1980年代を代表するホットハッチ2台
1980年代のホットハッチは、本当に小柄で素速かった。数10年を経て再び試乗してみると、現代のクルマの変化ぶりに驚かされる。一周回って、当時以上の魅力を感じるのは筆者だけだろうか。
【画像】オーバーステアか四輪ドリフトか プジョー205 vs シトロエンAX 両ブランドの最新コンパクトも 全126枚
その頃の自動車ジャーナリストは、すばしっこい走りを称賛した。機動性の高さは、余計なモノをまとわない軽さから生まれていた。乏しい安全性と、表裏一体といえた。
胸のすくような走りは、事故のリスクが高いことも意味した。その事実を問われた企業は考えを改め、ボディは硬く重くなり、シャシーはアンダーステアへ調整された。その結果、現在まで生き抜くことができた少数は、一目置かれるクラシックになった。
今回比較した2台は、1980年代を代表するホットハッチだ。共通する面白さを備えるが、中身は異なる。ステランティス・グループの前身、PSAグループとして2社が同じ傘下へ入り、コンポーネントの多くを共有するものの、別々にデザインされている。
その後、プジョー205よりひと回り大きい306は、シトロエン・クサラのベースになった。シトロエンAXの後継モデル、サクソは、プジョー106と兄弟モデルになった。
ホットハッチで特に重要なことは、軽さだろう。シトロエンAXの車重は、発売当時640kgしかなかった。最高出力の高いエンジンの獲得に合わせて、改良が加えられたAX GTでも、722kgに留めていた。
ちなみに、1275ccエンジンを積んだオリジナルのBMCミニ・クーパーも、約650kg。現行のミニ・クーパーは、1.3tを超えている。
フランス版ミニ・クーパー的な内容
プジョー205の発売は、1983年。フロントはマクファーソン・ストラット式だが、リアにはトーションバーとトレーリングアームを組み合わせ、ダンパーを水平に組んだ特殊なサスペンションを備える。後に、PSAグループのプラットフォームへ進化した。
エンジンは、シングル・オーバーヘッドカム(SOHC)の自然吸気・直列4気筒で、翌1984年には1.6Lの205 1.6 GTIが登場。ハッチバックとして完成度は高く、1990年に、1980年代を代表する「カー・オブ・ザ・ディケイド」へ選ばれている。
同時期のシトロエンも小さなホットハッチ作りには熱心で、1985年にAXの前身モデル、ビザへGTiを設定。205 1.6 GTIと同じ、1580ccのインジェクション・ユニットで武装した。
しかし、1986年にまったく新しいAXを発表。1360ccのオールアルミ製TU3型4気筒エンジンを搭載し、ツインチョーク・キャブレターを載せ、フランス版ミニ・クーパーといえる内容に仕上がっていた。
1988年に追加された、AX GTの最高出力は86psと控えめに思えるが、オリジナルのミニ・クーパーSより10psも高かった。ボディのスチール材は厚くなく、樹脂製のテールゲートを採用。そもそもサイズが小さく、軽い車重には不足ない馬力といえた。
高性能仕様として、205 ラリーと同じ1.3Lエンジンにツイン・キャブレターを搭載した、AX スポーツが1991年に登場。タイトなエンジンルームへ押し込むべく、吸気マニフォールドは専用設計で、エアフィルターも小さく、馬力は若干落ちていたが。
シリアスなラリー・ホモロゲーション・マシン
AXは1991年にフェイスリフトを受け、環境規制に合わせて触媒コンバーターを導入。ツインキャブからインジェクションへ、アップデートされている。その時に投入されたAX GTiには、100psの最高出力が与えられた。
AXのバリエーションは数え切れないほど多いが、1992年から1994年にかけては、四輪駆動のピステルージュ4WD 1400も投入されている。その開発には、フランスのダンゲル社が関わっていた。
その後、AXは1991年に発表されたプジョー205の後継車、106の兄弟モデルとして統合。シトロエン・サクソへモデルチェンジされている。
一方で、プジョー205 ラリーが投入されたのは1987年。英国仕様の場合、AX GTへ近いエンジンが載っていたが、ブロックはスチール製。最高出力も、欧州仕様より10ps低かった。
基本的には、スポーティなホイールとトリコロールのストライプで仕立てられた、205 XTといって良かった。ドイツ仕様では1.9Lと、また別のエンジンを積んでいた。
しかし、それ以外の市場には本物の205 ラリーが投入された。ツイン・ソレックスキャブレターは、後にウェーバーへ変更されるが、アルミニウム製ブロックを採用した4気筒エンジンの排気量は1294cc。ベースとなったのは、TU24ユニットだ。
75x73.2mmのボアストローク比を持ち、6800rpmで103psの最高出力を叶えていた。ブレーキとサスペンションは、1.6 GTIからの流用。シリアスな、ラリー・ホモロゲーション・マシンだった。
適切なパワーオンも不可欠なバランス
インテリアからは無駄が省かれ、ナンセンスではないほどに質素。シートも1.6 GTIと同じアイテムだが、軽量な専用カバーが表面を覆う。メーターは可読性の良いイエーガー社製で、サイドウインドウの上下は手動。重くなるラジオは省かれている。
歴代のプジョーで最高のホットハッチといえば、205 1.6 GTIかもしれない。117psの最高出力に、900kgの車重。パワーウエイトレシオは129ps/tと、頼もしい数字が並んでいる。
対する205 ラリーは、103psとパワーは劣るものの、車重は790kgと軽量。130ps/tと、僅かに勝る。
パワーの発生プロセスも、より熱狂的。ほぼ瞬間的にフロントノーズは向きを変え、確かなフロントタイヤのグリップで、一層鋭く加速する。
リアアクスルには、パッシブ・リアステアを叶えるべく、巧妙にラバーブッシュが組み合わされている。コーナーの入り口でテールにきっかけを与えるか、アクセルペダルを緩めれば、ステアリングホイールの操作は最小限で済む。
右足の加減で、ニュートラルへ戻すことも、オーバーステアへ持ち込むことも自在。リアタイヤが、積極的にコーナリングを助けてくれる。FFになった、2代目ロータス・エラン M100の挙動にも似ているが、よりスムーズだ。
ただし、その姿勢変化を抑えるために、適切なパワーオンも不可欠。濡れたヘアピンで急にアクセルペダルを戻すと、予想外にテールが流れる可能性はある。少し速度域の高いカーブでは、内側のリアタイヤが浮き上がることも珍しくない。
この続きは、プジョー205 vs シトロエンAX 比較試乗(2)にて。
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