トヨタ GRヤリス 「最高に楽しい4WDスポーツ」の専門家レビュー ※掲載内容は執筆日時点の情報です。

山田 弘樹
山田 弘樹(著者の記事一覧
自動車ジャーナリスト
評価

5

デザイン
2
走行性能
5
乗り心地
3
積載性
3
燃費
3
価格
4

最高に楽しい4WDスポーツ

2024.3.22

年式
2020年7月〜モデル
総評
モータースポーツの現場で「壊す・直す」を繰り返して鍛え上げられた進化型は、まさに公道を走れるラリーカー。今回のエボリューションで1.6直列3気筒ターボは、そのパワーがGRカローラと並ぶ304PSまで向上した。しかしその速さを楽しみながら、アマチュアでも高度な運転が学べる懐の深さを持つのが、進化型最大のセリングポイント。その柱となるのは変速レスポンスに優れる8速ATの採用と、駆動系の進化、そしてボディ剛性の向上だ。
満足している点
室内ではシートポジションを25mm低め、インパネをメーターと連結しセンターパネルをドライバー側へ15度傾けた。外観ではフロントバンパーのグリルをスチールメッシュ化して耐久性を上げ、バンパーサイドを3分割してクラッシュ時の補修時間短縮とコスト低減を図った。またリアバンパーも同様の理由でバックランプを移設し、放熱性と空気抵抗低減を図って下部をメッシュタイプにするなど、走るための細かい改良が徹底的になされた。
不満な点
スーパー耐久の経験から採用されたインパネは後付け感が強烈で、賛否が分かれるだろう。個人的には「究極のヤリス」として、あくまでヤリスの内装ベースで良かったのでは? とも思う。8速ATのギア比がクロスレシオ化されている割に、体感的には加速が6MTを圧倒的に上回るものではなかったのが少し残念。むしろトルコンATベースで同等の加速力を持ち、状況次第では6MTよりも変速スピードが早いことを評価するべきなのかもしれない。
デザイン

2

張り出したフェンダーは斜め前からのアピアランスがとてもグラマラスだが、真後ろから見ると、ベースが小さなヤリスということもあり、その見た目はかなり子供っぽい。端的にアグリーと言って良いデザインだと思うが、それこそがWRカーの血を引くコンペティションマシンの証。だからGRヤリスがモータースポーツのベース車両であり、そこに魅力を感じているなら問題ではない。機能最優先のデザインに萌えるユーザーもいるはずだ。
走行性能

5

ウェット路面のサーキットでしか試乗していないが、極めて緊張感の高い状況でも非常にコントローラブルで乗りやすかった。ボディ剛性の高さから足周りがしなやかに動き、ブレーキングでフロントタイヤに適切な荷重を与えられる。ターンインではヨーモーメントを使って向きを変え、操作性の高い「GRABEL」モードの前後トルク配分(53:47)によって、その曲がり量を気持ち良くコントロールすることができる。その走りは感動的だ。
乗り心地

3

クローズドコースのみの試乗だったので、オープンロードでの乗り心地は不明。足周りの剛性は従来よりも上がっているとのことで、可変ダンパーもないため、その乗り心地は結構ダイレクトだと思われる。しかしボディ剛性も高まっているので、路面からの入力はきちんとダンピングされると思う。対してサーキットでの乗り心地は、とてもしなやか。走らせる上での快適性が高いから、それが良好な操作性につながって、走るのが楽しくなる。
積載性

3

トランク容量は174Lと、ベースとなるヤリス(270L)に比べて大幅に小さい。その理由は奥行きがヤリスよりも少し短く、かつ開口部とラゲッジフロアがフラットになっているから。逆に荷室幅は広く、浅くて平べったいトランクだ。6:4分割可倒式シートも備えるが、家族4人と荷物を満足に載せられるスポーツカーとしてはGRカローラやシビックに軍配が上がる。とはいえこのコンパクトさだからこそ、GRヤリスはラリーカーとして成立するのだ。
燃費

3

前期モデルのWLTCモード総合燃費は13.8km/Lだったが、6MTモデルで12.4km/L、8ATモデルでは10.8km/Lと燃費は少し下がった。これはまず最高出力が272PSから304PSへ、最大トルクも370Nmから400Nmへと引き上げられたことや、ギア比の影響が大きいのだろう。ちなみに190kg重たいGRカローラは12.4km/Lで、2リッター直4ターボのシビック タイプRは12.5km/Lだ。それだけGRヤリスは走りに振っていると言えるだろうか。
価格

4

前期型RZは396万円。RZ“High performance(ハイパフォーマンス)”は456万円だった。対して現行6MTモデルはRZが448万円(+56万円)、RZ“High performance(ハイパフォーマンス)”が498万円(+42万円)。そしてGR-DAT(8AT)モデルのRZが483万円、RZ“High performance”が544万円となった。8ATは6MTに対してRZで35万円、performanceで46万円高となる。原材料費の高騰と進化の内容を考えれば、むしろ恐るべき適正価格か。必要なのは安定供給だ。
山田 弘樹
山田 弘樹
自動車ジャーナリスト
自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦。この経験を活かし現在執筆活動中。愛車は86年式のAE86と95年式の911カレラ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員
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