徳大寺さんが歴代国産車の中で最もお気に入りだったのは初代ジェミニなのですか？

Question

徳大寺有恒さんは初代いすゞジェミニがものすごくお気に入りで、ジェミニ発売当時に出版されたご自身が書かれた「間違いだらけのクルマ選び」の中では、ジェミニは素晴らしいクルマであると大絶賛していたそうです。徳大寺さんが歴代国産車の中で最もお気に入りだったのはジェミニなのでしょうか？

Answer 1

歴代国産車の中で一番ということはないと思いますが、"間違いだらけ～"を書き出した時点の国産車で、徳大寺さんの評価基準であるVWゴルフに近いスタンスの車はジェミニ(GM・Tカー＝オペル・カデット他)ぐらいしかなかったはずです。ヨーロッパ、もっと言えばドイツの自動車観で作られた車は。確かに初代ジェミニは"自動車のふしぎ"みたいな児童書でメカニズムの図解に起用されるほど、素直な設計の良い車ではありました。しかしそれ以上に、他に誉められる、評価できる車がなかったということなのだと思います。加点法というよりは消去法の結果だったと。

良くも悪くも当時の国産車は、フワフワの足回りや操縦性、反応の遅いブレーキなど、アメリカ車の出来の悪いミニチュアのような車ばかりでした。トヨタや日産はもちろん、今や車好き御用達のマツダや富士重工も例外じゃありません。特にマツダ車は、"ロータリー云々以前に、エンジンに対してボディや足回りが弱過ぎる。もはや乗り物として危険だ"とまで書かれていました。マツダ車が今のようにドイツ車化して行くのは、80年代に入ってフォードと提携してからです。富士重に対しては"スバル1000の合理主義はどこに行った"と。確かに当時のスバル車は、軽自動車のレックスに至るまで、アメリカの流行におもねたコークボトル調の車ばかりでした。

シビックにしても排ガス対策は優れていたものの、ただ表面的に2BOXのボディを真似たに過ぎませんでした。軽自動車にしても、やたら高回転に振ったエンジンばかりがもてはやされ、車としてのバランスを欠いていたのです。だからこそ、"間違いだらけ～"の登場にはインパクトがあった。"徳大寺有恒"というペンネームも、今でこそやれ巨匠だなんだと言われてますけど、元々はこの場限りの捨て名だったことは明らか。日本の産業界のトップに楯突く、危ない告発本だったんです。

そんな最初の"間違いだらけ～"が出た後にダイハツが初代のシャレードを発売し、"トヨタのお下がりで車を作っているのならダイハツの看板を下ろせ"と書いていた徳大寺さんも、"メーカーとしての存在意義を示した"と絶賛しました。長期テストを兼ねて弟さんにシャレードをマイカーとして使ってもらい、その経過を折に触れて歴代の"間違いだらけ～"に書いていましたが、少なくとも10年はノートラブルで乗り続けられたようです。あと、自身がお金のない時に中古で乗っていたというフローリアンも、ボディ設計…今で言うパッケージングに限っては高く評価していました。いざ走り出すと古くて古くてどうしようもなかったそうですが…。

質問者からのお礼コメント

非常に詳しいご回答をありがとうございました。当時の実情がよく分かりました。