した自動車は存在しますので、その意味では実現しているといえます。ただしそこには、研究段階のプロトタイプという限定条件がつきます。
運転操作のすべてをシステムが行なうレベル5は、技術単体でみれば1980年代から存在しています。2000年代に入ると完成車として日/米/欧の各自動車メーカーから発表され、現在はサプライヤー企業やベンチャー企業も参画し、テストコースだけでなく公道での実証走行も頻繁に行なわれています。
筆者は2015年にはじめてレベル4の技術を公道で体感(システムによる運転での同乗試乗)しました。同乗試乗車であるメルセデス・ベンツの自律型自動運転リサーチカー「F 015 Luxury in Motion」は、(米)サンフランシスコ市内を走る自動車や路面電車、自転車や歩行者との混合交通を見事にやってのけたのです。同年、メルセデス・ベンツ傘下Freightliner Trucksの大型トラック「Inspiration Truck」では、レベル3~4の技術を公道で体験しています。
メルセデスベンツが2015年に米国の国際家電見本市(CES)で世で初めて披露した字度運転車両「F 015 Luxury in Motion」。2030年のモビリティ社会を想定して開発された
車内にはいちおう運転席はあるが、ハンズオフ&アイズオフが可能。フロントガラスもすべてモニターであり(カメラで撮影した画面を投影)、外からは見えない
さらに2018年には、フォルクスワーゲンが開発した「SEDRIC」(セルフ・ドライビング・カーの略)でレベル5の技術を搭載したプロトタイプにも同乗試乗を行ないました。この頃、トヨタや日産、ホンダ、BMWやアウディ、GMなどもレベル4以上のプロトタイプを次々に発表しています。
(2021年3月4日、ホンダは国土交通省より自動運行装置として型式指定を取得した自動運転レベル3:条件付自動運転車(限定領域)に適合する先進技術「Honda SENSING Elite」を搭載したレジェンドを発表(販売計画は100台限定)。高速道路渋滞時など一定の条件下で、システムがドライバーに代わって運転操作を行うことが可能となる。この技術と車両についても、本稿で順次紹介していきます)
2021年3月4日、ホンダは「レベル3」に相当する自動運転技術「Honda SENSING Elite」を搭載したレジェンドを発表、限定100台で発売開始した。近々本稿で紹介します
これらの経験を通じて感じたことは、公道でレベル4以上の技術を使いこなすルールづくりの必要性でした。日本では道路交通法や道路運送車両法などにはじまる法律の改正、さらには自動運転を行なう車両との既存車両とのコミュニケーションが課題として挙げられます。
■「自動運転車両」と「人」と「非自動運転車両」との意思疎通
具体例で考えてみます。狭い道でのすれ違い(離合)シーンに直面した、または信号のない横断歩道を渡ろうとしている歩行者を発見した、こう想像してください。ほとんどのドライバーは、対向車のドライバーや歩行者とのアイコンタクトを通じて意思の疎通を図っているはずです。無意識に行なっている場合もあるでしょう。
レベル4以上が大多数となる自動運転社会が訪れた場合、対向車のドライバーや歩行者は、自動運転のシステムと意思の疎通を図ることになります。この克服は難題です。仮に、レベル4以上の自動運転車両に同乗者がいたとしても、運転操作のほぼ100%を、緊急時を除いてシステムが行なうため、オーバーライドが行なわれるまでには、やはりシステムが意思の疎通相手となるわけです。
とはいえ、いつでもどこでも、レベル4以上の車両が機能をONにして走行しているとも限りません。また、仮に20年後にレベル4の技術が法的に認められ、公道走行が可能になったとしても、現状8000万台以上存在する日本の自動車社会にあって、レベル4以上の車両と遭遇する確率はとても低いと想像できます。
その上で、逆算すれば2021年はレベル3以上の車両とのコミュニケーション方法を考え始める絶好のタイミングです。
技術は進化を続けます。しかし、使いこなす側の我々には技術レベルの向上と共に、自動運転システムとの共通言語の構築や運用していくためのルール作りに取り組んでいく必要性があるのです。
「もっと便利に、快適に、そして安全に」。
真の自動運転社会が目指す世界がここにあります。
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